「ロニーどこ行ったー?」
ハイデルベルグの宿屋で、ルシアはロニを探していた。
男部屋にはいなかったしカイルやジューダスに聞いても
知らないというばかり。
今日はロニから飲みに行こうと誘われたというのに。
さすがに未成年の前でお酒は飲めないし。
「どうしたんだいルシア?何か探しもの?」
「あ、ナナリー。あのさロニ見なかった?ちょっと約束を・・・。」
そこまで言いかけて、ちょっとマズいかなと気付いた。
本人達は否定しているが、実を言うとこの二人
結構あやしい仲だったりするのだ。
言葉を交わせば漫才のような喧嘩を繰り広げられるのだが
それも本当は仲が良い証拠。
「・・・あの、さ、ルシア・・・あの・・・。」
「ん?」
「・・・・・や、やっぱり何でもないよ。うん。」
「そんなに心配しなくたってナナリーから取ったりしないよ。」
「なななな何言ってんだい!あ、あたしは別にロニなんか気にしてないよ!」
「あれ、そう。」
「そうだよ!全くもう・・・あたしは部屋に戻るからね!」
ナナリーは真っ赤な顔をして部屋に戻っていってしまった。
ロニの名前を出したわけでもないのに。
でもからかいすぎたかなーとちょっと反省。
「おーいルシアー。どこ行ったー?」
宿の一階からロニの声が聞こえてきた。
どうやら自分は探されていたらしい。
ナナリーの事が少し気にかかるけど、とりあえず今は
飲みたいので、フォローは後で入れておくことにしよう。
一方。
「うーん心配だなぁ・・・。」
部屋に残っているのはカイル、リアラ、ジューダス、ハロルド、そしてナナリー。
ジューダスは何食わぬ顔で剣の手入れをしているが
内心、ロニとルシアの事が気になって仕方が無い様子だ。
ナナリーはどこか元気がない。
「ねえリアラ、こっそり様子見に行かない?」
「ロニとルシアの・・・?気付かれないかしら。」
「大丈夫だよ。遠くから見ていればいいんだし!気にならない?」
「気にはなるけど・・・。」
「グフフッ、面白そー☆」
「わあァっ!ハ、ハロルド・・・。」
相談しているカイルとリアラの後ろに、いつのまにやらハロルドの姿が。
先ほどまで読書に没頭していると思ったのに、面白そうな
話にはすぐに飛びついてくる。
「さぁさぁデータ収集データ収集っと!」
「僕は行かないぞ。くだらない。」
「何言ってんのよ。一番落ちつきがなかったくせに。」
「なっ!た、ただ後々厄介なことになるかもしれないと思ったからだ!」
「はぁ〜、どうしてこう素直でない人間が多いのかしら〜。」
ジューダスの叫びも全くハロルドには通用しない。
「まぁいいわ!さーて出発しんこーうっ。」
ずるずると強引にジューダスとナナリーを連れて飲み屋に向かった。
今の時間となると、店はとても賑やかで騒がしい空間となっている。
ロニとルシアはカウンターに腰掛け、静かにお酒を飲んでいた。
何もやかましく飲むだけが楽しみではない。
「くーっ、たまんねーよなこりゃ。」
「未成年ばっかりで飲めないからね。」
ビールを一気に飲み干したロニは、さっそく追加注文している。
代金が気になるところだが、そんなに多く飲むことはないだろう。
明日も早いだろうし、二日酔いなんて事になってしまえば
一体どれだけの嫌味が待っていることか。
毒にならない程度に飲んだらすぐに帰る。
ロニがまだ飲むとか言ったら気絶させて連れて帰ろう。
二人がほのぼのと飲んでいるところへ、カイル達が
丁度カウンターの後ろにあるテーブルに何かを仕掛けていった。
それは小型のマイク。
これで少々離れた位置にいても、二人の会話を聞くことが出来る。
「盗み聞きとは趣味が悪いな。・・・付き合ってられん、僕は帰るぞ。」
「あたしも・・・やっぱり帰るよ。」
「ここまで来たんだから聞いていきなさいよ。ほらほら座って!」
『ホントに良かったのかルシア?あいつ誤解するかもしれねーぞ。』
『そういうロニこそ好きなあの子に誤解されちゃ困るんでないの?』
『バババババカ言ってんじゃ・・ぇ・・・よ。・・・は関係ねぇ・・ろうが。』
『あれれ?どう・・て・・・そこで・・・・が出てく・・のかなぁ?』
『どう・・て・・・お前今・・・・・・』
今まで微かに聞こえていた声が、だんだんと小さくなっていく。
「ああっ!いいとこなのに〜!」
「アララ、おかしいわね・・・故障かしら?」
カイルは想わず装置をブンブン振ってみるが、やはり聞こえない。
「ま、いーわ。見つからないうちにお店出ましょ。」
二人の会話が聞こえなければ意味がないので、カイル達は
仕方無く店を出た。
だがナナリーだけは後ろを振り返っては足を止める。
ドン!
「あっ、ごめ・・・。」
「オイねェちゃん、人に当たっておいてそれで済むと思ってんのかァ?」
いかにもガラの悪そうなゴロツキが二人。
ただ軽くぶつかっただけなのに、何を言っているのか。
ナナリーは抑えこんでいた感情が段々と制御出来なくなっていくのを感じた。
「ん?喧嘩のようだね。」
「やけに騒がしいと思ったら喧嘩かよ・・・って待て!あれまさか・・・!」
ガタン!と大きな音を立ててロニが立ちあがる。
あの見覚えのある後ろ姿は、彼がよく知っている人物だ。
ロニは頭で考えるよりも早くそちらの方へ走っていった。
「はぁ?ちょっとぶつかっただけで何でお金を払わなくちゃいけないのさ!」
「ぶつかってきたのはそっちだろォ?謝罪の気持ちってモンがねェのか!?」
「お金を払うほどの事かって言ってんだよ!大の男がみっともない!」
周りには止める者はおらず、逆にけしかけるような言葉が飛んでくる。
酔っ払いというのは誰にも止められない迷惑な存在かもしれない。
「おいナナリー!お前何やってんだ!」
ギャラリーをかき分け、その場に飛び出してきたのはロニ。
ナナリーはやっと自分のいる場所を思い出した。
「ほら、馬鹿やってねぇで帰るぞ。」
「え、ちょっとロニ、でも・・・!」
「強行突破だ!」
ゴロツキが何か言う前に、ロニはナナリーを引っ張って
店の外まで連れ出した。
ロニ達を追いかけようと、彼らは仲間と共に店を出ようとするが
誰かに足を引っ掛けられ見事に転げっぷりを披露することになる。
「・・・無様だな。」
黒衣の少年はそう呟くと、人込みの中へ消えた。
「お、未成年はこんな所に来ちゃだめですよ。」
「お前・・・わざとだろう。」
グラスを片手に、喧嘩を眺めていたルシアの隣にジューダスがどかりと座る。
「いやなに。ハロルドの姿が見えたんでね。アイコンタクトというやつさ。」
「おかげで僕まで付き合わされるハメになった。」
「あれ、そういえばハロルド達は?」
「ハロルドなら満面の笑みで帰っていったが。」
これは後で覚悟しておかないと・・・とルシアは思った。
きっと、この借りは高いわよ〜とか言って色々と要求してくるに違いない。
店から遠く離れた公園で、ロニとナナリーは息を整えていた。
全力疾走でここまで来たものだから、とてつもなく暑い。
「あー・・・まさかこんな雪国で汗かくことになるとはなー・・・。」
「・・・はー・・・全くもう・・・。」
「そりゃこっちのセリフだ。大体お前なんであんなところにいたんだよ。」
「えっ、そ、それは・・・ハ、ハロルドが・・・夜食!を買ってきてって・・・。」
「アイツも人使いが荒いな・・・あー疲れた。」
ついハロルドを理由に嘘をついてしまった。
だが、元はと言えば彼女があそこまで連れてきたのだから
これぐらいは許されるだろう。
ナナリーの嘘にロニも特に気にする様子もない。
ロニは先ほどの奴らが後ろから来ていないことを確認すると
宿とは逆の方向へ歩き出す。
「ロニ?そっちは違う道だよ。」
「いーんだよ。ちょっと涼んでから帰ろうぜ。」
「・・・・・。」
「あ?どうした?」
「・・・何でも無い。」
理由はどうあれ、こうしてロニと歩けることが嬉しいような気がした。
そこから少し離れた壁の向こうで、三人は溜息をつく。
「世話がやける二人ねぇ。」
「でもナナリー、凄く嬉しそう。」
「そうなの?俺よくわかんないけど・・・。」
あの二人だけに言ったわけじゃないわよーん。
ハロルドは含み笑いをしながら、また別の方向へ目を遣る。
彼女の視線の先には、こちらもまた世話のやける二人が。
「フンフフ〜ン♪これだからデータ収集はやめらんないのよね〜。」
何のデータ収集なんですか博士。
げに恐ろしきは天才ということだろうか。
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ジューダスあんまり出てきませんでしたね・・・。
セリフばっかりでスミマセン。
いつのまにかハロルド中心になってるし・・・。(笑)