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絵本・詩                 NO.4

 

言葉の絵本     NO.2

言葉とは、音であり物質です。

人間と人間との出会いに関わることは、物語や科学にあたります。

人間は物質を感覚することによって、他者からの思いを自分に伝えているのですから、
物質を感覚するその入り口が歪んで入れは、他者からの思いは正確に伝わるはずがありませんものね。

ですから、赤ちゃんや幼児の内に自分の触れる物、聴く物、見る物、嗅ぐ物、味わう物、すべてが気持ちの良い物であると思えるかどうかは、とても大切なことなのです。

 

てん てん てん  わかやましずこ さく  福音館書店   10ヶ月〜大人

てん てん てん。 

てんとうむし。

ぐる ぐる ぐる。 

かたつむり。

ひら ひら ひら。

きいろい ちょうちょ。

ぽっ ぽっ ぽっ。

ほたる ほたる ほたる。

かさっ かさっ かさっ。
あ、これは だれかな。

かまきりだ。

 

10ヶ月過ぎの赤ちゃんにこの絵本を読み聴かせしますと、赤ちゃんの体の緊張が弛むのが感じられます。

幼稚園や保育所で、5月くらいの少し子どもが落ち着いた時期に読んであげますと、「てんてんてん」や「ぐるぐるぐる」のところで、活発な意見が出て、クラス運営が楽になります。

 

まず、てんてんが見えます。                …内容
ついで、てんとうむしの形と方向が見え、         …概念・方向
「てんとうむしだ」と思います。                …意味・音声

まず、ぐるぐるぐるが見えます。               …内容
ついで、てんとうむしかたつむりの形と方向が見え、  …概念・方向
「かたつむりだ」と思います。                 …意味・音声

まず、ひらひらひらが見えます。              …内容
ついで、ちょうちょの形と方向が見え、           …概念・方向
「ちょうちょだ」と思います。                  …意味・音声

まず、内容が部分の形(フォルムの集合)として感覚から意識されます。  ―

ついで、意識の内部から概念と方向が全体の形と方向として響きます。  ―

ついで、肉体から意味が響きます。

つぎに、意識の内部から音声(てんとうむし、かたつむり、ちょうちょ)が響きます。

 

私たち人間の目には、まず、物質界から感覚された、部分のフォルムが見えているのです。
すると、意識の内界から、概念とその方向性が、フォルムの集合をまとめ自分の意識に方向づけるのです。
ついで、物質界を創造している肉体から意味が響き、
再び、意識の内界から音声が響きます。

この、「てんてんてん」という和歌山さんの作品は、内容が概念・方向・意味・音声に結びつく過程を現した重要な絵本なのです。

 

「明瞭な形と、明瞭な方向性を持った絵」 が、和歌山さんの重大な特徴です。

ここで、これまで形と色がはっきりしているから良い絵本の見本だとされてきた、ブルーナのうさこちゃんと比較してみましょう。

わかやまさんのかたつむりです。 ブルーナのうさこちゃんです。

ブルーナには、形があるが方向がないことに気づかれると思います。うさこちゃんは、どの場面でも、固まってフリーズしているのです。

 

子どもにこの絵本を読んであげますと、世話をしてくれる大人や、そばにいる子どもに、積極的な働きかけを行うようになり、それが気持ちのいいものになっていきます。

子どもに響く概念が、生き生きとした方向性を伴っているために、出会った他者の気持ちを支える身体の表現が表出してくるからなのです。

 

でてこい でてこい  はやしあきこ さく  福音館書店 7ヶ月〜大人

だれか かくれてるよ
でてこい でてこい         ―緑色の、はっぱの形から

げこ、げこ、げこ           ―かえる

だれか かくれてるよ
でてこい でてこい         ―赤の、五角形から

ぴょーん、ぴょん          ―うさぎ

だれか かくれてるよ
でてこい でてこい         ―赤の入った黄緑の、斜め右下がりの長四角から

にょろ にょろ にょろ        ―へび

だれか かくれてるよ
でてこい でてこい         ―青い、丸から

があ があ、があ があ、があ があ、があ があ、     ―あひるのおやこ

だれか かくれてるよ
でてこい でてこい         ―朱色の、大きな長四角から

のっし、のっし、のっし       ―ぞう

 

早い子で7ヶ月くらいから読み聴かせすると、手足をばたばたさせて喜びます。

幼稚園や保育所でも、あたらしく入った子どもたちに、この絵本を動きを付けて読んであげますと、体が大きく動き、喜びます。

 

子どもの肉体は、ポストボックス・型落としで観察する限り、1才になると丸を区別できるようになり、1才半で四角を区別できるようになり、2才で三角を区別できるようになります。

しかし、子どもの意識の中では、7ヶ月で丸、8ヶ月で四角と三角を区別しています。

子どもに、これは何色と聞いて、色の区別を答えるのは、2才7ヶ月で黄色、3才で緑、3才6ヶ月で青、4才で赤が標準です。

しかし、子どもの意識の中では、生後20日には黄色、60日には赤、70日には青、5ヶ月には緑、7ヶ月には紫、オレンジ色などの中間色が全て区別されるようになります。

 

色は、意味と深く結びついています。

かえるは、    緑に少し赤が入った色で描かれています。
          出会った他者を自分の意識の力で支える感情を現しています。 また、それは、認識する喜びです。

うさぎは、     純色の赤で描かれています。
          地球上のあらゆる物はそれでいいという感情を現しています。でも、兎はそのことを自分で意識していないためにいつもおどおどしているんですね。

へびは、     黄緑に少し赤が入っています。
          すると、怯えの感情が聞こえてきます。他の人の思考や自分の思考が聞こえてくるとそれに従ってしまう畏怖の感情も現しています。

あひるは、    純色の青で描かれています。
          他者の創造した物がすばらしいなという感情を現しています。

ぞうは、     赤に黄色が入った色で描かれています。
          地球って大きいな、ぞうさんて大きくて力強いな、という感情を現しています。

 

林さんは、この絵本で、A.形と色の提示  B.具体的な物の提示  のパターンで、抽象から具体の過程を繰り返しています。

それは、前掲和歌山さんの「てん てん てん」とは逆の提示の仕方です。
「てん てん てん」では、A`.内容の提示 B`.概念の提示  のパターンで、具体から抽象の過程が行われていたのです。

具体 ←                                          →抽象

    内容・フォルム         概念・形・色・方向        語彙・形・色

  「てん てん てん」→                        ←「でてこい でてこい」
     てん てん てん。       てんとうむし。
                       げこ、 げこ、げこ、      だれか かくれてるよ
                                        でてこい てでこい

人間の意識の過程では、「具体」から「抽象」、「抽象」から「具体」の双方の過程が同時に起こっているのです。

 

1999年9月15日

 

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