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聴くことが開かれる日

 

音楽

林 光 ピアノのための48のうたより
青い空と白い雲のうた

右の絵にカーソルを合わせますとミディで音楽が流れます。

先日、ある保健センターで、幼稚園に入る前の子どもたちとお母さんのための子育て 教室の講師に呼ばれました。
子どもが12名お母さんたちが10名くらい集まっていました。

講師紹介の後、 私は、グロッケンシュピール(鉄琴)を取り出して、ソソラーソー、ソソララソー、 ソソラーソー、ソソララソー、と鳴らしました。
つぎに、同じ音で、ととけっこう、よがあけた、まめでっぽう、おきてきな、おはよ   と歌いました。
すると、1才2才3才児が身を乗り出して聴いているではありませんか!
そのあと、一人一人の子どものところへ行き、一人一人の子どもたちに対してうた い、握手をしました。
そのあと、おかあさんがたにお子さんを抱っこしてもらって、 「まあるくなあれ、まあるくなあれ、いちにのさん、……おおきくなれ、 まあるく なあれ、まあるくなあれ、いちにのさん、……ちいさくなれ、」 で遊び、 「いちばちとまった、にばちとまった、……」 で遊びましたが、 子どもたちは大変喜んでいました。
その後、お座りをして、お母さんのお膝に抱っこしてもらい、 「ギッコンバッコンヨイショブネ オキハナミガタカイゾ」などの膝のせ舟こぎ遊 び、 「メンメン、スースー、ケムシニ、キクラゲ、チュ」などの顔あそび、 をしましたが、触られると逃げ出す子どもたちがずいぶんいました。
絵本は「ごぶごぶ ごぼごぼ」と「はしるのだいすき」を読みましたが、全員の子ど もたちが身を乗り出して聴いていました。

子育て教室の後、主宰の保健婦さんが、 「去年とずいぶん違いますね、お母さんたちは子どもにたくさん触っていないのかな あ。」といいました。

「去年のお母さんたちの子どもへの接し方と今年では確かに違うね。 去年は自然に子どもに構っていたという感じで、あそばせ遊びをしても、子どもたち がすんなり身をまかせていたけれど、今年は子どもたちの反応がギクシャクしている ね。
しかし、僕のおうたと絵本の読み聞かせへは、集中して聴いていたね。
さきに、グロッケンで澄んだきれいな音を聞かせたのがよかったんだね。
自分の音だと思ったんだよ、 外から聞こえてきた音なんだけれど、自分の出している音だ!と思えるから安心して 聴くことができる。
それで聞き耳を立てていたんだ。」

 

その翌日、自閉症の子どもたちの訓練施設に、絵画法の講師で呼ばれました。
「たくさんのいろづくり」を8人の4歳から中学生までの自閉症の子どもに教えたのです。

スタッフは「たくさんのいろづくり」の工程を逐次写真に取り、子どもの脇にそろえて置いていました。
子どもたちは、写真の工程と私の進行を逐次確認しながら、「たくさんのいろづく り」を進めるのです。
すると、子どもたちに新しいことが起こることへの恐怖や怯えが起こりにくくなるのです。
父兄にもあらかじめどのように行うか知らされてあり、子どもとともにシュミレー ションを行っての参加でした。

その日、私はグロッケンでソソラーソー、ソソララソー、ソソラーソー、ソソララ ソー、と鳴らし 羊の手人形で、ととけっこう、よがあけた とやりましした
。 ……これは、プログラムであらかじめ知らされていなかったのです。……
主催の先生 には「わらべうたをいれるよ」といってはいたのですが

8人のうち、2人の子がパニックを起こしてしまいました。
知らされていないことが起こったからです。

残りの6人の子どもたちは、それは集中して「たくさんのいろづくり」を楽しみまし た。
そして、そのこどもたちは、写真で工程を確認するのではなく、私の言葉を聴いて、 そのとおりに筆を動かしていたのです。(写真がいらなくなっていました。)

反省会の席上で主催の先生の一言、
「けがの功名で、…… おもしろかったです。」

 

私はこの日、私の言葉を理解できる人々の枠が大きく拡大したことを感じた。

今まで出会うことのできなかったタイプの子どもたちやお母さんたちが私の前に現れ、一対一で私の言葉を聴いている瞬間が起こったからである。

2003年8月25日

千葉義行

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