されどヒューマンは笑う


 果たして、自分は幸せなのだろうか。
たまにそんな考えが頭を過ぎる。

 平穏な人生を、自分は知らない。
最初の命の恩人に引き取られた後はすぐに冒険の旅に出され。
二人目の命の恩人に拾われた後は、波乱万丈としか例えようのない日々が待っていた。
大半のヒューマンが知っているもの……父の背中の逞しさ、母の腕の温かさを、自分は知らない。

 しかし、次の瞬間、笑みを浮かべる自分に気づく。
確かに、平穏な人生に憧れた時期もあった。
けれど、もう平穏な人生を過ごしたいだなんて思わない。
――自分は充分過ぎるくらい、幸せだから。

 そして、間もなく「幸せ」と感じた自分に対し苦笑いを浮かべる。

 生まれる前に殺されかけた。
 生まれてすぐに、恩人によって冒険に連れ出された。
 そして、恩人とはぐれ、魔物に殺されかけた。
 そんな自分を拾ってくれた、二人目の恩人は魔族だった。
 その後、冒険者になるまで、魔の一員として日々を過ごさざるを得なかった。

――こんな破天荒な人生のどこが「幸せ」なのだろう?

 もしかしたら、自分は狂っているのかもしれない。
きっと自分にとっては破天荒こそ日常で、平穏な生活に放り込まれたらそれこそおかしくなってしまうのだろう。

 ……生まれながらの冒険者、と言うとちょっとカッコいいかもしれない。
そう思って、また笑みを浮かべて。

「こりゃ、死んでも治りそうにないなぁ」

 自分の呟きに、更なる疑問が込み上げる。

――そもそも、自分は死ねるのだろうか?

 その答えは、未だわからない。

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