福音〜M〜
誰も皆 泣いている
だけど信じていたい
だから祈っているよ─────
《ORACLE》─────── 人の作りし電脳のアカデミア、知識の巨塔。
そこに神の雷は落ちるか。
どこまでが人に許される領域か、それを決める術は我らの手にはない。
「私はね、オラトリオ。」
静かな何もかもを許すような微笑みを浮かべて。
オラクルが囁く。
「人はより善きものを創り出すのだろうと思っていたよ。」
そのために自分たちはあるのだと、そう誇らしく思っていたのはいつまでだったろう。オラクルは手元に引き寄せた分厚い書籍データをするりと撫でながら呟いた。丁寧に愛おしそうに、けれども哀しげなその手つきは常にないものだ。
「…そうだな。」
オラトリオはその内容を反芻しながら、その暁の瞳を眇める。そこに過ぎる僅かな翳りは本心では男が決して同意してはいないことの現れだった。
ひとつの書籍の形を取った、様々なデータ。
そこには人類の叡智と罪とが同時に書かれている。
それは初めて人工的に作られた放射性元素のことであったり、或いは中枢神経系の覚醒を図る薬物のことであったり。
大小の差はあれ、人の命を奪い人の心を殺し、人を破滅へと導くもの。
人はそんなものをも創り出すのだと、知ったのはいつだったろう。
人の知恵をその宝を、使うために、守るために。
そのために造られたとはいえ、自分たちはそれを良しとすることができなかった。
少なくとも───────全てを許せるほどには。
それでも私たちは/俺達は?
「信じたいと…信じられると思ってもいいだろう?」
「あぁ…」
溜息のようにオラトリオが呟いた。
相手がウィルスでもなくハッカーでもないのなら、いかに最強の守護者とはいえ為す術もないのが道理。元より『疑う者』として作られた自分は、本当はオラクルのその願いを信じてはやれないけれど。
それでも彼が信じるというのなら、その振りくらいはしようと思う。
────── 彼にとって人の言葉が絶対であるように。
オラトリオにとって絶対の言葉は、全てオラクルがもたらすもの。
始めも終わりも諸共にお前の中にある。
「俺は、信じてるよ。」
────お前を。
オラトリオの心の内の、その言葉には気づかずに。
オラクルが嬉しそうに笑った。
時に 深く深いキズを負い
だけど 愛すべきあの人に
結局何もかも癒されてる
〜M〜 Words by AyumiHamasaki