ドワーフは杯を掲げ


 ――神よ、今日も無事一日を終えることが出来ました。

ジェオは短く祈りの句を唱えると、エール酒を樽ごとぐいっと呷った。


 「仕事前に一杯、仕事中に一杯、仕事後に一樽」とはドワーフに伝わる格言だが
ジェオもそれに洩れず、大量の酒を摂取する。
髭がないことで一部からは「本当にドワーフなのか?」と疑問を抱かれることも少なくないのだが
そんな輩の前でこの酒呑み姿を披露すると、やっぱりドワーフだと一発で納得してくれるのだった。

 ドワーフに伝わる武器のうち、現在のファーメリア大陸で入手可能なものは、全部で4つ。
ドワーヴングレートアクス、ドワーヴンバトルアクス、ドワーヴンハンドアクス、そしてドワーヴンウォーハンマーだ。
しかし、ドワーフで斧を用いる者は掃いて捨てるほどいるが、槌を用いる者はほとんどいない。
槌技は戦士ではなく、僧侶……それも癒し手の操る技とされ、魔力の低いドワーフは癒し手には向いていないからだ。

 ジェオは元々ダングラムの出身だった。
しかし、15年前の戦争で故郷はドルモットに攻められ、戦争後はザイーオンの支配下に置かれてしまった。
これはいい機会だと思った。これを機にダングラムで忘れ去られてしまったドワーフの槌技を追求しよう。
そう心に誓い、ジェオはルクシャへ赴き、やがて冒険者となった。
元々ダングラムの村では、村の伝統に逆らう悪漢扱いされていたこともあり、移民になることに反対する者はいなかった。

 若き日のジェオは、まさしく荒くれ者だった。そして、それを昇華する術を持たなかった。
ドワーフと言えば髭、斧、酒。
そんな固定観念に縛られたくなかった。
そして、同時に、誇りという名の固定観念に縛られてしまった、今のドワーフたちが許せなかった。

 そんな若きドワーフの信念は、髭と斧という点においては成功したと言っていい。
そして、酒も他のドワーフのように浴びるほど飲んだりはしていない……つもりだったのだが。

「……樽ごと酒を飲む時点でドワーフだよねぇ……」

 エルフの少年の呟きに、ジェオは苦笑いを返すことしか出来なかった。

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