ポケモン座談会『ONEPIECE』

座談会目次に戻る

        話題の海賊マンガ,「ワンピース」を読んだポケモン達が,「これは面白いね」と,おしゃべりのタネにしています。

第一回 2000年5月15日

出席者:ヤドン,ラプラス,ブラッキー,カイリュー(進行役),エビワラー

 「今度,僕たちの話を,『ほしのや別館』でみんなに聞いてもらうことになったよ。
いつも,トレーナーのほしのやが出かけて留守の時なんか,みんなでよく好き勝手におしゃべりしてるけど,
ここでは,テーマを決めて話をすることにしよう。
最初は,今話題の海賊マンガ「ワンピース」を採りあげることにした。
みんな,コミックスの3巻まで読んでみたところだね。
まずは,それぞれどんな印象を持ったか,一言ずつ話してみて。」
 「痛快だな。最初は,「はやってるマンガ」ときいて,どんなものかと思ったけど,これは面白い。」
 「話のテンポが速くて,まどろっこしくなくていいや。」
 「ルフィって,よく食べるね。」
 「絵は,鳥山明や松本大洋を思い出しますね。」
 「だが,やせぎすの少女マンガ風の人物もあったりしたぞ。」
 「まあ,それは好きずきかもな。」
 「これ,日本の話?」
 「町並みも,人名も,日本じゃなさそうだな。」
 「でも,ゾロってハラ巻きしてるし,おにぎり食べてるよ。」
 「変なやつだな。」
 「時代背景も,はっきりさせていませんね。
『大航海時代』とは言ってますが,いわゆる世界史で勉強する15世紀以降の大航海時代とは明らかに違いますよね。」
 「しかし,銃はバカに旧式だし,だいいち帆船だ。」
 「一度終末戦争があった後の,未来かな。」
 「なるほど。」
 「ナミが説明してた世界地図,変だったよ。」
 「地球かどうかも怪しいか。」
 「いずれにしても,特定してないようですね。場所も時代も。」
 「特定されていない背景の中に,読み始めてすぐ引き込まれちゃうよね。僕も,このマンガは気に入った。
でも,読んでいるうちに,いろいろなことが気にならなかった?
それは逆に,「印象的」というところでもあるはずなんだけど,そういうところにちょっとこだわってみようと思うんだ。
まずは,『卑怯』という言葉について。
これは,旅立ちの港町で,少年ルフィを助けにきたシャンクス達に対して,山賊が使う言葉だけど,シャンクス達はそれを全く意に介さない。
これについて,みんなはどう感じたかな。」
 「シャンクス達自身が,「自分たちは卑怯なのだ」と認めたことになる,と思ったぞ。」
 「でも,相手も「卑怯」な山賊だからな。」
 「どっちも卑怯なの?」
 「いや,卑怯な相手にまともに付き合ってなんかいられないだろ?」
 「卑怯な相手に対して採る,一見「卑怯」な手段は,「卑怯」ではないということでしょうか。」
 「だが,シャンクス達は,「俺達は海賊だぜ」とうそぶいていた。
それは,「自分たちもまっとうな人間ではない」と言っていることじゃねえのか?」
 「海賊って,人殺ししたり,どろぼうしたりするわけでしょ?」
 「このマンガにいう「海賊」は,ちょっと違うのかも知れませんよ。
あくまで「ワンピース」獲得を目的とする,荒くれた投機的ベンチャー集団を,
この世界では「海賊」と称する,という見方もできませんか。」
 「そうだとしたら,「俺たちゃ,ベンチャーだぜ」とタンカを切っても,あまりかっこよくはねえな。」
 「タンカのかっこよさはともかく,シャンクス達は卑怯なのか?」
 「ねえ,「卑怯」ってなに?」
 「よせよ。そんなの決まってるじゃねえか。」
 「どう決まってるの?」
 「正々堂々と勝負しないで,ズルい手を使うことを「卑怯」ってんだ。」
 「よくわかんない。」
 「早い話が,正面向き合って殴り合うのが「正々堂々」で,コッソリ後ろから殴るのが「卑怯」だ。」
 「コッソリ後ろから殴るのが卑怯なの?」
 「あたりめえよ。」
 「でも,相手の方が強かったら,正面から殴り合ったらやられちゃうじゃない。」
 「そんなの,自分が弱いだけじゃねえか。」
 「強いくせに,弱い相手と正面から殴り合うの,ズルくない?」
 「強くちゃいけねえか。」
 「弱いのって,いけないの?」
 「いけなかねえけど,しょうがねえだろ。弱いくせに勝とうとすんなよ。」
 「じゃ,弱い人は,いつも負けてなきゃいけないの?」
 「ま,そうだな。」
 「ひどいじゃない。たまたま強いからって,いつも勝つなんて,ズルくない?」
 「強いのは「たまたま」じゃねえ。一生懸命鍛えたから強いんだ。」
 「鍛えればみんな同じに強くなるの?」
 「そうよ。」
 「でもやっぱり,その中でも,強い人と弱い人とはあるんでしょ?」
 「あたりめえよ。みんな引き分けなんて,バカなことがあるか。」
 「じゃ,結局鍛えても弱い人は,ずっと負けてなくちゃならないの?」
 「鍛えていれば,弱いといったって相手の弱点を突くことはできるんだ。」
 「え,弱みにつけ込むの?ズルくない?」
 「何なんだ,おめえは。じゃ,おめえは一体どう考えてるんだ。」
 「わかんない。エビちゃん,知ってるみたいだからきいてみたの。」
 「う…。そう言われると,よくわかっていなかったのかも…。」
 「結局,「卑怯」って,どんなことなんだろうな。」
 「やっぱり,その場その場で,相手によっても,また,受け止める人によっても違ってくるんでしょうかね。
なにが「正々堂々」で,なにが「ズルイ」かなんて,決まった基準はないんでしょうね。」
 「まあ,あの場面のシャンクス達に限って言えば,「卑怯」ではなかったんだろうな。」
 「そういえば,最初にシャンクスが山賊に出会ったときにその場で退治しておけば,
そもそもあんなさわぎにならなかったんじゃないかと思ったけど,
みんなはどう思う?」
 「そうだな。してみると,シャンクスはちょっとカッコつけすぎたのかな?」
 「カッコつけて,笑っていたということですか?」
 「騒ぎを起こせば,みんなが迷惑するから我慢したんじゃないのか?」
 「あんな山賊,ほっときゃどっちみち騒ぎを起こすじゃねえか。」
 「確かに。少なくとも,「俺達の目が光っているんだぞ」という警告を示すことはできたかもな。」
 「そんな事件を経て,ルフィは10年後にいよいよ旅立ったね。
そのルフィに,海軍志望の弱腰コビーが惹きつけられたのが,「命がけ」ということだった。
自分の目的に命をかけるルフィが,輝いて見えたということだろう。
僕は,この「命がけ」とは,どういうことなんだろうと思ったのだが,
みんなはどういうのを「命がけ」だと思う?」
 「目的達成のためには,命を捨てても惜しくないということだろうな。」
 「待てよ。命を捨てては目的など達成できないからこそ,カイリューは問題にしているんじゃないのか。」
 「あっ,そうか。」
 「命を惜しまなくては,生きて目的を達成することなどできませんよね。」
 「普通に考えれば,航海術もなく,泳ぐことさえもできずに船出したルフィは,タダのバカだ。」
 「しかし,樽で漂流して切り抜ける度胸があったじゃないか。」
 「おまえはそういうのを「度胸」と言うか?」
 「いや,コビーがそう言ってた。」
 「やっぱり,目的達成のために,地道な準備をしていたとはいいにくくありませんか。」
 「しかし,生半可な覚悟では,困難な目的を達成することなどできないのは,本当だぞ。」
 「それは,命をかけるかどうかとは別のことだろう。」
 「ねえねえ,「命をかける」って,どういうこと?」
 「それを今話してるんじゃねえか。やっぱり,「命」を「かける」んだろうな。」
 「かけるってことは,とられちゃうこともあるんだよね。」
 「死んじまうわけか。」
 「つまり,「命」なんか「かけ」ても,目的達成のためには,何のたしにもならないということでしょうか。」
 「もののたとえじゃないのか。つまり,大きな目的達成に伴う大きな危険は覚悟すべきという。」
 「「覚悟」ってどういうこと?」
 「予測される不利益な状況に対して,仮にそうなった場合であってもそれを甘受すると,ハラをくくることでしょうか。」
 「甘受しちゃうの?」
 「切り抜けなきゃしょうがないよな。」
 「じゃあ,どんな困難な状況におちいっても,あきらめずに切り抜ける,という決心が「覚悟」か。」
 「切り抜ける苦労の甘受かな。」
 「すると,「命がけ」とは,仮に命に関わるような重大な危険をこうむることが予測される場合であっても,
あえてそれを冒し,実際にその重大な危険が現実のものとなったときには,
何としてでもそれを切り抜ける,という固い決心ということになるんでしょうか。」
 「コビーは切り抜けようとした?」
 「してないよな。」
 「イカツいおばさんが振り下ろす金棒につぶされると,あきらめただけだな。」
 「でも,「悔いはない」って。」
 「命を無駄にしても悔いはない,ということにしかならないな。」
 「ルフィは切り抜けようとした?」
 「向こう見ずに船出した挙げ句,樽で漂流ですか。どうなんでしょう。」
 「二人とも,あまり「命がけ」じゃないぞ。」
 「軽率で,無謀なだけか。」
 「そういうこともないんでしょうけどね。「命がけ」っていうのは,言葉で言うほど簡単じゃなさそうですね。」
 「じっくり考えてみると,いろいろわからなくなってくるね。
でも,このマンガが面白いことは間違いなさそうだ。
今日はこの辺にして,また次回,テーマをしぼって話をしてみよう。」