生きている化石


 地質時代に大繁栄をした生物が、現在も何らかの形で生き残っている場合、それを「生きている化石」(遺存種、レリック relict)と呼んでいる。「生きている化石」は学術的には5つに分類されている。

@数量的レリック: かつて個体数(同じ種の生物の数)が多かったかが、その数が減ってしまったもの。
A分類的レリック: かつては多くの類縁種(種属)がいたが、現在ではその類縁種が少なくなってしまったもの。
B地理的レリック: かつてその先祖や類縁種が、広い範囲で生息していたが、現在では限られた地域にだけしか生き残っていないもの
C系統的レリック: 地質時代より、ほとんど進化しないで現在まで生き残っているもの。
D環境的レリック: かつて生息していた環境に適した性質を、新しい環境でも残しているもの。

 以上のようになっているが、実際にはこのようにしっかりと分けられるものではなく、複数の要因を持っているものが大半である。

 「生きている化石」が重要なのは、化石では分からない部分を解明するのに役立つからである。通常化石では、歯、骨格、殻など硬い部分しか残らないため、柔らかい皮膚、内臓、血液などは知ることができないが、「生きている化石」からその情報を補うことができる。また、化石ではその生物がどんな生態(生活の様子)を知ることは難しいが、「生きている化石」を観察することによってそれを知ることが可能なのである。

 最も有名な生きている化石は、シーラカンスであろう。シーラカンスは、古生代デボン紀中ごろから古生代後半に栄え、中生代白亜紀末には絶滅したと考えられていた。しかし、1938年に南アフリカ連邦イーストロンドンの西方沿岸で操業中のトロール船が奇妙な魚を引き上げ、ローズ大学のスミス博士の研究で、それがシーラカンスであることが分かった。その事実は「20世紀の生物学上最大の発見」として世界的な大反響を巻き起こしたのである。


 私たちの身近なところにも生きている化石は存在する。例えば、神社や公園などに普通に見られる「イチョウ」なども生きている化石だし、台所の嫌われものの「ゴキブリ」も、古生代後半からほとんど姿を変えずに生き延びている、生きている化石なのだ。そういった意味であらためて見ていると、健気に生き延びてきたこれらの生物がいとおしく思えるのは私だけだろうか?


主な生きている化石


オウムガイ
古生代カンブリア紀後期(約5億年前)に現われ、中生代白亜紀末(約6,500万年前)には衰えた。アンモナイトのように殻の中にタコやイカのような軟体部が入っている。現在はフィリピンからオーストラリア周辺にわずか6種類しか生息していない。
(標本提供 GEOコレクション)


カブトガニ
古生代シルル紀(約4億3千万年前)に出現した。三葉虫に近縁な動物だと考えられている。現在生息しているのは、3属5種だけである。日本では瀬戸内海や北九州にみられる。


ミドリシャミセンガイ
腕足動物の一種で、古生代カンブリア紀はじめ(約5億7千万年前)に出現し、ほとんど姿を変えていない。日本では瀬戸内海や有明海などでみられ、九州では味噌汁などにいれる具として、市場で売られている。


イチョウ
普段見なれているこの植物も生きている化石で、中生代三畳紀(約2億4千万年前)に出現し、白亜紀まで全世界で繁栄した。しかし、現在では、日本と中国でしかみられない地理的レリックの代表格である。


メタセコイア
1941年三木茂博士が、約200万年前に絶滅した新種の化石植物として発表したこの植物は、のちに中国の湖北省でほそぼそと生き残っている事がわかったという、大変有名な生きている化石である。中生代末に出現し、新生代第三紀に繁栄した。現在は世界中に苗木が送られ、日本でも学校や公園、街路樹などとして植えられている。


参考文献

「生きている化石」 井尻正二 堀田進 築地書館
「地球の歴史24講」 堀田進 東海大学出版会
「原色化石図鑑」 浜田隆士 益富壽之助 保育社
「化石のたのしみ」 若一光司 河出書房新社



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