総合的学習指導案
環境教育で育てたい子どもの姿
土器づくりや火起こしなどの体験学習を通して、自然と共に生きた縄文時代の人々の知恵と心に触れ、自然環境を大切にする心をもつ。 |
T 主題名 縄文人の知恵と心に触れよう ― 体験学習を通して
U 主題設定の理由
1 教材の本質的な指導内容
縄文時代は、今から12000年前に始まり2300年前まで、1万年続いた。縄文時代に生きた人々(以下、縄文人)は、
自然の恵みを存分に受け、狩猟・採集・漁労を生業の中心としていた。
縄文時代に最もよく捕獲されていたのはイノシシやシカである。山梨県金生遺跡ではイノシシの幼獣が一個体そのまま発見された。これは、食用としてではなく埋葬・供養されたことと考えられる。シカは食用として肉はもちろん毛皮は防寒などに使われた。さらに角は石器製作の道具や釣り針など材料に使われた。シカは実に利用価値が高かった。宮城県前浜貝塚ではイヌが人間と並んで埋葬された例が発見されている。狩猟に欠かせないイヌは家族同様の扱いを受け、最後は飼い主の脇に葬られたのであろう。一緒に生き、家族を支えたイヌに対するやさしさ、愛情が伝わってくる。
イヌ・イノシシなど形どった動物形土製品もたくさん発見されている。動物形土製品や狩猟の様子を描いた土器は単なるおもちゃではなく、豊穣を祈る大切な道具だったと考えられる。
縄文人にとって自然は豊かさをもたらしてくれる存在であると同時に、恐れられる存在でもあった。自然が不安定だからこそ必要とされた様々な祈りは、自然に対する不安の気持ちの裏打ちであり、畏怖する心へとつながる。このような自然と向かい合う縄文人の姿勢を、ある学者は「縄文姿勢方針」という語を用いて表現している。
縄文時代の貝塚や遺跡からは哺乳動物・鳥類・魚介類・植物性食料など500種類以上の食料が発見されている。多種多様な食糧資源を分け隔てなく利用して安定を図っていた。特定の種類を乱獲しないで生態系の維持にもつながっていたと考えられる。狩猟・採集・漁労において身近な自然と向き合い、生活の舞台としていた縄文人にとって自然を壊すことは致命的であった。豊穣を祈りながらも、自然との距離を認識しながら暮らしていた縄文人の感覚を大切にしたい。
最近の研究では「自然の社会化」という言葉が使われる。有名な青森県三内丸山遺跡では、集落の周りに栗林があったことがわかっている。しかもDNA分析によって、この栗林は栽培され、管理された可能性が高いと指摘されている。多くの人間が居住する大集落を維持していくために、自然の恵みを受動的に受け入れるだけでなく、積極的に自然界に働きかけている。縄文人のアク(灰汁)抜き技術は、生では食べられないトチやドングリの食料化に成功した。また、漆技術にしても漆の種類を選別して優良な品種に改変していったという研究がある。野生の自然をうまくコントロールし自然の恵みを得る考え方や技術があった。
このように縄文人は自然のしくみをよく理解し、春夏秋冬、四季折々の変化を敏感に捉え、南北に長い日本列島各地の風土に適合した「縄文カレンダー」を、その土地、土地で作り上げていった。いつ、どこで、何がとれるのか、旬の時期を逃さず、多様な食料を効率よく利用する。そして場合によっては自然界に働きかけて必要な分を分けてもらう。「自然の社会化」という表現されているこうした事実からは、自然環境に最もふさわしい技術と工夫が伝わってくる。
縄文時代を一方的に賛美し、ユートピアのように捉えるわけにはいけない。しかし、「自然知」とも呼べる人と自然との密接な関わり方に現代人も多くのことを学べるのではないか。
2 児童、地域の実態
西小学校区は富岡市のほぼ中央に位置する。校区は七日市と黒川の2地区からなる。校区を挟んで南には鏑川、北には高田川が流れ、北部には美しい丘陵がある。校区には、前田藩陣屋跡に建てられた県立富岡高等学校や蛇宮神社、一峰公園、市立図書館、生涯学習センター、上信電鉄の2つの駅があり、社会環境に恵まれ、落ち着きのある地域である。蛇宮神社には富岡市上黒岩から出土したオオツノシカの化石骨が神宝として大切に保存されている。オオツノシカは更新世まで生存しており、旧石器人の狩猟動物である。
昭和49年の校庭拡張工事に伴い、学校敷地内にあった富岡5号古墳の発掘調査が行われ、人物埴輪・形象埴輪など多数の遺物が発見された。現在、埴輪の写真が校内に展示されている。
また、西小学校の南、鏑川の右岸の高瀬丘陵から突出した尾根上には「中高瀬観音山遺跡」がある。弥生時代を中心として、各時代にわたる遺構や遺物が発見されている。縄文時代では前期の集落遺跡が発見された。石器が多量に出土し、在地の原石や長野方面から運ばれた黒曜石を使って石器製作が行われていたことがわかった。1994年に国指定史跡となった。
本校の児童は、明るく素直な子が多い。保護者や地域の方は子どもの教育に対して大きな関心をもち、学校の教育活動に協力的である。
3 指導観
今日、国際化、情報化、環境問題への関心の高まり、高齢化・少子化など社会の様々な面での変化が急速に進んでいる。これらの社会の変化は、子どもたちの教育環境や意識に大きな影響を与え、教育上の様々な問題を生じさせると思われる。
このような変化の激しい社会において、主体的に生きていくためには、自ら考え、判断し行動できる資質や能力を重視していくことが重要となってくる。そして、そのためには学校教育において、これまでの知識を一方的に教え込むことになりがちな教育から、自ら学び自ら考える教育へと、その基調の転換を図る必要がある。子どもたちの個性を生かしながら、学び方や問題解決などの能力の育成を重視するとともに、実生活との関連を図った体験的な学習や問題解決的な学習にじっくりと取り組むことが重要である。こういった経緯から、「総合的な学習の時間」が創設された。この時間で、自ら学び自ら考えるなどの「生きる力」を育てることをめざす。
今回、総合的学習として「環境」をテーマに設定した。そして直接体験に基づく子どもの実践力と実感力を育てることを目的に単元を開発した。縄文時代に生きた人々に注目した。
縄文時代は、人間同士が集団で殺し合うことをしなかった時代である。すでに述べたように、縄文時代は自然と人間が共存した時代でもあった。縄文人は、自己と他人の命の尊さを見つめただけでなく、自然界の木や草、動物の中にも命の尊さを見つめていた。自然界の生きとし生けるものの命にひそやかな畏敬の念を感じ、命の大切さを実感していたのである。縄文人は、自然との間に生き生きとした命の交流があった。その交流は、現代人が忘れているものである。
この縄文人の自然への畏敬の心、自然環境に対するやさしさに子どもが気付き、身近な環境の中で「自分にどのようなことができるか」を考え、よりよい生き方を求めて実践しようとする意識を高めることが、本単元のねらいの一つである。環境についての関心と実践力を育てるためには学び方を学ぶ必要がある。ものづくりなど文化体験をするのが、もう一つのねらいである。そのために縄文人の生きた自然環境を調べたり、製作活動や生産活動を取り入れ、縄文人の衣食住の生活が体験できるようにしたい。
また、文化施設の職員とTTを実施することも考えられる。群馬県埋蔵文化財調査事業団や群馬県立自然史博物館などの文化施設に行って見学したり、そこから講師を招き、より専門である考古学や生物学の見地から講話をしたもらったりする。講師の話を聞き、専門の研究の一端に触れたり、講師に製作活動を支援してもらったりすることで、より追求活動が深められ、新たな学習への意欲を高められると考えられる。TTが実施できなくても学校単独で、施設の設備や展示物を用いて授業を行ったり、実物資料を借りて教室に持ち込み、火起こしや石器で魚や肉を切るなどの体験学習を組み合わせることもできる。こうして、文化施設との連携による、多様な教育活動を展開できると考えられる。
V 単元目標
1 内容知
・縄文人が自然環境に働きかけ、食料を採取する工夫や努力をしていたことに気付く。
・耳飾りや土偶の役割を考えることにより自然と共生した縄文人にとって自然は恐れと尊敬の対象であった
ことに気付く。
2 方法知
・縄文土器や土偶、縄文料理づくりなどをして、縄文人の生活を実体験する。
・自然の恵みを受けたり自然界へ働きかけたりする縄文人の生活を演技や演劇で表現する。
3 自分知
・自然と共に生き、環境を大切にする気持ちをもつ。
・自然と共に生きていくために自分にできることを考えようとする意識をもつ。
W 指導計画 (全25時間予定 本時は第13・14時)
| 段階 |
時間 |
学 習 活 動 |
学習形態 |
教材・教具・協力者 |
ふ
れ
る
B
|
2
1
|
@全員が共通体験を行う。
・火起こしの方法について説明を聞く。
・火起こし体験をする。
A縄文人の生活を知る。
・「衣食住」の生活や祭りを知る。
・縄文時代の環境について話を聞く。 |
一斉
↓
個別
一斉
|
埋蔵文化財調査
事業団より火起し
を借用
VTR、紙芝居
|
つ
か
む
C |
1
3
|
@個人の課題を立てる。
・火起こし体験やVTRの視聴などを元に縄文人の生活に
ついて個人で課題を立てる。
・学級内で同一課題を立てた児童同士がグループになり、
課題に対して見通しをもつ。
A課題グループ分けを行う。
・同一課題を持つ児童をグループ分けする。
・各グループごとに調べていく計画を立てる。 |
個別
↓
グループ
グループ |
学習カード
|
調
べ
る
・
活
動
す
る
I
|
10 |
@計画にしたがって調べていく。
〈予想される児童の活動〉
(1)どんな住居に住んでいたのか。
(2)何を食べていたのか。
(3)どんな服を着ていたのか。
(4)どんなものを身に付けていたのか。
(5)縄文人と現代人との体格の違い。
(6)どんな仕事をしていていたのか。
(7)縄文土器の作り方。
(8)縄文土器の紋様やその意味。
(9)縄文人が生きた環境について。
(10)食料の調理の仕方。
(11)どんな道具を使っていたのか。
(12)縄文人の祭りについて。
(13)村の人口はどのくらいか。
(14)どんな言葉を話していたのか。
(15)現在の生活に通じたり、似ているものはないか。など
A調べる活動と共に製作活動や生産を活動を行い、縄文
人の生活をが実体験をする。
・「衣」の生活
編布(アンギン)の試着
製作(編布、耳飾り、勾玉)
・「食」の生活
縄文料理作り
製作(縄文土器、磨製石器)
石臼による製粉
・「住」の生活
竪穴住居を建てる
石斧による木の伐採
・祭祀
製作(土笛、土鈴、土偶) |
個別
↓↑
グループ
グループ
↓
個別
|
埋蔵文化財調査
事業団より講師を
招く
|
ま
と
め
る
G |
8 |
@発表会(運動会や学習発表会)に向けての計画を立て
準備を行う。
・今までの学習で自分たちが調べたこと、聞いたこと、体
験したことを身体を通して表現する。
A発表会を行う。
Bこれまでの学習の感想等をまとめる。 |
個別
↓
グループ
↓↑
一斉
個別 |
参考 リズム構成を
創る会 ’97作品
「ふりむけば花びら」
発表の場を設ける
・運動会、
・学習発表会 |
X 本時の学習
1 ねらい
縄文人の道具の役割やその道具に寄せる思いを考えながら、製作活動を行うことができる。
2 準備 (児童)学習カード(ノート)、振り返りカード、新聞紙、タオル、ヘラ、竹管、竹串、縄、きり、やすり
など
(教師)掲示用資料、実物資料、リーフレット(道具製作の方法)、新聞紙、タオル、粘土、ヘラ、
竹管、竹串、縄、ろうせき、きり、やすり、紙やすり など
3 展開
| 過程 |
学 習 活 動 |
形態 |
教 師 の 働 き か け |
導
入
5
分 |
1 学習課題を確認する。
縄文人になって道具作りに挑戦しよう。
2 外部講師を知る。
3 活動の流れ、時間、場所を確認する。 |
一斉
|
本時の活動のめあてを掲示し、めあて確認させる。
外部講師(以下は講師)を紹介する。
活動の流れ、時間、場所を確認させる。
グループごとに講師を活動場所に案内させる。 |
展
開
75
分 |
1 各グループごとに道具の役割や製作の
手順を知る。
2 道具を製作する。
〈予想される児童の活動〉
・土器作り
・土鈴、土笛作り
・土偶作り
・耳飾り
・勾玉作り
・磨製石器作り
|
グル
ープ
↓
個別
|
外部講師の説明が難しい場合、児童に分かるよう
に補助説明を行う。
事前に講師と打ち合わせを行い、製作グループの
種類や人数に合わせて講師を派遣してもらう。
講師が少ない場合は、幾つかの製作グループをま
とめて指導してもらう。
講師とやりとりが活発になるように、教師自らが児
童や講師に質問する。
意欲的に製作している児童を賞賛し、活動に自身
を持たせる。
製作活動が停滞している児童に困っていることを
聞き、相談に乗ったり助言したりして活動の意欲
を高める。
事前に2つ以上の道具の製作を計画したり、時間
に余裕のある児童に次の道具の製作を促す。
活動の終了を合図する。 |
終
末
10
分 |
1 本時の学習を振り返る。
2 振り返りカードに記入する。
3 各グループごとに振り返りカードを発表
する。
4 講師にお礼の挨拶をする。
5 後片付けをする。 |
個別
グル
ープ
|
本時の学習について、次の点で振り返らせる。
@新しく発見したこと、わかったこと
A自分や友達のよかったところ
Bさらにやってみたいこと
講師に対してお礼の挨拶をさせる。
後片付けを指示する。 |
Y 参考文献
文部省「特色ある教育活動の展開のための実践事例集
−『総合的な学習の時間』の学習活動の展開−(小学校編)」 平成11年 教育出版
教育雑誌「総合的学習を創る」 1999年4月、2000年4月 明治図書
教育雑誌「教材開発」 1999年10月 明治図書
群馬県埋蔵文化財調査事業団編「群馬県遺跡大事典」 上毛新聞社
山梨県立考古博物館「チャレンジ考古学」 1999年3月
群馬県教育委員会リーフレット「文化・スポーツ施設と連携した多様な教育活動を進めましょう」
平成9年3月