夜の棲む瞳




その後のことは、よく憶えていない。
 
気が付いたときには、暗部の姿も敵の姿もなく、自分を含めた中忍部隊は、医療班に収容されていた。
容態が落ち着いたところで里へ帰されて、数年を無事に過ごし、イルカはアカデミー勤務を選ぶことになる。日々に追われる中で、だんだんと記憶は薄れてゆき─────
 
それでも、時折思い出す。
 
底に闇夜を秘めた、あのときの瞳を。
青い青い海の底に隠れた、くらいひかり。
 
 
 
 
それが、いつの間にかイルカの目の前にあった。
 
ふとした瞬間にそれに気づいたのは、あれは初めてカカシに誘われた日のことだ。
 
知り合った当初は、上忍師とアカデミー教員として、顔を合わせれば下忍たちの話をするくらいだった。カカシの班にクセのあるメンバーが揃っていたからかもしれないが、それは今年の下忍班はどこも同じとも言える。アスマの班にしても紅の班にしても、個性という点ならおさおさ引けは取るまい。
日常の他愛のない彼らの様子を聞いて、アカデミー時代の彼らの様子を話して。受付や廊下で出逢ったときに話す程度だったのが、いつの間にか込み入った話になって。
ならば場所を変えて、という話になったのは知り合ってしばらくしてからだった。
そうして飲みにいった席で、そのことに気づいたのだ。
 
ああ、このひとの瞳の底には夜が棲んでいる、と。
 
そう気づいて、「不思議な色だ」と口にしたとき、ああ、そうだったのか、と腑に落ちた。
あのときのあの暗部は、このひとだったのだ、と。
だからといってイルカがそれを口にしたわけでもなく、カカシがそれを憶えているとも思えず。
 
 
 
 
けれどもそれから、カカシが頻繁と言っていいほど誘ってくるようになって。
 
どうして、と思いつつ、誘われればイルカは頷く。
 
 
 
 
その瞳に魅せられたように。