〜危機迫る秋川流域のタナゴ生息地〜
私がはじめてタナゴと出会ったのは5年前のことだ。金魚竿を出して遊んでいたら、たま
たま婚姻色を帯びて虹色に光るタナゴが一匹釣れた。あんまりきれいなので、家に持ち
帰って水槽で飼った。タナゴの美しさの虜になった私は、そんなひょんなきっかけで、毎
週末、タナゴ探しに明け暮れることになった。どこよりもたくさん、まるでタナゴの宝庫かの
ように群れをなして泳いでいたのは、あきる野市山田にある用水路だった。秋川が目の前
に広がる全長300メートル程の小さな用水路だ。5年前に訪れた時は、網で一掬いしただ
けで50匹から100匹ものタナゴが捕れた。小さい稚魚もひらひら泳いでいた。自然繁殖し
てるんだ、と胸が踊った。いろいろな小さな魚たち、小さな生き物たちが姿を消していくな
か、誰からも気づかれないようなこんな小さな用水路に、影を潜めてタナゴがたくさん棲
んでいた。用水路の川底の泥の中を手さぐりすると、タナゴが産卵するドブガイもゴロゴ
ロしていた。



(写真上)このドブガイも、今やあの世行きです。
小さなタナゴ天国は、すっかり様変わりした。昨年、私が知らないうちに、建設省なのか、
東京都なのか、工事が入ったらしい。二度目の工事は今年の4月で、偶然居合わせた。
土砂崩れ防止工事。用水路上の斜面にコンクリを碁盤の目のように埋め込む作業だ。
工事車両進入のため、工事区画の用水路が一時的に埋め立てられる。張りめぐらされた
コンクリの隙間から、工事排水がものすごい勢いで流れ出していた。汚い光景だ。工
事現場の脇の用水路を見ると、死んでぱっくり口をあけたドブガイやマシジミがゴロゴロ
転がっていた。タナゴの姿も容易には見つからなかった。ヒラヒラ光って健気に泳いでいた
タナゴの稚魚たちが脳裏をよぎる。悔しかった。タナゴのすみかが荒らされていることが。
そして、知っていたのに無力な自分が。

(写真上)水の色に注目!!
工事排水が流れ込んで、こんなに濁っています。
工事後のタナゴのことが気になって、産卵期に用水路を訪れ、調査をすることにした。
土砂崩れ防止のコンクリは山の斜面に整然と張りめぐらされ、一時埋められていた場所
は、形だけ、もとの用水路に戻っていた。でも、決して元通りに戻ったわけではない。去年
工事が入ったその場所から下流域では、タナゴは一切見つからなかった。一掬いに100
匹が当たり前だったその場所で、捕まえられたのはモツゴだけだった。生い茂っていた植
物は枯れはて、ドブガイやマシジミの貝殻が無残に横たわり、殺風景だった。

上へ行けばいるかもしれないと上流へ向かうと、徐々に植物が生い茂り、ようやくドブガイ
が見つかる。数百匹という以前の面影はないが、タナゴの稚魚もいる。上にはまだいる、と
思った。斜面を見上げると、木々が鬱蒼と茂り、コンクリは張りめぐらされていない。そこ
は、用水路で唯一残されているタナゴのすみかだろう。しかし、地元の人の話によると、そ
こにも今年の秋から冬にかけて工事が入るという。工事を食い止めたい。それが無理なら
ば、排水を流すこと、埋め立てることだけでも止められないものだろうか。方法を変えるこ
とだけでもできないだろうか。

東京ではドブガイの自然繁殖は非常に珍しいと言われている。ここには、それがある。一
度破壊したものは、元には戻らない。用水路で最後に残されたその区域に工事の手が
伸びる前に、何とかこのメッセージを伝えたい。
     
平成11年7月29日

調査日時:1999年6月12日(土)正午
メールはここをクリック