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絵画療法における二つの方向性

帰納的方法と演繹的方法

 

右の絵をクリックするとミディで音楽が流れます。

音楽

シューマン 子守唄

9月2日に東京のおもちゃ箱(シュタイナー系のおもちゃの輸入元)で展示会がありました。
 窓辺に透明のアクリル板上に蜜蝋粘土で描いた絵が置いてありいいなと思いました。
 郡山に帰った後、自分でアクリル板上に蜜蝋粘土で描いてみましたが、意識が伸び伸びとしてくる感覚があり、頚椎の詰りがとれてきました。
さっそく小学高学年の子どもたちに教えてみましたが、子どもたちは2時間ひたすら作成していました。
 光に対する憧れが無くなり、意識をまとめようとする努力が消滅していくようです。
その後、自分でぬらし絵を実践してみました。
 これまで、ぬらし絵を実践してみようとする実験は繰り返していたのですが、実践すると自分の意識に激しい反感が起こり、子どもたちに実施しようとは考えられなかったのです。
 しかし、今回は、肩の力が癒される感覚が起こりました。脳梁の緊張が取れていく効果も確認できました。
 前頭葉に緊張がある子どもたちに実践してみたところ、大脳基底核の緊張が取れる効果が起こりました。
 その後、フェルトニードルでチータ、ライオン、キリン、ゾウ、を作りましたところ充実した作品ができました。
 今日は幼稚園の子どもの前で「はしるのだいすき」のお話でテーブル劇をしてみましたが、こどもたちは大変喜んでくれました。

 シュタイナー系の絵画の方法については、これまで多くの疑問を持っていました。
 しかし、生命の肯定を強く感覚しようとする「キミ子方式」の帰納法的方向性と、自分の意識をゆっくりとまとめ地上に実現しようとするシュタイナー系の演繹的方向性が、子どもたちの意識をまとめるための美術的治療教育方法の車の両輪となるという認識が私に起こってきました。

 

T キミ子方式絵画指導法とぬらし絵
左の二つの絵画は、いづれも私が描いたものである。
左は「キミ子方式」の水彩画であり、公園の木を写生し、木の生命の流れを感覚しながら、それを楽しみ、水平の画面に写して描いたものである。全てやわらかい丸筆で描いている。
右は、シュタイナー派の「ぬらし絵」の技法で描いている。画用紙をあらかじめ濡らし、青空のイメージを感じながら青を平筆で描き、茶で幹と枝を描き、緑から黄色のグラデーションで葉っぱを描いている。全て平筆で描いている。
「キミ子方式」では、線や点の集合として面や形が描かれる。
「ぬらし絵」では、面が空間に広がっていく、したがって、お互いに干渉し合う面がぼんやりとした形姿を形作ることとなる。

私は、「ぬらし絵」の方法を、子どもたちや大人に教えてみた。

左上は3才、右上は小学3年生である。
左上の絵に力強い右へ向かうフォルムを感じる。
この絵を描くことにより、前頭葉と大脳基底核と胸椎の緊張がとれてきた。
右上の絵は、黄色がいきいきとしている。黄色は青と赤に浸透しており、青(自我を維持しようとするエーテルの緊張)と赤(他者を支持しようとする生命霊の緊張)の持つ緊張を、黄色(母親に身をゆだねようとするエーテル的意志と本来の認識の萌芽)が癒している。
彼は、この絵を描くことにより、大脳基底核と胸椎の緊張がとれてきた。

下の2枚は大人の絵である。
左下の絵は、青、緑(青と黄)、紫(青と赤)、が繰り返し描かれているが、青(自我を維持しようとするエーテルの緊張)と、緑(主の認識を意識化しようとする生命霊の緊張)と、紫(世間の認識を意識化しようとするアストラルの緊張)が、赤(他者からいい絵だねとほめられていること:支持されていること)と黄色(この場にいる人たちがじっとこの絵の作成過程を聴いていること:敬愛されていること)によって癒され慰められ治療されていることを現している。
右下の絵は、水滴でたらされた青が強烈な印象を与えている。
青(自我を維持しようとするエーテルの緊張)が、赤(他者からいい絵だねとほめられていること:支持されていること)と黄色(この場にいる人たちがじっとこの絵の作成過程を聴いていること:敬愛されていること)によって癒され慰められ治療されていることを現している。

右左下の絵を描かれた方は、扁桃体と足指の緊張がゆるんできた。つまり、リューマチ性の感情の繰り返しが取れてきたのである。

 

U クレヨン画とろう絵

左は、クレヨンを素材に色と線と方向の集合で描いたバラである。
右は、蜜蝋粘土を透明アクリル板に伸ばしながら描いたバラである。
ひかりが透過することによって、特定の色とそれに伴う感情が強められる。
ステンドグラスの効果である。

自分の感情が周囲から(指導者から)肯定されている状況で作成が行われれば、左の「ザクロ」のように感情が安定した作品をつくることができる。
左の作品をつくった子どもたち(小学4.5.年生)は、視床下部の緊張が緩んだ。

この方法には、他者の思考を聞こうとして起こる怯えや緊張(神経症性のチック・貧乏ゆすりや、手足の冷え)を緩める働きがあるのである。

V 硬化粘土による彫塑とフェルトの人形
 上は硬化粘土で作ったゾウである。
針金で骨格を作る。
硬化粘土でヘビを作り、そのヘビを平らに伸ばした粘土板を、針金の骨格の上に巻きつけながら形をつくっていく。
すると、骨格と筋肉の形成をしっかり意識できるようになる。
下は、フェルトで作ったゾウである。
針金で骨格を作り、羊毛の帯を巻きつけて、フェルトニードル(写真右)でひたすら刺していくと、羊毛がフェルト化し固まっていくのである。
すると、肉体の働きが意識化されてくる。
動物のもつ感情が意識の中で明瞭になり、自分の作った動物でその動物の感情を表したお話を子どもや大人に語ることができるようになるのである。
上はわたしがつくった作品である。
左は、「はしるのだいすき」わかやましずこさく 福音館書店
右は、「ぼくにげちゃうよ」マーガレット・ワイズ・ブラウン

のお話を語ることを念頭に作ったものであるが、「ぐるんぱのようちえん」や「らちとらいおん」、「こんこん小山のこうさぎは」など、いくつもの作品が頭に浮かんでくる。

Y 絵画療法における帰納的方法と演繹的方法

「人間のコミュニケーション能力は、他者を自分に正確に伝える能力が基本となる。
自分を他者に伝える能力は、他者を自分に伝えることができてはじめておのずから起こることなのである。」
これがわたしの存在認識・治療教育の根幹である。
したがって、わたしは、「キミ子方式」「クレヨン画」の、生命のもつフォルム、色、方向、をしっかり意識化する、帰納的方法を、私の治療教育の基礎としてきたのである。

シュタイナー系の伝える演繹的方法は、自分を他者に伝えることを目的としている。
自分のかすかな希望が、光となり、光がゆっくりと凝縮し、自分の意識となり、自分の意識が拡散し、ゆっくり人類の意識となって凝縮し、生命現象として地上に現象し、生命が凝縮し、物質が地上に現象する。

「ぬらし絵」は、光が凝縮し自分の意識になる過程、
「ろう絵」は、自分の意識が人類に向かって拡散する過程、
「フェルト」は、生命が凝縮し物質となり、物質をまとい動物として現象する過程を現している。
自分を他者に伝えるということは、これほどまでにゆっくりした過程なのだ。

自分の、「自分を他者に伝えようとする」努力・緊張・あせりから、鬱病、分裂病、神経症、脳性麻痺がおきてくる。
そして、「自分を他者に伝えようとする」努力・緊張・あせりから、「他者を自分に正確に伝えられなくなる」コミュニケーション障害(自閉症、リューマチ、痛風、行為障害、神経症、分裂病、ADHD)が起こる。

以上の認識をもって、帰納的方法をベースに演繹的方法を織り交ぜて絵画療法を行えば、治療教育者は、より有効な結果を見出すことができるであろう。

2003年9月25日


千葉義行

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