ニャーミアンは陽気に踊り


 朝起きると、自分の隣で猫が丸まって寝ていた。

……猫と言っても、しなやかな肌をあらわにしたニャーミアンの女性だったのだが。

 
「うわぁああああああ!!!???」


 朝から盛大な悲鳴を上げ、セロカはベッドから転がり落ちた。
無意識のうちに自分の衣服を確認する……大丈夫。一糸乱れぬ……じゃない、一糸まとわぬ姿だ。

「大丈夫じゃないじゃ〜〜〜ん!!!!!」

 錯乱する意識の片隅で、セロカは自分の置かれた状況を冷静に分析し始めた。

 えーと、昨日僕は何かしたっけ……?
エール飲みながら、幸せだなぁ〜なんて考えたところまで覚えてるけど……。
どうやって自分がこの部屋に戻ってきたのか、いつ酒宴が終わったのかさっぱり頭に残っていない。
自分の酒癖が悪いことは相棒から耳にたこが出来るくらい聞かされているから知っている。
でも、自覚はない。

「セロカ殿、一体何が……はあああああああ?!!?」

 朝の勤めを終わらせたジェオが部屋に戻ってきた。
……そして、背のハンマーに手を伸ばした。

「この不埒者! 神に仕える者の前で何たる破廉恥! 成敗致す!!」

「待って、違う! 違うんだジェオー!!!」

 しかしジェオは止まらない。最強の槌技スターストライク(この技を実戦で用いるのはジェオくらいのものだが)をセロカ目掛けて放ち続ける。
必死にセロカもヒーリングLv2で応戦するが、ダメージ量が回復量を軽く上回っている。
……程なく、セロカはミンチに成り果てた。

「全く……酒癖が悪いとはアイーク殿から聞いていましたが、女性を部屋に連れ込むほど酷いものとは」

 ハンマーに付いた血を拭いながら、ジェオは呟き、そして思い至った。
……ジェオが朝の勤めに出て行ったとき、このニャーミアンの女性の姿はなかったし、セロカもちゃんと寝巻きを着ていたはずだった。
……そういえば、アイークはどこへ行った? 朝の勤めに出て行くときにはまだ寝ていたはずだったのだが……。


「……何だ、こりゃ」

 しばらくして部屋に戻ってきたアイークは、惨劇にしばし固まった。
何せ、部屋中血塗れだわ穴ぼこだらけだわ、相棒のエルフはミンチになっているわ、そんな惨劇など露知らぬ顔でニャーミアンの女性は眠っているわ。

「ジェオ……これ、アンタの仕業か」

 アイークはため息を吐きながら、ニャーミアンの女性から掛け布団を引っぺがした。
……掛け布団の下から現れたのは、セロカの寝巻き。ニャーミアンの女性の体の大切なところを隠すように巻きつけられている。

「……ほら、リュシス起きろ。下着とか服とか買ってきたからさ」


 ……話を要約すると、こうらしい。
とりあえずアイークがどこかからか裸の猫(名前はリュシス)を拾ってきた。
眠そうで街中に放っておくわけにもいかないので、宿屋の部屋に連れて帰ってきた(このときジェオは朝の勤めに出ていた)。
自分の布団に寝かせたはずだったが、人肌のぬくもりが恋しくなったらしい猫は、セロカの布団にもぐりこんだ。
そのとき、悪戯心を働かせたらしい猫は、泥酔するセロカから寝巻きを剥ぎ取り、自分の下着代わりに用いた……。

 その後、何故か壊滅状態になった宿屋の部屋の修理代までアイークが負う羽目になったとか。

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