みんなが喜んでくれたから、ヒゲくん、もっと話しをしちゃおうかな。 イギリス人というのは恐い話しが大好きなんだ。
そもそも建っている建物だって築100年なんてのザラだしね〜。
ロンドンの街を歩いている人の半分は幽霊だって話しさ。
ヒゲくん?ヒゲくんは幽霊じゃないよ。
妖怪さ。イヤ、違うよ!ヒゲくんは吸血鬼なんだ。
吸血鬼というのは美青年って決まっているからね。
そこのキレイな彼女〜。
今夜ヒゲくんが枕元に現れて血を吸っちゃうぞぉ〜
ヒゲくんね、あんまりピンポンダッシュされるから今は
引っ越してしまったんだけれど
それまではロンドンのハイゲイトというところに住んでいたんだ。
ハムステッドとも言うけれどヒゲくん、カッコイイから地名なんて
どうでもいいんだよね。
ここも上品で優雅なところだからヒゲくんにピッタリだろ。
緑に溢れる静かな住宅街でね。
近くに公園がいっぱいあるんだよ。
ハイゲイト・ウッドという公園は女王から出入り禁止にされているから
行かないようにしているけれど行ったってわかんないよーだ。
一番大きな公園はハムステッド・ヒース。
ヒゲくんの心の広さぐらい大きいんだ。な〜んちゃって。
東京の1区ぐらいは入る大きさかも。
ここでヒゲくん、良くヒッピーに散歩させられてる、
イヤ、ヒッピーの散歩をしているんだ。
このハムステッド・ヒースがね、出るんだよ。
おっかなかったかい?ヒゲくんに抱き付いたっていいんだよ。
おっと、カワイイ子だけだよ〜ん。
公園と言ったって、本当に公園なんて思えるところはほんの一部でね、
名前の通り、荒地みたいなところなんだよ。
全体が丘の上でそうだね、天然のゴルフ場みたいなところさ。
基本的に夜間立入禁止で
夜、ここをふらふら歩いていると7つ星ホテル行きなんだ。
ヒゲくんはロサンゼルスで危うく7つ星ホテル行きだったけどね。
何回話してもこのネタはイケるだろ。あと10年は使うつもりだよ。
あれ?何の話しをしていたんだっけ?
そうそう、そのハムステッド・ヒース。
そんなところだからさ、昼間はいいんだけれど
日が沈むと気味悪いよ。街灯があるわけでもないしさ。
いろんな逸話があってね、
夜になるとそこで交霊会が開かれていたり、
黒魔術の儀式が行われていたりするらしいんだ。
生贄に使われた動物の死骸なんかもたまにあるらしいよ。
それよりもね、夜になるとトイレに行けなくなるような話もあるんだよ。
昼間、トイレに行ったら捕まっちゃったヒゲくん。おもしろいだろ。
西側にね、パーラメント・ヒルと呼ばれてる区画があるんだ。
それはね、ずっとずっと昔にヨーロッパでペストが流行した頃のことさ。
その頃、ヒゲくんはまだ生まれていなかったから
詳しくは知らないんだけれど、悲惨な話しだったらしいよ。
まだペストがねずみを媒体にして感染する病気なんてことも
知られていなかった頃だからね。
誤解やデマが多かったわけさ。
そこそこの肉屋の肉を食べたのが原因だとかね。
ヒゲくんにチューされるとヒゲ病にかかって動きが変になるなんてのも
そうだよ。誤解だよ、まったく。
ものすごい数の死者が出て、イギリスの人口の3分の1が
減ったなんて言われているよ。
当然、死体処理も間に合わないんだ。
もともとイギリスは土葬なんだけれど埋めた人からも感染するからって
火葬していたんだ。
それも間に合わなくなってしまって
パーラメント・ヒルに死体を一括に集めて焼いて、そのまま埋めたそうなんだよ。
ところがね、ペストにかかった人から感染するし、ペストにかかったら
最後、というのがあって、まだ生きているというのに
感染を恐れて、一緒に焼いてしまったんだよ。
おっかないだろ。
遠慮することないよ、カワイイ子はヒゲくんのムネに飛び込んでおいで。
そんな話しがあるんだよ。ちょっとヒゲくんの知性が出てしまったね。
今でもそこには沢山の骨が埋まっているらしいんだよ。
夜になるとね、そこから生きているのに焼かれてしまった人の
叫び声が響き渡るらしいんだ。
それは恐ろしい声だそうだよ。
ワーッ!
驚いた?驚いただろう〜。
ヒゲくんって、オ・チャ・メ。
でもヒゲくんはその声を聞いたことは無いよ。
日が沈んだらおうちに帰るも〜ん。
何しろ、そこは夜間、立入禁止だからね。
ちゃんと規則は守らなくちゃいけないよ。
いい男というのはちゃんと規則を守るもんなんだ。
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