総合的学習指導案

    
    地域学習で育てたい子どもの姿                    2002/12/30
 民話を追究する活動(調べる・聞く・つくる・語る)を通して、身近な地域の歴史や文化を知るとともに、民話に込められた民衆の知恵、思いや願い、人間らしい生き方をとらえる。

T 主題名   民話は人々の心の糧 ― 民話の面白さを追究して

U 主題設定の理由
 1 児童を取り巻く環境と児童・地域の実態
 子どもの体験・経験不足が叫ばれて久しい。放課後、校庭で遊ぶ子どもが少ない。地域でも、子どもの外遊びをする様子を目にする機会が少ない。子どもは、ゆとりのない生活を送っている。子どもは、放課後や休日、学習塾や稽古事、スポーツクラブ等に時間を使い、自分で自由に選択し使える時間が限られている。また、地域で安全に思いのままに遊べる場所も少なく、限られている。
 子どもたちの遊びの形態や種類に大きな変化が見られる。一昔前なら学年を超えて近隣の異年齢集団で遊ぶ光景がよく見られた。その中で、年長者は年少者の面倒をみ、逆に年少者は年長者になついたものだ。集団遊びの中で、遊び方や遊びのルールが考えられたり工夫されたりして、中には世代を越えて伝承されていったものもあった。現在の遊びといえば、地域差はあると思われるが、テレビゲームが主流といえる。少数の子どもで遊び、群遊びは行われず、遊びの伝承も行われない。テレビゲームやテレビの時間の増加は、子どもの直接体験を減少させる一方で、その間接体験、疑似体験の増加を促す要因となっている。
 家庭を見ると、核家族化が進行している。また少子化の影響で兄弟の数が減少している。それによって、父と子、母と子といった、家族間のコミュニケーションのパターンが限られる。大家族でも、子どもはお年寄りに知恵を問うたり、教えを求めたりしない。一方、お年寄りも何かを教えていると干渉していると思われるのが嫌で遠慮がちになるという。ここには、家族間の多様な関わり方や、世代間で生活の知恵を伝承する姿が見られない。家庭でも文化の継承が途絶えているのが現状である。
 西小学校区は富岡市のほぼ中央に位置する。校区は七日市と黒川の2地区からなる。 校区を挟んで南には鏑川、北には高田川が流れ、北部には美しい丘陵がある。校区には、前田藩陣屋跡に建てられた県立富岡高等学校や蛇宮神社、一峰公園、市立図書館、生涯学習センター、上信電鉄の2つの駅があり、社会環境に恵まれ落ち着きのある地域である。本校の児童は、明るく素直な子が多い。保護者や地域の方は、子どもの教育に対して大きな関心をもち、学校の教育活動に協力的である。

 2 教材の本質的な価値
 冬の夜、囲炉裏端で親から子へ、あるいは祖父母から孫へと「昔々あるところに…」と語られた民話。子どもたちは、民話の中に登場するおじいさん・おばあさん・動物たちを思い浮かべて話に聞き浸る。幾度なく聞く話だが、その度ごとに違った印象を受ける。話は短い。一つの話が終わると、子どもたちは「今度は違う話をして。」と次の話をせがむ。こういう光景が、一昔前には、山里に見られたものである。テレビがまだ一般家庭に普及する前のことである。このようにして、民話は、昔から子ども・孫へと語り継がれていた。
 子どもたちは、いつの時代でも民話が好きである。本嫌いな子も、民話の本ならば喜んで読むことがある。民話には次のような魅力がある。
 民話には、長い時間に磨き抜かれた簡潔平明な語りの面白さがある。そこには、祖先の知恵、生活や風俗、習慣、ふるさとの風土、民衆の思い・願い・あこがれ・戒め、人間らしい生き方が、様々に込められている。更に、耳で覚え、自分の口で語るときに、民話には語り手の思い、願い、想像力が込められていく。民話は日々生活するものにとって心の糧となる。
 民話は、次のような教材としての価値がある。
 @ 民話を体験すること(聞く、語るなどの学習活動)で、民話に込められた民衆の思いや願いに触れて、人間の生き方を考える契機にする。
 A 民話を体験することで、語りの面白さに気づき、表現活動に意欲的に取り組む態度を育てる。
 民話の学習は、文化の伝承につながり、地域文化を関する意識の向上の役割を果たす。民話を音声で表現したり、時には紙芝居など絵で表したりして、民話は表現する教材として適している。また、民話が語られるとき・場所には、世代や年齢・学年を超えて、語り手と聞き手の心の交流が生まれる。
 民話には、様々な定義の仕方がある。ここでは、渋谷勲氏による一つの分類の仕方を挙げる。(参考 渋谷勲著「やさしい民話の語り」(芽生え社))
 1 言葉の解釈としては、
  民話とは、「昔話」「伝説」「世間話」の総称である。
 2 文芸の形式としては、
  民話は、口伝え(ことば)の文芸である。
 3 話の内容としては、
  民話は、遠い昔から伝わるだけでなく、昨日も今日も生まれている話である。
 「口伝え」の文芸であるために、民話作品は多くの類話が存在する。また、現在、昔話集や民話集にある作品は、すべて再話された作品である。同じ作品でも、物語の構成や展開に共通の部分があるが、かなりの違いを見せる部分も見られる。これは、「民話は、昨日も今日も生まれている話」という所以である。

 3 主たる体験活動の意義
 民話を通して、話し手と聞き手の心の交流が行われる。そこには語り手と聞き手の心が一つに融け合った世界が生まれる。民話を通じて、心の通い合いがなされ、人の知恵、人間らしい生き方をとらえる絶好の機会となる。
 まずは、児童は「民話にふれる」活動から始める。教師の語りや語り部の録音テープなどにより、児童が民話を聞く。それはできる限り地域にまつわるものの方が児童の興味を喚起することにつながると思われる。民話は地域の昔の様子や年中行事などを示す貴重な資料であり、現在の生活を映し、振り返させる鏡ともなる。すでに児童自らが、祖父母から民話を聞いたり地域の広報誌に載る民話を読んだりしていることが予想される。
 続いて、民話を通して、課題をつかむ活動である。個人あるいはグループで民話を体験する活動を通して、テーマや学習計画の検討・決定する。
 次に課題の追求に入る。調べる、体験活動を行う。地域に残る古い言い伝えや昔話を発掘する。学校の図書室や地域の図書館で文献を調べたり、インターネットで民話に関する情報内容を検索したりする。また、地域に住むお年寄りの語りを直接聞き、そこで質疑・応答が行われると共に、世代を越えての交流が行われることも考えられる。そこには語り、聞き取りによって新たな民話が生まれる。
 そして、見直しとまとめの活動である。地域・郷土民話の再話・創作活動を行う。採集してきた原話を基に、その作品の構成を保ちつつ、子どもたちが、自らの豊かな想像力によって新たな民話として再話する。子どもたちの発達段階に応じて様々な再話づくりが期待される。まとめとして発表・発信する活動を行う。群読やペープサートや紙芝居などによる学習発表会での発表。朝礼や校内放送での発表。また、自らが語り部となって下級生や低学年児童に民話を語る活動も予想される。さらに学校のホームページや地域の広報誌を通じて学校の外に発信する活動も考えられる。

V 単元目標
 1 内容知
  ・民話の内容や語りの面白さに気付く。
  ・民話に込められた、祖先の知恵、民衆の思いや願い、人間らしい生き方に気付く。
 2 方法知
  ・民話を調べたり、聞いたり、つくったり、語ったりして民話の面白さを体験する。
  ・自分の思い、願い、想像力を込めて民話をつくり、他の人に伝える活動を行う。
 3 自分知
  ・民話を通して、自分の生活や生き方を振り返り、よりよくしようと考えようとする。
  ・地域に残る文化的遺産に目を向けようとする意識をもつ。

W 単元構想図および評価方法  省略

X 参考文献
  高橋俊三監修 荻野勝著「民話の群読指導・細案」明治図書 1996年
  秋田喜代美著「子どもをはぐくむ授業づくり」岩波書店 2000年
  群馬県史 民俗3 年中行事・口頭伝承
  木暮正夫監修 後藤博子・高井恵子著「ふるさとの民話 富岡」あかぎ出版1991年
  橋爪鉄次郎・福原太市・田畑一夫 編「群馬のむかし話」日本標準 昭和52年初版
  日本児童文学者協会編「群馬県の民話」偕成社 1979年初版
 



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