青い鳥

                       
 
 ──────ちちち、ちちり。
 
 鈴を転がすような、高い音が囀りを真似る。
 深い山の気配からは遠く、けれども人里からはまだ幾分距離を残したような林。
 まだ若い木が多いそうした林にも幾本かはあるような、年輪を重ねた大樹の枝に座る男の口から、その音は聞こえるようだった。
 手甲をつけた手がすい、と伸びる。葉の落ち始めた枝の間をせわしく飛び移っていた瑠璃色の鳥が、その誘いに動きを止めた。
 「…良い子だ。」
 羽色を映したような青い瞳がゆっくりと細められる。しばらく相手を伺うように落ちつきなく視線を寄越していた小鳥は、やがて伸ばした指の上へ居を移した。
 「ちょっと遠いかも知れないけど、お遣い頼むな?」
 囁くようなその声に、小さな囀りを返した鳥が、具合良く留まりなおしてまろい目をきょろりと動かす。なぁに、とでも言うかのように無邪気なその仕草に声もなく笑って、銀髪の上忍は何事かを呟くと手早く印を切った。
    
                    
 「さて。」
 伝言を受け取った小さな鳥が、嘴でその細い足をちょいちょいと啄むのを眺めながら、カカシは陽の高さを計る。夕暮れと言うにはまだ早い時刻ではあるものの、落ち始めれば闇の訪れは速い。里までの距離とこの小鳥の飛ぶ速さを考えると、今夜の任務がうまくいけば自分の方が先に帰り着くのでは、と思うようではあるが。
 「それでもまぁ、オマジナイみたいなモンだからねぇ…」
 この小さな鳥に託した、些細な約束。
 
 ─────必ず帰る、という誓いのような。
 
 「…ホントはご飯なんか、なくてもいいんですけどね、イルカ先生。」
 あ、コレは言わないでよ、と青い右目をふわりと和ませて、男は右手の指を立て、手の上の小鳥に囁いた。
 
 
 顔が見たい、声が聞きたい─────アナタに、逢いたい。
 ──────────本当は、ただそれだけのこと。        



                                 Pictured by 文明堂壱番さま(如何様堂)