狂った太陽


 全てが燃え尽きてしまう前に。
 
 「───Dr.…あなたは……何というロボットを造ったのですか。」
 固く閉ざされた扉の向こうへ、クワイエットは届くはずもない言葉を投げかける。明るくも虚ろな笑い声が耳について離れなかった。制作者を同じくするはずの自分さえ全てを見通すことのできない、底知れぬ心の闇が垣間見えるような。
 くるりと踵を返しながらも、想いだけは扉の内へと至る。ようやくのことで取り付けた承諾を逃すわけにはいかない。彼の望む少女を連れてこなくてはならない、と男は地上への道を辿り始めた。
 石の床に硬く跳ね返る足音を追いながら、男はひやりと背筋を伝い落ちるものに頭を振った。クイーンが「気持ち悪い」と評したものが、今頃になって分かったような気がする。
 音井ブランドのコピーとして造られた自分たち。それは同じなのに、彼だけはどこかが違っている。
 『クオータはあまりにもオリジナルに似すぎた』
 でなければ、こんなことになるはずがないのだ。
 彼のオリジナル、A‐O〈ORATORIO〉。
 〈ORACLE〉の為のロボット。
 常に周囲の『敵』を冷酷に観察し、守るべきものに少しでも害を為せば容赦なく抹殺する。
 彼の全てが守るべき者───〈ORACLE〉の為にある。
 ただ一度だけ見えたことのあるそのロボットを思い出して、クワイエットは薄く息を吐いた。しんと冴えた暁の瞳が、底に秘めていた光。それと同じ物を、確かにクオータの瞳も隠している。危うく切ない欲望を秘めたミッドナイト・ブルーの奥に。
 『──もし、俺の想像が正しければ』
 そんな彼に、クオータが似ているのだとすれば。
 たったひとつの、切ない欲望。
 永遠を望んだ至上の存在を亡くしたとき、その精神はどうなるというのだろう。
 
 ────あの中にあるものを確かめねばなるまい。
 
 好むと好まざるとに関わらず、今自分たちを導くのはクオータだ。たとえ狂った引力だとしても、戦闘用ロボットに過ぎない自分たちは、それに逆らうことをしないだろう。その果てにあるのが破滅より他にないとしても。
 だから、とクワイエットは祈るように呟く。
 
 ───早く。
 早く気づいてくれ、誰か。
 
 ただ一人の主亡き後、もう一度太陽を創ろうとしている、あの哀しいロボットに。
 壊れかけたそのこころに。
 ずれてしまった歯車、回り続ける運命の輪に。
 そうして、全てが炎に飲み込まれる前に────
 
 眩しく輝く陽の光が、男の身体を冷たく包み込んだ。