指先の恋


 ────── ほんのわずかに、届かない距離で。
 
 
 伸ばしかけた手は、いつものように何に触れることもなく頼りなく空を掴む。ふうっと何かが引き抜かれるような感覚。
 オラクルは小さく首を傾げた。
 
 『またな』
 
 短い言葉を残して帰っていく男を見送ると、いつからか必ずやってくるそれ。
 引き留めてどうしたいということもないのに、つい伸ばしてしまう指先を見つめて、オラクルは雑音の瞳を僅かに眇める。
 「…私は、何がしたいんだろう?」
 掌を返してそうっと開いても、ほっそりと白いそこには何もない。摺り合わせるように軽く握り直すと、触れあったそこからほのかに痛みが浮き上がった。
 
 似ているようで似ていない、自分たち。
 指先ひとつも似ていないことが、何とはなしに淋しいような気がした。
 
 ふと思いついて、簡単にプログラムを組んでみる。
 記憶を辿るまでもなく再構築できた、その純白の手袋は寸分も違わず。
 よく、知っている───────そのくらいには。
 「だけど…絶対に、届かない。」
 だからかな、と青年はその絹の感触を指先でなぞりながら溜息をついた。するりと滑るようなそれは、どこか掴み所のない男にもよく似ている。包み込むように優しいくせに、時折ひどく突き放すような。
 はめてみると、指先が僅かに余る。
 
 『…別に良いモンでもないだろ?』
 
 呆れたようにそう言いながら、ひらひらと目の前で振られた手を思い出す。
 数値的に言えば、目の前の自分の手と、0.05%しか違わない、それ。
 けれども、たとえ自分のCGを1.05倍に拡大しても、同じにはならないだろう。
 
 たった0.05%。
 
 ──────だけど、こんなにも。
 
 その距離が、もどかしい。
 「…痛い、なぁ。」
 何でかな、とオラクルは小さく呟いた。
 届かないことを悔しがるように、指先が微かに痛む。薄く浮き上がるようなその痛みに、雑音の瞳が揺らめいた。
 
 
 
 ────── ほんのわずかに、届かない距離で。
 
        指先が切なくいたむ、恋をしている────────