4月某日、赤坂の料亭で極秘の景気対策検討が行われていた。
出席者は、大蔵大臣のM氏、経済企画庁長官のS氏と首相のO氏の三名であった。
まず最初に口を切ったのは、S氏であった。
「今年度の第一四半期の景気見通しは、良好に推移しています。
しかし、一時的な景気の感も否めません、今年はオリンピックが開催されるので
その影響で消費が伸びることが予想されますが、これも一時的になりかねません。
さらにこの状況を維持する手立てを考えないと…」
すると、いつも柔和な笑顔をしているO首相は、先輩にもなるM大蔵大臣に向かって
「今年度予算の内閣報償費で何かできないだろうか?」
それを受けて、比較的無口な、しかし頭の切れるM大蔵大臣は、
「予算枠としては、20億円を用意しています。
この他に代々の首相が蓄えた内閣報償費留保分の135億円がありますので、
景気が上向いている今こそ使うべきではないでしょうか」
民間出身でアイデアマンでもあるS経済企画庁長官が、1つのアイデアを提出した。
「セリーグの人気球団Gが優勝すると景気対策効果があると言います。
ちょうどオリンピックが開催される9月の後半前後に優勝してもらえば、さらに消費を伸ばす事ができます。
セリーグ各球団と交渉してG球団が勝つように協力要請してはどうでしょうか?」
それを聞いO首相は、目を丸くしながら、
「それは、おもしろい対策だな。しかし、少々やりすぎではないか?」
一度思い付いたアイデアをさらに膨らませたS経済企画庁長官が続けた。
「従来のケインズ経済学を元にした公共投資という景気対策では、農耕民族である日本人は貯蓄指向が強く、
投資した資金が消費に回らず、十分な効果が得られません。
如何に消費を喚起するかという対策も必要になってくるのです。
そこで、G球団の優勝だけではなく、昨年優勝したパリーグのD球団も優勝させるのです。
G球団の監督N氏とD球団の監督O氏とは、現役時代から人気が高く、
他球団のファンでもこの二人だけは、応援するという人もいるぐらいです。きっと盛り上がりますよ。
それに両球団とも大手流通会社が応援していて、大々的な優勝記念セールを行う事でしょう。
特に野球に興味の無い主婦でも飛びついて来ます。そうなると一大フェスティバルのようになりますよ。
そうだ。球団Gには、オリンピックの前までに優勝を決めてもらって、
球団Dは、オリンピック後に決まるように調整してもらえば、9、10月の景気は約束されたも同然です。
優勝が決まる試合は、必ずホームの球場で決まるようにしてもらえば、優勝効果は絶大ですよ!
日本シリーズも最終戦までもつれ込む様になれば、球団としても売上が伸びるので協力してくれるでしょう。
できれば、優勝決定後の優勝記念セールスは、休日から始まるとセールスに来る客足が
伸びるので百貨店の売上が期待できます。
すると国民全体に効果が波及するでしょう。」
少し興奮気味にまくしたてたS経済企画庁長官の話をO首相は、ゆっくりと目を閉じて考えた。
そして、「じゃ、両リーグの全球団に協力してもらえるように私の方から電話をしてみよう」と
ゆっくりと話した。
B大蔵大臣も特に異義を唱える事はなかった。