稲妻のように過ぎ去った輝けるあの頃とメガテンの思い出話。
私がいわゆる「メガテン」を詳しく知ることになったのは、1999年の話。
今は亡きアナディメのなりきりチャットでのこと。
某オリジナルキャラでチャットに参加した私を出迎えてくれた、一人のキャラクター。
子供の頃の私は、安易な二元論に疑問を抱くことのない、一人の夢見る少女だった。
確かそれが崩れたのは小学6年生の頃。幽遊白書の魔界の扉編が終わろうとしていた頃。
主人公が今まで従ってきた組織に裏切られ、殺されそうになったという月並みな展開。
……そう、今振り返るとそれは確かに月並みな話で、珍しくも何ともないものだった。
しかし、当時の……よく言えば無垢、悪く言えば無知だった私にとって、それは大きな事件だった。
それから、私は「正義」が信じられなくなった。
「神」とか「光」とか、そういったものに疑いの目を向けるようになった。
絶対に正しいものなんてないのではないか。むしろ闇の中にこそ真実はあるのではないか。
(これは余談だが、幽遊白書でもその後いわゆる『正義の組織』の裏の悪行が暴かれる展開になった。
今思うと、作者殿ははじめから幽遊白書をただの勧善懲悪物語にするつもりはなかったのだろう。
……私はそんな思惑にまんまと乗せられてしまったわけだが)
そして、間もなく私はひとつの物語を空想し始めた。
「神の組織に所属し悪魔と戦う少年と……神に疑問を抱く少年の妹の話」
内容は極めて単純なもの。唯一の正義のためにひたすら「悪魔」と戦う少年と、「悪魔」に同情するその妹。
やがて妹は「悪魔」に人質として囚われてしまうが、そこで神に貶められた「悪魔」たちの真実を知ってしまう。
……つまり、構図が真・女神転生とそっくりだったのだ。
(もちろん、当時の私は「女神転生」というゲームの存在は知っていたが、内容までは詳しく知らなかった)
やがて家にインターネットがやってきて、私は夜な夜なチャットに熱中するようになった。
そして、某所のなりきりチャットで、私と私の分身は一人のキャラクターと出会う。
「真・女神転生」に則する形で創られていたそのキャラクターは、私の分身が語った「安易な二元論に対する疑問」に答えを示した。
……「秩序」に対する「混沌」、「LAW」に対する「CHAOS」……私は、真・女神転生の世界に触れることになったのだ。
そのキャラクターのプレイヤーに薦められ、私は「真・女神転生(SFC版)」を購入した。
悪魔と会話して「仲魔」にするというシステム。「敵=障害・経験値」ではない世界。
私は必要以上に彼らとコミュニケーションを取り、結果属性は自然とLAWに傾き、慌ててガイア教会に大量の寄付を行っていた。
……私にメガテンを教えてくれた人は、「自分はEXTRA-CHAOSだ」と名乗っていた。
もちろん、その人は私にも、CHAOSに属することを期待していたに違いない。
しかし、私の真・女神転生初クリアは……NEUTRALだった。
唯一持っていた双葉社の攻略本にも載っていないルートを、私は自力で、しかも自然と見つけ出していた。
エキドナとハニエルを屠った後、真っ先に銀座の老人のことを思い出していた。
その後間もなく、私はその人から「真・女神転生II(SFC版)」を譲り受けた。
こちらは真Iと同じようなことにならないよう、最初はCHAOSでクリアした。
しかし、その後間もなく残しておいたデータでNEUTRALを選ぶことを忘れなかった。
……ルシファーは潔かった。唯一神なんかより、ザインなんかよりカッコいいと思った。
しかし、それでも私は、完全にCHAOSを理解することが出来なかった。
私はLAWに疑問を抱いた。そして答えを探した。
しかし、CHAOSは「反唯一神」であるだけのLAWにしか見えなかった。
自○党に対する民○党(2005/09現在)と言ってしまえば身も蓋も無いが、ようするにどちらも信用できなかったのだ。
……その後、私にメガテンを教えてくれたその人と私は、袂を別った。
悔いはない。真・女神転生でも、NEUTRALを行く主人公をCHAOSの重鎮悪魔は敵と見なした。それだけだ。
私は今も、中途半端なまま日々を過ごしている。
勧善懲悪を否定するわけではない。ただ、何事も行き過ぎるのは良くないということを知っただけ。
「正義」を主張することは悪くない。ただ、相対する「悪」にも「正義」があることを知っただけ。
物事を一面だけで判断してはいけない。あらゆる面を見て、それから判断することが大切なのだ、と。
多くの時間、多くの出来事を経て、得たものはそんな当たり前のこと。
けれど、それはとても大切なもの。近くにありすぎて見失ってしまいがちなもの。
それに気づかせてくれただけでも、私はその人に出会えたこと、真・女神転生に出会えたことに感謝している。
形あるものはいつか壊れる。命はいつか死ぬ。
あれだけ夢中になった聖剣伝説に失望し、FFに興味を失い、逆にウィザードリィに熱中する自分がいる。
女神転生も私が惹かれた真Iとは大きく異なる代物となった。
しかし、この思いは変わらない。私の分身があのキャラクターに抱く敬意の念も、私が見つけた答えも。
これだけは、確かなこと。