Crimson Tide |
重なるダメージに思うようにならない体。
───それでも、負けたくない。
ラヴェンダーは不自由なままにならぬ姿勢から、それでもぎり、と頭上の男を睨み上げた。表情の失せた顔で己を見下すA-Q〈QUANTUM−QUARTER〉───オラトリオの複製(コピー)。そうして光の失せた両眼はひどく弟に似ている。例え底に宿る魂が全く別個なのだとしても、その点彼の制作者は原点(original)に忠実であるらしかった。その性能の優秀さは言うに及ばず、細部のdetailに至るまで嫌になるほど似通ってはいる。
そのことの恐ろしさはラヴェンダーもよく分かっていた。『電脳空間最強の守護者』の二つ名は伊達ではないのだ。その複製(コピー)であることの本当の意味を理解する者は多くないが、弟でもあり弟子でもある彼の本質(ディープ)をラヴェンダーは知悉している。
それでも負けられないと思うのは、不敗を誇る己への自負と、そして彼の男の呟いた言葉故のことだった。
『私には〈ORACLE〉(お荷物)はない。』
守るべき対象を「お荷物」と呼びせせら笑うこの男。〈ORACLE〉が、あの二人がどれほどの苦しみの末に立ったかを、自分たちA-NUMBERSが何のためにあるかをその一言でクオータは否定する。そんなことを許しはしない。許して良いはずがない。
『BasicMotionControl-system fall off.(基本運動制御システム 低下)』
『Personal Program Backup-system hold up.(人格プログラムバックアップシステム 遮断)』
『All Circuit for basic Control are not work.(基本制御全回路 動作不能)』
次々と流れてゆく緊急信号をうっすらと追いながら、ラヴェンダーは狭められた視界に映る『敵』の姿に歯噛みした。非戦闘型とて油断したつもりはないが、結局の所己が甘かったと言うことか。
それでモ、私・ハ 負ケルわけ・ニは・イカナイ…
『SightConstruction-System all down.(視覚構築システム ダウン)』『───All System fall into a State of Suspended Animation.』 (全システム、仮死状態に入ります)
最後に見た『それ』は。
血の海に沈む『弟』の姿にも似て───
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