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木について考える U July 13 2013 HOME



長い時間、固い木をシコシコと切ったり、サラサラと削ったりしていると、いろいろな想いをめぐらすようになる。

自然素材、天然素材としての木は、その木肌や杢など、人の顔かたちが違うのと同様、まったく同じというものはない。

その異なる素材をどのように活かすべきか、どんなつくりにしたらいいのか、それが製作者に与えられた特権だ。

そして、洋の東西を問わず、木を神格化している民族が多いのも事実。

森の国として有名な、北欧のデンマークやノルウェーには、「森」をテーマにした神話や民話がいっぱいある。

カナダのインディアンたちは大木に彫刻をほどこし、トーテムポールとして、家の前や墓地などに立てている。

日本の アイヌ人だって、森や木にもそれぞれのカムイ(神)が存在していると信じている。

アイヌにとつてのカムイとは、神格を有する高位の霊的存在であり、我々が考える「神」以上のものだ。

信州・諏訪大社の御柱祭はあまりに有名な話、伐採が祭りの直前で、どの柱もおよそ10トン以上の重量がある。
 
その大木を古色豊かに、人力だけで山から引き下ろしたり、命がけで坂から転げ落としたりする。

大木で忘れてはいけないのが縄文の遺跡、青森の丸山・山内遺跡の栗の大木。

それは、直径で80センチ以上だったといわれ、しかも6本が整然と並んで建てられていたという。

屋久島の縄文杉にしても、推定にしても三千年も生きつづけていると云うことは、
 
台風の通過路になっている場所柄から見ても、それはもう、神に近いものと見ていいでしょう。

この町内の浅間神社にも「ご神木」があり、毎年、その祭典にあたっては「しめ縄」「おしめ」で飾っている。

『神木(しんぼく)とは、古神道における 神籬(ひもろぎ)としての をさし、ご 神体のこと。

また 依り代神域結界の意味も同時に内包する木々をいう。(Wikipediaより)』

町内の先人達も、巨大化したヒノキの大木を「ご神木」として、神格化していることも事実。

◇ 命の樹

木がなかったら、もちろんヴァイオリンだってつくることはできないし、

それ以前に、大きなことを云うようだが、生物をはじめとする地球の存在さえも考えられないわけです。

緑豊かな大地、生物の進化に必要な、適量の酸素源としての植物であり、木は、すべての生態系の根源をなしています。

まぁ、そんなことは普通の方なら考えもしないでしょうが、ひとり、作業に熱中していると真剣に考えてしまうのです。

二酸化炭素がいっぱいの、焼土のような太古の地球に海ができ、原始的な珪藻類が生まれその中の葉緑素が光合成をして、

大気中に充満していた二酸化炭素を吸収、酸素をはき出して大気の中に酸素を増やしていったのだといいます。

それからシダ類が生まれたり、いろいろな植物や生物が進化してきました。

植物の進化に伴い、もちろん動物だって進化し続けています。

われわれだけではなく、生物全体を考えても、植物の存在なしには、その生命すらも考えられないのです。

そして、食物連鎖の頂点には、かならず植物の存在があります。

例えば、肉食の哺乳類にしても、草や木を食べている草食動物を捕食して生きているし、肉食昆虫や肉食魚類にしても同じ。

筆者が今朝、食べたパンやコーヒー、バナナも植物。

自家製のカスピ海ヨーグルトだって、草や雑穀で育った乳牛からつくったもの、最後には、必ず植物に帰着します。

そうしたことから考えても、人をつくったのも植物であり樹を神格化してもおかしい話ではないということになるのです。

それだけに、木工・人間としては、どんな木でもそれぞれの価値を認め、それを活かすのが自分の使命だと思うのです。


 なぜかカエデに  ◇ 腐敗と発酵? スパルテッド・メイプル  ユニークな斑模様

「木について考えるT」で紹介した斑入りの「富士山のカエデ」や、北米産の「スパルテッド・メイプル」などは、食品でいえば発酵のようなもの。

発酵しちゃってメイプルシロップが化学変化をおこしたのでは、と私は考える。

確かに、削っていると模様の場所により、明らかに育ちの違いが分かるほど固い軟らかい、という差を感じる。

スパルテッドというのは、カエデ.の樹が、自然界で育っている間に何らかの理由で、根から、あるいは樹の傷口から

真菌という「菌が入り込み」、その菌糸が樹の中心部から全体に広がり、このような斑模様になるのだという。

とくに北米のメイプルは、メイプル・シロップを採るために、樹に傷をつけるためスパルテッドになる確率が高いという。
富士山のカエデ
富士山のカエデ材でつくった裏板
北米産スパルテッド・メイプル
北米産スパルテッド・メイプルのソリッド・ギター


日本の、銘木中の銘木、黒柿も同じ理屈のようだが、柿だけに、渋みのタンニンが黒くなる理由だという説もある。

次の写真は、銘木屋さんの店頭で売られている、黒柿の原木と、その製品例。
(写真はネットから拝借)

黒柿の原木
銘木店で・・・
一万本に一本の確率という大変な希少種。

黒柿の製品

じつは、発酵と腐敗とは、微生物学的に見るとまったく同じ働きなんだそうだ。 

つまり、人にとって都合がいいものは「発酵」と呼び、下痢や腹痛、食中毒などの害になる不都合なものを「腐敗」と呼ぶのだそうだ。

生ものでも、発酵させると腐ることなく保存食品になったり、猛毒のテトラドトキシンいっぱいのフグの卵巣でさえ、

糠漬けで3年も発酵させると、それはそれは美味で、珍味な食材に生まれ変わるというから不思議!

さてさて、楽器の世界では、ギター・メーカーがいち早くスパルテッド・メイプルを製品化(上の写真)している。

実際に、あちらのネット・オークションe-Bay でも、このスパルテッド・メイプルが使われているソリッド・ギターが売られている。


こんな楽器を見せつけられると、個性派の小生はこんな裏板のヴァイオリンがあってもいいのでは・・・と、

大いに食指が動き、何点かの原木を個人輸入してゲットした。
左右(写真では上下の柄)がシンメトリー、
中央で割ったものをブックマッチで貼り付けて一枚にしたもの。



ギターのように表面が平らなものは、中央で剥いだそのまんまの
シンメトリーな柄がきれいにでることになる。

そのスパルテッド・メイプルでつくられたギター。
ここでは関係ないことだが、指板に刻まれた螺鈿の象眼がすばらしい!
いずれも、美しいランダムな斑模様が活かされています。

一昨年(2011年)のこと、アメリカのネットオークションe-Bay で、北米産の変わった杢のカエデ材を見つけた。

これは、ワシントン州の製材所などが出品しているもので、何種類か、なかなか魅力のある素材があった。

写真のような、黒もしくは黒褐色の無作為な斑模様になっているスパルテッド・メイプル(spalted_maple)がまずひとつ。

斑模様がキルティングのように見えるのでキィルテッド・メイプル(quilted_male)と呼ばれているもの。

そして、ヴァイオリン杢が細かくカーリー(巻き毛)に見えるカーリー・メイプル(curly_maple)などが主なもの。

そのほかクラフト・ナイフの柄に向けてとか、万年筆、車の木製ギヤー・グリップ用になどなどに向くようにと、

カエデ材の根っこの部分や、変化のある斑模様のコブ(burl)の部分など、マジックインクほどの

小さい部材から、やや小型のテーブル向きの用材まで、いろいろと出品されているのである。

見つけたの良かったが、サイズがすべてインチ表記、電卓を片手に、サイズを換算しながら選ばなければならない。

ご覧のように、エレキ・ギター向きに製材して、大まかな外形をチョークで枠取りして売り出しているもの。

だから、材の巾や長さはヴァイオリンやヴィオラには楽勝で、まったく問題はない。

問題は板厚、ヴァイオリンの用材とは違いVの字のミカン割りではなく、平板状態で扱っているので、

アーチをとるためには、1/2in(12.7mm)では少なく、最低でも5/8インチ(15.8mm)以上は必要になる。

ただ、上の写真のように、杢が左右対称になっているものは、Vの字のミカン割りではなくても、
ほぼそれに近いもので、いわゆる中心で接ぎ合わせるタイプの2ピースものと同じ。

ただし、この場合のVの字は、ヴァイオリン用材としてのVであり、樹の中心から外に向かって
Vの字を形成する。つまり、左のイラストのように、尖って入る方が中心にくるである。

結果として、さらにそのVを半割すると、その板のどこをとっても髄線が真っ直ぐの正柾目となる。

だから、原木のどこからでも、適当にVにカットしたものではない・・ということを明記しておきます。

ただ、リブ材だけは原材の巾が広いだけに、左右両端から楽勝でとれる。

そのほか、できればネック用の部材も同じ樹種、似た程度の「杢」のものが必要になる。

スパルテッド・メイプル(spalted_maple)
北米産スパルテッド・メイプル
キィルテッド・メイプル(quilted_male)
北米産キィルテッド・メイプル
カーリー・メイプル(curly_maple)
北米産カーリー・メイプル

さて、落札価格だが、「Buy it now !」として表示されているものは、そのままの値段で買えるものとして結構、出ている。

左上のものや、またこのすぐ上のものでおよそ70、80〜150ドル程度、いずれも木の質や杢の出方、厚さで値段は異なる。

アメリカからの送料は、航空宅配便で60ドル前後、二枚か三枚になるとおよそ90ドルほど。

これらはギター用で、長さが 22インチ(56cm) × 巾 14インチ(35.5cm)であるが、板厚だけは 5/8インチ(15.8mm)以上のものを選ぶ必要がある。

なお、私が買ったこの会社は、ワシントン州の buzzsaw-international という会社。

この出品者は、ネット通販を1998年からはじめ、会社はワシントン州、

その美しいオオバカエデ (Big leaf Figured maple)を世界に届けたい・・・というポリシーでやっている製材所。

同社だけでも、400点以上のいろいろなアイテムが出品されているので、好きなものだけに、

ボクは、AKB48のアイドル写真でも見るように、電卓を片手に、何時間、見ていても飽きることはない。

「二枚だと送料はいくら?」程度の、中学生の英会話程度の「Q&A」のやりとりでも、十分意思疎通が可能。

メールでの応答や発送などの対応もよく、間違いないです。

また、支払いはPAY-PALという支払い代行会社だけにカード番号を報告。

格安な手数料でやってくれるから、カード情報が他に流出する心配はまったくない。

表板にするなら、ホワイト・スプルース(White spruce)やエンゲルマン・スプルース(Engelmann spruce)だが、これはまた別会社の出品。


つまりは、まぁ、男の道楽として、一度、ゴルフのコースにでも出たとか、

カラオケ・バーにボトル一本キープしたと思えば安いもの・・・と考えるわけですよ。

ちなみに、小生、タバコも何年か前にやめたし、ゴルフずっと昔にギブアップ、酒は一切やりません。
こちらは、表板向きの北米産スプルース


 
これは、北米産のスプルース(Engelmann)だが、1set-20ドル前後、少しいいもので24ドルで売っている。
の程度の木目なら、習作用や実験用として使う分には申し分ない。
これよりもうちょっと目が細かいもので1set24ドル。

これはヨーロッパ産のキルテッド・メイプルだが、
樹種としてはバーズ・アイ・メイプル(鳥の目カエデ:bird's-eye)。

欧州産のキルテッド・メイプル

これは北米産のキルテッド・メイプル。




東欧産のヴァイオリン〜すみやコレクション





中国製のキルテッド・メイプル製〜すみやコレクションの一台。


こちらは、根元に近い瘤(burl と書かれているが、これは木の瘤のこと)で、これはこれで濃密な柄が出ていて面白そう。

右側は、非常に淡泊なキルテッドになっているが素材を活かすという考えで見ると、ヴァイオリンにする際、そのまま使わずに、
中央線の取り方を黄色い線に変え、斑模様の「おいしい部分」を強調するようにすると、これも、結構、面白いもの。
たまたまこのようにカットされて出されたものであるが、中心線を上のように変更した方が、木の髄線から見て素直な木取りになるのでは思う。

向かって右側が樹の根っこの方になり、樹、そのものの外形もかなり太くなっている場所、
一方、左は徐々に細くなって伸びている。
髄線のうねりから推察すると、樹の中心線から見たら、この黄色い補助線がほぼ垂直になっているだろう。
という風に考えながら見ているのが、また、楽しみなんです !!
富士山のスパルテッド(在庫・残り分と使用例)







グァルネリ・モデルでつくったもの。
グァルネリらしく、ボタントップのクラウンには黒炭のエッジを回した。 こちらは、黒っぽい、スパルテッド特有の斑模様だけでほとんどフレーム
(ヴァイオリン杢)は見られないものだが、捨てるには忍びず、思い立って
2014年5月、グァルネリ・モデルとしてつくり始めた。 ヴァイオリンに使われる「カエデ」を特集して書いたページはこちら  随時、追記していくつもりです。
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