大会名称: 福岡チェスクラブ例会
場所: 福岡、日本
対局日: 1999.10.03
ラウンド: 3
白: T氏 (Rating約1700)
黒: Sayf (rating約1800)
結果: 0-1
持ち時間: 40手60分以下10手15分
オープニング: Sicilian D., Closed var.[B24]
手数: 38手
解説者: Sayf(Fritz v4.01及びCrafty v16.10の解析付加)
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【図−1】 |
これがClosed Sicilian。典型的な変化は、
2. ... Nc6 3. g3 g6 4. Bg2 Bg7 5. d3 d6 6. Be3 or f4
辺りです。白のプランとしては、e4のポーンを生かして、f4ーf5とポーンを押して黒のキングサイドを抉じ開けて潰しに行くのが第一です。
それに対して黒はc5のポーンの勢力を起点としてクイーンサイドへの反撃を志向することが多いです。
白としては、キングサイドの攻めを続行、c3等を指してセンターを補強しつつ黒の攻めを受ける、のどちらに力点を置くかのバランス感覚が問われるオープニングだと思います。
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【図−2】 |
Sicilianでd-pawnを突く前にNge2と指すのをCameleon Moveと呼ぶことがあります。
その所以は、果たしてd4を突くのかd3を突くのか黒には判らないということでしょう。
そうしたd-pawnの突き方に関する選択肢が増えるというメリットもありますが、欠点もあります。欠点は、
・g1のナイトはf3に居た方が攻撃に使いやすい。
・e2はc3のナイトを引くためにも使えるマスで、いきなりつぶすのはちと勿体無い。
といった点です。
この局面に関しては、そうした面よりも、自由にf-pawnを突きたいという発想があるようですが、5. Nge2, o-o, f4と組んだ形を想像するとd1-h5のダイアゴナルの支配が弱くなってしまい、どうしてもf4の前にh3を指してg4のマスを確保するために1手使う必要があります。
代りの手としては、5. d3辺りでしょうか…。
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【図−3】 |
8. h3として、g4のマスの支配を確保してからキングサイドアタックに行くのが自然です。変化例としては、
8. h3 Nd4 9. f4 Nd7 10. f5 b5 11. g4 Bb7 12. Nf4 Be5 13. Kh1 e6 14. Nce2 Qh4 ∞/=
Lutikov - Romanishin, Tbilisi 1979
等のように攻め合う展開が挙げられます。
本譜だと、黒が何らかの駒をd4にはめ込んでアタックの起点にするのが楽に出来てしまいます。
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【図−4】 |
11. Nxd4で白は勝負に出ました。キングサイドアタックのスピードと、g7のビショップの利きが止まっている、というのがその決断の理由だと推察されます。しかし、d4に黒ポーンが残ることと、c-fileが開いてしまうことが問題です。11. f4のほうが堅実かも。
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【図−5】 |
ここで交換が終わって一段落。改めてプランを考える時間です。理想としては、白はf-pawnなどを突いて一気に潰しに行きたいところで、黒は白のいかにも弱そうなc2のポーンをオープンファイルを活用して狙う、がまず考えられます。
局面をゆっくり見渡すと…
・ポーンストラクチャ: 白は現在は多少c2が弱いが、代りに黒もダブルポーンを作っている。ただし、このダブルポーンのうち、d4は現在極めて良く働いているし、d6も今後どう使うかに自由度が有る。黒としてはd4のポーンを残しておきたいし、白としてはd4のポーンは無い方が指しやすい。全体的には、白のほうが自由度の高いポーンストラクチャと言える。
・マイナーピース: c6のナイトの方が、e2のナイトよりも若干使いやすい。しかし、手数をかければ(Kh2-Ng1-Nf3など)、白のナイトにも十分な将来性がある。ビショップはほぼ同じようなものと見て良いと思います。端的にいうと、4ビショップ、どれも目覚しく働いているとは言えない。
・メジャーピース: おんなじかなあ。今後が焦点。主戦場に動かすのを忘れると致命傷になるでしょうが、今はまだ良くわからない。
・キングの安全性: 単純に考えると、h3で崩れている分白の方が悪そうだが、実はe4のポーンが良く効いていて、白のキングがアタックを受ける可能性はほとんど無い。黒は…受けなきゃならないでしょうねえ。
といった感じで、ピースはまだ良くわからない、ポーンストラクチャは、どちらもあやしいところが有る。ということで、どちらもポーンストラクチャの改善を考えて、それにあわせてピースの置き場所を探す必要がありそうです。大体互角ぐらいでしょうか。
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【図−6】 |
白のプランは明確になりました。直ちに黒マスビショップを交換して、一気にアタックを…ということでしょう。しかし、c-fileにピースを置くことは、黒のカウンターアタックを考えるとあまりお勧めできません。
13. c3で柔軟に局面の改善を志向するのが堅実です。
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【図−7】 |
黒の狙いは、センターを封鎖して、後でc-fileをじわじわと制圧することです。白はそれを意に介さず一気に攻めようとしますが、見落としが有ってここで黒若干有利に。
その見落としとは…
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【図−8】 |
17. Bxe4が指せれば特に問題無かったのですが、それでは17... Bxh3のポーンが取られてしまうので、17. dxe4とせざるを得ませんでした。
そして、この17. dxe4の結果、d4のポーンの道が開けてしまい、おまけとして、g1のキングが一時的に剥き出しになってしまいました。
17... Qb6の狙いは、18... d3+としてe2のナイトを掠め取ることです。
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【図−9】 |
c1のクイーンの負担を軽減するために指された手ですが、これでいよいよc2のポーンがにっちもさっちも行かない状態です。19. Rb1と耐えるほうがしぶとい抵抗です。
なんにしても折角差し出された標的を無視することなど黒には許されません。
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【図−10】 |
白は、c2のポーンを支えるのは不可能と判断したのか、お決まりのアタックの実行に遂に踏み切りました。この着手でc2のポーンは落ちることが確定です。
問題は代償としての攻めが決定的かどうか、です。失敗したらもはやゲームは終わりです。
ちなみに、耐える手としては、20. Qd2, 20. a3などが考えられます。
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【図−11】 |
21. f6+と黒に常にプレッシャーを掛ける様にする方が有望です。
21. f6+ Kh8 (21... Rxf6 22. Rxf6 Kxf6 23. Qh6 +/=) 22. c4 =/+ といったところでしょう。
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【図−12】 |
発想としては、攻める側と同じ駒を持って行けば、相殺して、守れるというシンプルなものです。
しかし、効果は絶大で、c-fileの攻めを続行したまま、キングサイドを守りきっています。ここではっきりと黒優勢です。
なお、強欲な21... Rxc2??は、22. fxg6 Qd8 23. Rf7+ Rxf7 24. Qxd8 +- などの崩壊の憂き目を見ます。
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【図−13】 |
c-pawnが落ちることは明らかで、その結果、d4のポーンがパスポーンになることも確定です。綺麗に投げるならこのタイミングでしょう。
以下は、どうやって駒を減らしたか、の記録に過ぎません。
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【図−14】 |
25... Nxa1 26. Ng5+ Kg8 27. Rax1 h6 28. Nf3 Rf8のように、駒を確保した上で、最後の足掻きを受けきって勝つのが正着でしょう。しかし、それを読みきるよりも一切足掻かせずにd4のポーンだけで勝つ方が楽なことも確かです。
以降はこの方針を黒は貫きます。コントロールしやすい局面へと無理やり入っていきます。
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【図−14】 |
c4のマスをきっちり押さえる。
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【図−15】 |
自分に無い駒を残しておくと意外な抵抗で粘られる可能性が有る。
自分にパスポーン、相手に孤立ポーンがあるルークエンディングは容易なことが多い。
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【図−16】 |
34. Kf2 Rc2+, 34. Rxa7 d4など、a2を守りつつ、d-pawnを止めに行く方法はこれしかないが、いずれにしても無理は何処かに出るもので…
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【図−17】 |
最終局面図
コネクテッドパスポーンは止まりません。