基礎講座その3

 基礎講座の1と2では、ウランや放射性物質の原子1個の話が主でしたが、原子力は軍事利用でも原子力発電でも原子1個や分子1個では利用できません、数キログラムや何トンという量が必要です。それは核分裂が続けて起きることが必要だからです。


核分裂が続く状態とは?
 例えば陸上のリレー競技で次々にバトンが渡るように、ウラン235の核分裂が一個の原子核で起こり、飛び出した中性子が次のウラン235の原子を核分裂させる、というように核分裂が連鎖反応で続く状態になったことを臨界になったといいます。図の左側は核物質の原子核に中性子が当たって取り込まれて分裂して、さらに中性子が飛び出してと、分裂する数も中性子もどんどん増えて行く様子です、これは臨界超過です。右側は、茨城県東海村のウラン加工施設のJCOの臨界事故のイメージです。沈殿槽の周りに冷却用の水が流れていたため、中性子を反射し核反応が繰り返されました。決死隊がパイプを破壊することで水を抜き臨界が収束しましたが、作業を半ば強制された作業員の被曝量は大変なものとなりました。JCOの臨界事故についてはリンク集の「青い光は警告する」をごらん下さい。わかりやすい解説になっています。
 もし、純度の高いウラン235が沢山あって、左の図のように次々と鼠算式に増える核分裂が起きたら、どうなるでしょう。瞬間的に核分裂片が爆発的に飛び散り、膨大なエネルギーが発生します、これが核爆発です。原子力の利用は核爆発を起こして破壊と殺戮をするための核兵器として始まりました。
 リレー競技では一人のランナーが次の一人のランナーにバトンを渡すので、走っているランナーが増えることもバトンが増えることもありません。同様に核分裂が増えすぎないようにコントロールできれば、原子力も核兵器だけではなく平和利用できると考えられていました。そのために絶対必要なのが、臨界の管理です。臨界の管理の話をする前に、逆に臨界を管理しない(中性子の増倍率κ>1にする)核兵器の話をします。



原子爆弾(原爆)はどのようになっているの?
 原子爆弾は日本に2個落とされました。1個はウラン235を使った広島型原爆、もう1個はプルトニウム239を使った長崎型原爆です。核兵器は臨界管理の反対です、いかに中性子の増倍率κを増やすかが課題です。
 原子の世界では原子核は固まりですが、電子は遥かに彼方を廻っている状態で、ものすごく隙間だらけの状態なのです。隙間を素通りして中性子が原子核に当たらないことも有ります。ですから、まずはウラン235やプルトニウム239の純度をできるだけ高めます。そして、発生した中性子が外に逃げないように中性子反射材で囲みます。さらに、核爆発の初期の段階で残りのウランが飛び散ってしまって爆発が終わらないように鋼鉄で囲む、本格的な核爆発ではこの鋼鉄も吹き飛ばしてしまいます。ウランを二つに分けて配置しているのは、一定量(臨界量)以上集ると自然に核分裂が始まってしまうからです。二つに分けて配置した核物質を爆薬によって瞬間的に合わせて一気に核爆発を起こします。広島原爆にはウラン235が12キロ使われ、そのうち1キロが核分裂をしたといわれています。
 ピカドンと呼ばれたように、核分裂の膨大なエネルギーは1億度の熱球を作り、強烈な光と熱は建物や人々の影を残して焼き尽くし、爆風は建物を押しつぶし、圧縮された空気が押し戻されてキノコ雲を形成します。膨大な中性子線が降り注ぎ、核分裂生成物(死の灰)が飛び散り、火災の炎や煙とともに舞い上がり、黒い雨となり再び地上に降り注がれました。
 これが、臨界を越え過ぎた時の状態です。JCOの臨界事故は、瞬間的に建物が吹き飛ぶような核爆発は起きませんでしたが、幾度となく臨界に達して中性子線が2km以上も飛んでいる「遮蔽材のない原子炉」が突然街中に現れた事故でした。事故の際に核分裂した量は1mgといわれており、広島原爆の100万分の1の量で、あれだけの災害となるのです。


臨界の制御・運転管理はどのように?
 原子力発電の運転は、臨界をほんの少しだけ越えるか越えないかの状態、一人のランナーが次の一人のランナーにバトンを渡す状態、すなわち臨界の安定状態(連鎖反応が実現する状態で、中性子の増倍率κ=1の状態から変動しないことが理想)を維持する必要があります。原子炉の方式に関らず、原発の核暴走をふせぐためには、いかなる状態でも十二分な臨界制御が出来ていなければいけないのです。増倍率が1から減ってゆけば核分裂は止まります。逆に増えてゆき1に戻せなければ核暴走事故となります。チェルノブイリ原発事故は臨界の管理に失敗した、原子炉暴走事故です。原子炉の方式に関らず、原発の核暴走をふせぐためには、いかなる状態でも十二分な臨界制御が出来てい.ることが必要です。 
 核分裂が起きて核分裂の連鎖反応が続いてしまうことに必要な核物質の最小量を臨界量といいます。臨界量は、核物質の種類、金属状態か水溶液の状態か、どんな形のに収まっているか、固体なら純度が液体なら濃度、中性子の吸収や反射の条件などで決まります。原子炉内には、一年間も停止することなく核分裂反応を続けるために臨界量をはるかに超える量の核物質(核燃料)が入れられます。
 臨界の制御で欠かせないのが中性子の量を測定して、中性子の発生量を増減させたり、そのスピードを抑えたりすることです。制御については次回に回して、臨界を管理する事が絶対条件の原発と臨界超過が条件の核兵器を比べて見ましょう。
  

原子力発電所と原爆の違いと共通点
 原子力発電所と原爆とは、どのように違いどんなところが同じなのでしょうか。核兵器と原発の違いを表にしてみます。
 まず、核物質は核兵器よりも多く(110万キロワットの沸騰水型軽水炉だとすると、ウランの量にして132トン)なりますが、核兵器のように2〜二十数個に分けるのではなく、さらに細かく分けて(110万キロワットの沸騰水型軽水炉だと、燃料集合体にして764体)配置します。核物質の純度は、核兵器よりは低くなります、純度を高める濃縮は費用がかかるし、核分裂反応の制御が難しくなります。中性子を外部に逃がさずに効率よく使うための中性子反射材はどちらでも必要です。
 原子力発電だけに必要なものは、核分裂反応を制御して押さえるためには制御棒や減速材、発生した熱を取り出すためのもの(冷却材)(原子炉や建物が熔けてしまわないようにするための冷却を兼ねる)、放射線を遮蔽したり放射能を閉じ込めたりするものが挙げられます。
 原子力の開発も利用も巨大な利権や社会資本が必要なので
 核分裂後の死の灰の後始末に関しては、殺戮するのが目的である核兵器では考えることは有りませんが、原子力発電でも後で何とかなるだろうとして始まってしまい、いまだに解決策がないままです。
 核兵器で相手国を攻撃し戦争に勝とうとする行為は、ある意味では原子力の利用にも似ています。施設が設置される地域と利用する地域が異なり、利益を享受する側は他方を省みない傾向があります。どこが役立てようとしているのか、どこに置いて使って誰が利益を得るか、自区内処理(自分の区域内での処理)をせずに、危険を担う地域と利便を受ける地域と後始末を押し付けられる地域が利益享受の側だけの都合で決められています。
 
項目 核兵器 原子力発電所 違いの補足説明
核物質の量 大型のほうが殺傷力は大きいが、ミサイルなど運搬手段の制限がある 地上に設置するので大きさの制限はなく、大型のほうが経済性が有利と見られている 燃料交換は年に一回の定期点検のとき全体の三分の一ほど取り替えるので、10トンほど装荷される
核物質の濃縮度 出来るだけ高純度が望ましい 天然の濃度、または出来るだけ低濃度 民需用は濃縮経費を度外視する訳にはゆかない
中性子の反射材 核爆発の効率を高めるために必要 臨界状態を維持するためと被曝を避けるために必要 格納容器そのものも含めて放射化は避けられない
核反応を制御するもの 制御不要、兵器の保管と運搬中に爆発しないように起爆装置を管理するだけ 中性子の量を制御棒で調整、炉の運転開始と停止には絶対必要、熱出力の調整は不可 制御棒の他にバーナブルボイゾンなどがあり、減速材や冷却材も制御に役立つ
放射線の遮蔽 殺戮が目的であるから遮蔽しない、兵器保管取り扱い時も軍人に対する配慮なし 様々な保守作業があるので遮蔽は必要 徹底的な遮蔽が必要なのだが、経費削減のため十分とはいえない。下請け作業員の被曝量が多い
核分裂エネルギーの取り出し 全てを開放し、破壊するエネルギーとする 熱エネルギーの一部を取り出して発電に利用するため必要 冷却材が熱の取り出しも兼ねている。エネルギーの利用率は低い
破壊や溶融を防ぐ冷却措置 破壊が目的なので、なし 原子炉は核暴走の爆発に耐える強度をもっていない、炉心を溶かす訳にはいかないので冷却する 冷却材の循環のほかに、有効性は疑問だが緊急時の冷却システムも準備
中性子発生源 核分裂の火種となるので必要 制御をするためには中性子束の測定も不可欠
核分裂生成物の管理 広島・長崎の原爆破壊の後始末で、多くの人員が二次被曝者となった 原発が始まった当初は管理できる方法が見つかると考えられていたが、いまだに解決策なし 未来永劫の子孫の負の遺産となる、危険の押し付け合いになっている
使用と設置 自国内では核兵器は使えない、他国には使う 利益を享受する電力消費地には設置しないが、安全と宣伝し地方に設置。 危険と引き換えの交付金が麻薬のような効果を建設地元に与える

水色の色つき部分の違いが原子力発電所の炉型の違いとなります。そして、赤い部分が平和利用という名で地元や子孫を苦しめる元となっているものです。


次回の基礎講座その4は、「原子力発電所の炉型」と「減速材と冷却材」と「高速増殖炉」を取り上げます。

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