夏の夜の

あれはヒゲくんがまだワムだった頃の事だったな。
ヒゲくん美少年だったからバリバリのアイドルだったんだよ。
もちろん、みんなは信じるよね。
それでね、ヒゲくんはカッコイイヒゲくんにピッタリの家を
初めて買ったんだよ。
ロンドン郊外のサニングデイルというところさ。
ここは貴族なんかが多く住む、貴公子のヒゲくんには
まさにピッタリのところだったんだ。
新聞広告で見つけたんだよ。
ほら、金曜日の折り込み広告に入って来るじゃないか。
駅から徒歩0分なんてね。

4つのベッドルームに広いリビング。リビングには暖炉があって
総大理石なんだ。貴公子のヒゲくんらしいだろ。
室内プール付きで室内プールの隣りには更衣室があって
広いバスルームに続いているんだ。
メインのベッドルームは天井が鏡張りになっていてね、
カッコイイヒゲくんの姿がベッドの中から見れるわけさ。
家具付きでね、ベッドはクィーンサイズで楕円形をしているんだよ。
セクシーなヒゲくんにピッタリさ。
庭もかなり広いんだよ。リンゴ、プラムの木があってさ。
ちょっとした果樹園みたいだったから
この家にはオーチャードメイナーというニックネームが付いていたのさ。
庭には池もあってね。日本庭園風の作りになっているんだ。
英国紳士は日本庭園を持つのが夢というものだよ。
ヒゲくんは何と言ったって英国紳士だからね。
それなのに日本円にして8000万という価格なんだよ。
ヒゲくんって買物上手だろう。
いい主夫になれる自信はあるさ。
セキュリティーシステムだって完璧さ。
キッチンにモニターがあってね。そこから誰が来たのか分かるんだ。
もうピンポンダッシュなんてさせないよ。犯人はわかっちゃうんだからね。

もともとはダイアナ・ドーズという女優さん夫婦の家だったらしいんだ。
経緯は分からないけれど売りに出されてたってわけだよ。
ヒゲくんはカッコイイから元の持ち主なんて誰でもいいさ。
家具付きだし、ヒゲくん自身だけが行けばいいだけなんだ。
さっそくヒゲくんはその家に移り住んだってわけさ。羨ましいだろう。
もちろん、友達を呼んでお披露目パーティーさ。
ところがだよ、ヒゲくんの友人たちはすぐにヒゲくんのことをからかうんだ。
「あれ、ジョージ。お前もスミに置けないな〜。誰だよあの年増美人。」
知らないよ、ヒゲくん。
シャーリーも変なこと言うんだよ。
「ジョージ、あのマリリン・モンローそっくりな中年女性は誰?」
ヒゲくん知らないよ。全く知らないことさ。

来る人、来る人、みんながマリリン・モンローそっくりな恐ろしく綺麗な
中年女性をヒゲくんの家で見たと言うんだよ。
みんなでヒゲくんのことカツいでいるのさ。だってヒゲくんはカッコいいからね。
いろんな人に妬まれるもんさ。
ヒゲくん、この家で一人でゆっくり寛ぐのが大好きだったんだ。
リビングにはバーもあるからヒゲくんハンフリー・ボガードさ。
「そんな昔のことは忘れたよ。」なんてね。キマッてるだろ。
思わず踊っちゃったんだ。
ヒゲくん、ダンスも最高だからね。

ところがね、ヒゲくんも見ちゃったんだよ。
お風呂から出てタオル一枚で廊下をウロウロしていたら
白いガウンを着たマリリン・モンローそっくりな中年女性が
ヒゲくんのベッド・ルームに入っていったんだよ。
 ヒゲくん、初体験の時に中年女性で懲りているから中年女性は苦手なんだけれど 
あれだけキレイな女性だったらヒゲくんいいかも〜な〜んてね。
ワクワクしてヒゲくんベッドルームへ行ったんだよ。
ところがね、誰もいないんだ。
ヒゲくんがあまりにもカッコいいからビビっちゃったんだね。
だからヒゲくんは一人で眠ったんだ。
夜中にね、ふと目が覚めるとその女性が横に立ってて
ヒゲくんの顔を見ているんだよ。
 ハンサムだからってそんなに見つめるなよ〜。テレるじゃないか〜。と思ったけれど 
女性はものすごくおっかない顔をしてヒゲくんにこう言ったんだ。
「どうして私のベッドで寝ているの?ここは私の家よ。」
良く分からないけれどヒゲくん、思わず「ハイそうです。」と言っちゃったんだ。
それからどうしたんだろう。覚えてないな。ヒゲくん目が覚めたら朝だったんだ。

このことをね、友人に話したんだよ。
友人は信じてくれたよ。ヒゲくんはいつでも誠実だからね。
それでここの家の前の持ち主のことを調べてくれたんだ。
ダイアナ・ドーズという女優さんのことをね。
彼女、イギリスのマリリン・モンローと呼ばれていて
マリリン・モンローそっくりの女優さんだったんだ。
ヒゲくんが見た女性だよ。
友人たちと家の中をいろいろ捜したり、庭を探索したり、
まわりのことを調べたりしてたんだ。
そしたらね、ヒゲくんの家のすぐ近くにある墓地にその女優さん夫妻の
お墓があったんだ。女優さん夫妻はこの家をとても愛していて、
亡くなった後はこの家の庭にお墓を建てて欲しいと遺言を残したらしいんだけれど
親族がこの家を売りに出すことになったから近くのこの家が一望出来る
丘の上の墓地に埋葬したらしいんだよ。
夫妻は交通事故で不慮の死を遂げたらしいんだ。それもこの家の前でね。

それからヒゲくんはどうしたかって?
もうその家には住んでいないよ。
すぐに実家に帰ったんだ。次の家が見つかるまでね。
ヒゲくん、おっかなかったからじゃないよ。
みんなが手放した方がいいって言うからさ。
そんなことで怯えるようなヒゲくんじゃないさ。
みんながそうした方がいいって言うからさ。
素直なヒゲくんはみんなの意見に従っただけのことだよ。
人間、素直が一番ってことさ。

それじゃあね。


ヒゲくんより愛を込めて。XXX○○○LOVE ALWAYS

 

みんなが喜んでくれたから、ヒゲくん、もっと話しをしちゃおうかな。

イギリス人というのは恐い話しが大好きなんだ。
そもそも建っている建物だって築100年なんてのザラだしね〜。
ロンドンの街を歩いている人の半分は幽霊だって話しさ。
ヒゲくん?ヒゲくんは幽霊じゃないよ。
妖怪さ。イヤ、違うよ!ヒゲくんは吸血鬼なんだ。
吸血鬼というのは美青年って決まっているからね。
そこのキレイな彼女〜。
今夜ヒゲくんが枕元に現れて血を吸っちゃうぞぉ〜

ヒゲくんね、あんまりピンポンダッシュされるから今は
引っ越してしまったんだけれど
それまではロンドンのハイゲイトというところに住んでいたんだ。
ハムステッドとも言うけれどヒゲくん、カッコイイから地名なんて
どうでもいいんだよね。
ここも上品で優雅なところだからヒゲくんにピッタリだろ。
緑に溢れる静かな住宅街でね。
近くに公園がいっぱいあるんだよ。
ハイゲイト・ウッドという公園は女王から出入り禁止にされているから
行かないようにしているけれど行ったってわかんないよーだ。
一番大きな公園はハムステッド・ヒース。
ヒゲくんの心の広さぐらい大きいんだ。な〜んちゃって。
東京の1区ぐらいは入る大きさかも。
ここでヒゲくん、良くヒッピーに散歩させられてる、
イヤ、ヒッピーの散歩をしているんだ。

このハムステッド・ヒースがね、出るんだよ。
おっかなかったかい?ヒゲくんに抱き付いたっていいんだよ。
おっと、カワイイ子だけだよ〜ん。

公園と言ったって、本当に公園なんて思えるところはほんの一部でね、
名前の通り、荒地みたいなところなんだよ。
全体が丘の上でそうだね、天然のゴルフ場みたいなところさ。
基本的に夜間立入禁止で
夜、ここをふらふら歩いていると7つ星ホテル行きなんだ。
ヒゲくんはロサンゼルスで危うく7つ星ホテル行きだったけどね。
何回話してもこのネタはイケるだろ。あと10年は使うつもりだよ。

あれ?何の話しをしていたんだっけ?
そうそう、そのハムステッド・ヒース。
そんなところだからさ、昼間はいいんだけれど
日が沈むと気味悪いよ。街灯があるわけでもないしさ。
いろんな逸話があってね、
夜になるとそこで交霊会が開かれていたり、
黒魔術の儀式が行われていたりするらしいんだ。
生贄に使われた動物の死骸なんかもたまにあるらしいよ。
それよりもね、夜になるとトイレに行けなくなるような話もあるんだよ。
昼間、トイレに行ったら捕まっちゃったヒゲくん。おもしろいだろ。
西側にね、パーラメント・ヒルと呼ばれてる区画があるんだ。
それはね、ずっとずっと昔にヨーロッパでペストが流行した頃のことさ。
その頃、ヒゲくんはまだ生まれていなかったから
詳しくは知らないんだけれど、悲惨な話しだったらしいよ。
まだペストがねずみを媒体にして感染する病気なんてことも
知られていなかった頃だからね。
誤解やデマが多かったわけさ。
そこそこの肉屋の肉を食べたのが原因だとかね。
ヒゲくんにチューされるとヒゲ病にかかって動きが変になるなんてのも
そうだよ。誤解だよ、まったく。
ものすごい数の死者が出て、イギリスの人口の3分の1が
減ったなんて言われているよ。
当然、死体処理も間に合わないんだ。
もともとイギリスは土葬なんだけれど埋めた人からも感染するからって
火葬していたんだ。
それも間に合わなくなってしまって
パーラメント・ヒルに死体を一括に集めて焼いて、そのまま埋めたそうなんだよ。
ところがね、ペストにかかった人から感染するし、ペストにかかったら
最後、というのがあって、まだ生きているというのに
感染を恐れて、一緒に焼いてしまったんだよ。
おっかないだろ。
遠慮することないよ、カワイイ子はヒゲくんのムネに飛び込んでおいで。

そんな話しがあるんだよ。ちょっとヒゲくんの知性が出てしまったね。

今でもそこには沢山の骨が埋まっているらしいんだよ。
夜になるとね、そこから生きているのに焼かれてしまった人の
叫び声が響き渡るらしいんだ。
それは恐ろしい声だそうだよ。

ワーッ!
驚いた?驚いただろう〜。
ヒゲくんって、オ・チャ・メ。

でもヒゲくんはその声を聞いたことは無いよ。
日が沈んだらおうちに帰るも〜ん。
何しろ、そこは夜間、立入禁止だからね。
ちゃんと規則は守らなくちゃいけないよ。
いい男というのはちゃんと規則を守るもんなんだ。

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