『もぎたてレシピ』のこと

 夕刊離れをしている若い人にも読んでもらえるような紙面を計画中の朝日新聞に、提案したのが<生産者ならではのおいしい食べ方>を取材した『もぎたてレシピ』。従来のいわゆる“食もの”はお店やメニューの紹介、そして野菜そのものの故事来歴や栄養などがほとんど。生産者の登場も少なく、旬の季節のスタートを切る収穫風景とか新しい品種に挑戦などが大半。説得してもデスクは新鮮味を感じないようで、それでもちょっと親切に「書いて見てよ」とチャンスを与えてくださった。言われるがままに十勝清水町で炭埋農法で野菜を栽培している佐々木干城さんから教えていただいたかぼちゃの水分だけで炊く『九重栗かぼちゃ』を書いてプレゼンテーション。
 1998年4月6日の夕刊には時季に合った『春掘りごぼう』を書き、『九重栗かぼちゃ』はその初秋に掲載された。当初は越幸恵さんと中川順子の2人体制であったが、そのうち伊藤哲也氏がライターに、中川有三氏がオブザーバーとして加わった。シリーズは2000年4月17日から越さんに代わって、小山内峰春氏がライター、絵は『とれたてギャラリー』というコーナーにして豊島輝彦画伯が担当してくださることになり、スペースもワイドになり、バージョンアップした。『もぎたてレシピ』は2001年8月6日に最終回を迎え、通算2年半のロングランとなり、グリーン・プラネットが担当したのは65回にわたった。

 

  
なだらかな丘陵地帯にパッチワークのような美しい田園風景が広がる美瑛町は、今や道内屈指の野菜産地。この町の新時代の農業に情熱を燃やす若き農業家たちで組織するOHF丘の里ヘルシーファームでは今、北海道の夏の風物詩とも言えるグリーンアスパラが収穫の季節を迎えている。
  「うちのアスパラはそんじょそこらのアスパラとは違う」と胸を張るのは、OHF代表の墫野(はんの)豊さん。OHFでは、もう20年以上も前から有機・低農薬栽培に取り組んでいるとのことで、「そんなことはとうの昔に当たり前」と鼻息が荒い。
 農薬はほとんど使わない。畑にはじっくり熟成させた完熟たい肥をふんだんに入れる。そしてさわやかな風と、上川盆地特有の昼夜の寒暖差が十分に糖度をアップさせてくれて、これがおいしさの源になる。こうして育てられたOHFのアスパラは、なるほどみずみずしく丸々と太っていて、見るからにおいしそうだ。
  

 しかも、「うちのアスパラは皮をむく必要も根ぎわを切り落とす必要もありません」。根ぎわまで全体が柔らかなので、「丸ごと食べて」と自信満々のOHFアスパラは、バターいためでも酢味噌(すみそ)でもてんぷらでももちろん美味だけど、やっぱり“素”で食べるのが一番とのこと。
 毎日食べる墫野さんのお薦めは、炭火のさっと焼き。「炭火がなければガスでも電気でもいいけれど、焼き加減には気をつけて。表面にプチプチと水分が出てきたら食べごろサインです」。火力にもよるが、この間、ほんの20秒ほどという。 
 アスパラに含まれるアスパラギン酸は、言わずと知れた元気の素。夏の元気を、旬のグリーンアスパラ丸かじりで蓄えてみてはどうだろう。

(フリーライター  越幸恵)

 

 見た目は変哲ないが、珍しいタマネギである。一体何が珍しいかというと、全く農薬を使わずに栽培しているからだ。
 タマネギは病気や虫に冒されやすいため、一般的に農薬散布は欠かせない。ところが北見市の「蝦夷農園」は三十三年もの長い間、農薬と化学肥料を一切使用せずに栽培している。今年三月、全国の農業者や団体を対象にした「環境保全型農業推進コンクール」で会長賞を受賞した。その“北原さんちの玉ねぎ”が今、旬である。

とれたてギャラリー 豊島輝彦
 北見市川東地区、常呂川の南岸通りは通称オニオンロードと呼ばれる。その一画に蝦夷農園のタマネギ畑が広がる。水はけのよい砂地帯、晴天日数が多く寒暖の差がある気候は、タマネギのためにある土地柄といえるかもしれない。
 早生のウルフ種は三月十日頃にハウス内に種をまき、約二ヶ月育苗する。二重のビニールで覆い約一八度に保たれたハウス内では、雑草との戦いが始まる。「栄養分を取られないように、雑草の種が落ちる前に取るんです。生え始めの草を見つけると、ハウス内に板を渡し腹ばいになってピンセットで抜くんですよ」と農園の主北原潤哉さん。露地に定植してからも中腰の手作業で雑草取りが続くという。
 無農薬で栽培することがいかに大変な作業かが想像される。肥料はナタネ粕、米ぬか、緑肥などをすき込み植物性有機にこだわる土づくりをしている。「たとえ一食分でも汚染のない命の糧を…」という農業哲学に徹している。やや小ぶりだが、ずっしりした重みと甘さは自然の恵みと北原さんの努力の賜物だ。「農薬栽培をする人がどんどん去るなかで、やめたいと思ったこともありましたが、買って下さる人がいるということが励みになりました」「今年は蒸し暑かったせいか長玉が多い。それでも肥大期に雨が降ったので去年より大きめ」「薄皮は肝臓に効くといって、無農薬のうちのタマネギを重宝に思ってくれる人もいます」とタマネギに関して北原夫妻は能弁家になる。
 奥さんの操子さんに教えてもらったのは、手軽に作れるかき揚げ(二人前)。まず、小さめのタマネギ一個をくし形に切る。ニンジンも小さめを半分ぐらいせん切りにする。ほかの具はシイタケ、冷凍エビ、ホタテ、イカなど冷蔵庫にあるものを応用。操子さん流は根ミツバの利用。衣は「ちほく小麦粉」をカップに六〜七分目。水でさっとかき混ぜ、好みで塩を入れ、タマネギなどの具を混ぜる。大きめのスプーンで熱した油に落とし、広げてかき揚げにする。


(フリーライター 中川順子)

スパイス
<作りおきに便利な玉ネギドレッシング>
タマネギのスライス(大2個分)、酢とサラダ油各3/4カップ、しょうゆ、みりん、酒各1/2カップ、砂糖大さじ3(好みで調整)、塩小さじ2を全部合わせて漬け込む。サラダはもちろん、そのままカレーライスの付け合わせや漬物代わりに。
<辛みと甘みは同じ?!>
特有の刺激臭と辛み成分の正体は硫化アリル。この辛み成分を加熱すると甘みに変化する。ハンガーグで味比べすると、生のままでみじん切りを入れると香りが強くて甘みの少ない仕上がりに。一方バターで炒めてから混ぜると香りはそれほど強くなく甘みのあるハンバーグになる。
<生食は切りおきが効果的>
サラダなど生で食べるときは、水にさらさず20分〜1時間ほど切りおきすることで、毛細血管を強くし血液をさらさらにする効果を高めるといわれている。健康が気になる方は試してみてはいかが。
<蝦夷農園のタマネギ>
「蝦夷農園」が生産する「北原さんちの玉ネギ」は、コープさっぽろの店舗と協同購入で取り扱っている。問い合わせ先は蝦夷農園の北原操子さん(tel0157−24−6791)

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※太字のものは ライター:越幸恵さん

 故 越幸恵(こし・さちえ)さんのこと

 
1952年、稚内市生まれ。月刊誌の編集に長く携わった後で‘88年にフリーライターとして独立。JAL、ほくでん、生活協同組合コープさっぽろなどの広報誌にルポ、エッセイなどを記載。当社とは設立以前から仕事を通しての仲間としておつきあいしており、病気発覚後も当社の歩みをともにしていただき、コープさっぽろさんの広報誌、「300レシピ」の制作、さらに朝日新聞月曜日の夕刊「えるむ通り1丁目」に『もぎたてレシピ』のライターとして活躍しました。ちなみに越さんの最終稿は『もぎたてレシピ』の「鈴木農園の“卵ドリンク”」(2000年2月28日掲載)で、すでに原稿を書き上げるのが辛いようで完成させるのをお手伝いしたことを思い出します。
  越さんは、’97年4月中旬乳がん発覚、5月9日入院、同月17日手術。退院を経て‘98年1月14日から友人たちの働きかけにより北海道新聞水曜日家庭欄(朝刊)に「乳ガン患者の手記―前向きに、胸を張ってー」(全25回)をその体験を発表しました。退院後も可能な限り取材、執筆し、病気と闘いましたが、再発と再手術を経て2000年6月18日午前1時45分旅立ちました。享年49歳。


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