月に想う


見上げる視線の先に、下弦を過ぎて細り始めた月が浮かんでいる。

雨模様だった空に垂れ込めていた雲は今はない。吹き荒れていた嵐が収まるように────今は全てが静かだった。
膝を抱えて座り込んだサスケの上に、木の葉に溜まった雫が不規則にぱたり、ぱたり、と落ちる。

紅い三つ焔を宿すその瞳は、今は暗い藍色の底に炎を隠して翳っていた。

─────何故、と己に問い続けて。

何よりも心を占めた『復讐』の二文字を忘れたわけではないのに、どうして腕を振り下ろせなかったのだろうかと。


『オレにもお前にも、もう大切な仲間が見つかっただろ』


最後の最後でそんなヌルい言葉が浮かんだせいかもしれない。
ほんの短い間とはいえ、師事したあの銀色の上忍の言葉は、今でも心の片隅に残っている。
里を捨て、大事なものを捨てても、全てを捨てきれるワケではない。
持っていくものも、ある。




「そういえば、近いんだな。」

里の全てが喪われた日が、近い。
─────確か、アイツはその日に生まれたのだと聞いた。

もう全てを捨てる覚悟はしたつもりだけれど。
月を見上げることくらいは自分に許してもいいと思う。




ぼんやりと見上げた月は金色の光を帯びて、アイツを思わせるから。

「…フン。」




どこへ行こうと、何をしようと。
月だけはついてくる──────里と同じ月が。