Butterfly

ツマグロヒョウモン 蝶の観察記録

05.9.18

HOME


05年 7月17日、朝日新聞・日曜版の[Do科学]という欄に「温暖化で北上してきたチョウ」の記事が載った。
その中のひとつがタテハチョウの一種、ツマグロヒョウモンというチョウ。
ツマグロヒョウモン ♀ ツマグロヒョウモン ♂
ツマグロヒョウモン♀ ツマグロヒョウモン ♂

おりしも三年前ほど前のこと、裏庭の柚の木に大きなグロテスクな芋虫。
家内に呼ばれ、デジカメをもって写したのが次の写真、これはアゲハの幼虫。

アゲハチョウの幼虫
背中には、コブラのような大きな目玉模様が入っている。
これは、たぶん鳥などの外敵に食害されないような工夫?が
なさせれて進化したものと、私は推測している。

このアゲハの「食草」は、もっぱら柑橘系の木、
そのために我が家の裏庭、柚の木についていたもの。
アゲハチョウの幼虫
彼?は、手を近づけたりすると、柑橘系を食べているせいか、
腐ったミカンのような独特の匂いを出す角をニョキッと出し、近づく外敵を威嚇。

頭のてっぺんから、ニョキッとV字型に突き出している黄色い角がそれ。


いままで気にも止めなかった蝶。しかも、もともとの生まれが南の島、南の国なのだ。

それが、地球の温暖化でどんどんと北上してやってきたというものだという。

1970年くらいのときには、九州や四国あたりでよく見られたらしい。

それが紀伊半島から本州を徐々に北上、昨今では東北の入り口ぐらいまで来ているらしい。

そして、昨年のはじめだったか、神奈川で幼虫が越冬しているのが発見され、ニュースで報じられた。

蝶は、不思議なことに生まれ育った種類・品種の草に卵を生み、それを食べて育つことも新聞で知った。

その草のことを、とくに「食草」と呼んでいる。 ツマグロヒョウモンは、その食草がスミレパンジー(スミレ類)

さいわいにして、我が家には知人からいただいたヴィオラ・フレックスという園芸品種のスミレが、ふえにふえていたのである。

ご承知かも知れないが、スミレの種子は子房が3つ、熟すとそれが3つに別れ、パーンとはじいて種を周辺一帯に飛ばすのだ。

Viola sororias 'Fleckles'  viola_seeds
完熟するとパチンと反り返るようにはぜ、タネを、結構、遠くに飛ばす。
この二枚の写真は、ネット上から拝借しましたまた。
このスミレの正式種名は、Viola sororia 'Fleckles' といい、アメリカスミレ・サイシン類の仲間。
スミレの中では比較的、普及しているし、また、人気のある種。

日本の園芸界ではフキカケスミレとも呼んでいる。和名の通り、インクの霧を吹き掛けたような小さな斑点があるからだ。
ちなみに、原名の[Freck] というのは、斑点とかソバカスのこと。
庭や鉢植え、それにプランターのスミレを食べ尽くすと、妻から『ねぇー、餌を採りに行こう!』と、
屋外の土手などに自生しているスミレを採りに行くのだ。

いよいよ、そられもなくなると、ホームセンターの園芸売り場に行き、特売のパンジーを買ってやったこともあった。

その新聞記事を見て以来、家内ともどもチョウに興味を持つようになり、
ここ富士山麓でも
南国生まれの、このツマグロヒョウモンを何度も見かけたことがあった。
外を歩いているとき、車の運転中、仕事で出先に行ったときなど、意識しているせいか、ほんと、よく見かけるようになった。


その年の春先、雨上がりの後、『珍しい、きれいなチョウがクンシランにとまっているよ』と 家内の呼び声。
こちらが、ツマグロヒョウモン ♀
ツマグロヒョウモン ♀ 開花したクンシランに、まだ羽化して間もないチョウがとまっていた。


このチョウが、後日、興味をもつことになったツマグロヒョウモンの
メスであることは、その時点では知るよしもなかったが、
その美しさに感動し、早速、デジカメで撮影。
そんな一抹の期待もあって、今年の春先からはスミレを鉢植えにしたり、プランターに移植して、
家内は、ときどきツマグロヒョウモンの幼虫の存在をチェックしていた。

8月末、ようやく庭のスミレに幼虫が食べた痕や、葉の裏に小さな幼虫(ケムシ)がいるのを家内が発見した。

幼虫からサナギへ
幼虫とはいっても毛虫です。 でも、この毛は柔らかく刺すようなことはありません。
気がついた最初は、数ミリしかない小さな黒い毛虫状の幼虫。
トゲトゲはあっても、刺さないというから安心して触ることもできる。
それが数日のあいだに、背中にオレンジ色のストライプが入った、
4、5センチの幼虫に成長するのだ。
9月2日には、脱皮して茶色のサナギになった。

左下の赤丸には、脱ぎっぱなしの靴下のように、黒い幼虫の抜け殻が・・・。

そのサナギは、透明のプラスチックの水槽に入れ替え、毎日、観察をつづけた。

黄金色だったサナギも、翌日には黒褐色にかわり、固く身を閉ざしているように見えるが、でも触ったりすると、身をくねらせてピクピクと動く。

このまま越冬するのか、もう一度羽化して成虫として生きるのか、
そこまでの生態はわからない。

それが9月11日の早朝、家内の「羽化したよー」の声。

グロテスクなサナギから脱皮して、いよいよ立派なメスの成虫が生まれた。
幼虫からサナギへ脱皮
羽化 〜 成虫

羽化したばかりのツマグロヒョウモン♀

黒バックを背景に、家内のためにつくったガラスケースの中で羽化。
プラスチックではなく、よく拭きこんだガラスだから画像は鮮明。
羽化したばかりのツマグロヒョウモン♀

居間の窓辺には、咲いたランの鉢が置けるように得意の木工で、その窓枠に、巾12cmほどの化粧板をつけてある。

その上に置いたオンシジュームの鉢、その花にとまらせて観察。

でも、なかなか思うようなポーズをしてくれない。

それもそうでしょう、彼女らから見ればカメラをもった大人がふたりいるわけで、
生まれて初めて目にする外敵にでも見えたのでしょう。
すぐに後ろ向きになるのです。
メスには、ツマグロの和名通り、羽の先にはっきりとした
白黒の模様が入いっている。

この模様さえも、外敵である鳥から見れば、怖い目玉のように見えるだろうし、
オスから見れば、きっと、はっきりメスと認識できる模様なのだろう。
いつでも戸外に放せるように、居間の窓辺に場所をうつして見ていたら、セミの羽化と同様、二度ほどオシッコをしたり、何度も何度も、ゆっくり羽ばたく練習もしていた。なんと美しく、健気なチョウ! 

その繊細な美しさに、ただ、ただ感動する。
羽化がはじまってから数時間後、彼女?は元気に飛んでいった。
この写真は、当初、使わずにボツにしたものでしたが、
先日、MOを整理していて古い写真の中から見つけた。

その理由は、羽化したばかりのチョウを、
家内が嬉々として手の平に載せ、私に見せに来たときのもの、
でも、このチョウの特徴がほとんど写っておらず、それで使わなかったもの。

しかしながら、亡くなった家内の手が写っているし、たかがチョウのことでも、
本気で喜ぶ、その姿や笑顔が想いだされて、あらためて載せることにした。

(July 16  2012 追記)


天真爛漫な、笑顔がとてもチャーミングでした。

孵化したばかりのチョウ


智津子

9月14日朝、3匹目にようやくオスが生まれた。

オスの羽はやや単調、 ツマグロではなく、
ただの豹模様だけ、まさに、大阪のおばちゃん好み?

ベランダで咲いていたランにとまらせて、パチリ!
家内も大喜び。

たわいもない、たかがチョウ、されどチョウの世界。


地球の温暖化が叫ばれていても、
なかなか実体感はもてなかったし、
また、実際に目にすることもできない。

だが、そんな自然界の知らないところで起きている生命の偉大な営みを、目の前に見せてくれたし、夫婦の会話も大きな話題となって盛り上がった。

その後、家内が集めた幼虫たちは
次から次へとサナギになり、羽化していった。
南国の島からの渡りチョウとしてはアサギマダラも有名で、このチョウもなかなかファンタスティックなチョウ。
全国には、捕獲しては羽根にマーキングし、追跡調査をしているグループあるほどファンも多い。

観察用のガラス・ケースを作成
幼虫からサナギへ1
幼虫からサナギへ2
所定の大きさに育った幼虫は、食事をやめ、高いところによじ登っていく。

そこは日陰であり、羽化しても十分な余裕があり、外敵からも見えないような
安全な場所を選んでいるようにも見える。

左はすでにサナギになっている。上のものは、さらに高いところによじ登っている。
尻から糸を出してぶら下がり、体をやや縮めてサナギになるのを待っている。

そして、逆さにぶら下がったまま、そのまま一晩以上じっとしている。

左側の、写真のサナギはまだ中に成虫がはいっていますが、
この写真のものはすでに抜け殻になっています。

幼虫からサナギへ3 幼虫からサナギへ4
下の個体は、翌朝、さらに縮んでいた。 ほんの2、30分、目を離した隙に、すでにサナギになっていた。
それくらい、短時間に彼らは脱皮してしまう。
だから、サナギからの脱皮がなかなか見ることができないのです。
幼虫からサナギへ5 幼虫からサナギへ6
サナギからの脱皮は、逆さになったままの姿勢で、
ちょうどボディ・スーツを頭から肩、胸と脱ぐように、モゾモゾともがき、
上になっている尻の方に押しやって脱いでいく。
ほんの3、4分のできごとで、すっかりサナギになっていった。
左下には、羽化し終わってサナギにぶら下がっているオスが一羽います。
ご覧のように、プラスチック製の蓋には、サナギや抜け殻がいっぱい!
サナギから成虫へ1 サナギから成虫へ2
このケースの向こう側に見える、青いチェックのシャツは、今は亡き家内。

意外にも、サナギから羽化するチャンスの画像がなく、大声で呼ぶ家内の声にデジカメをもって駆けつけて撮ったもの。

考えてみれば、セミのように、まだ暗い明け方とか真夜中ならいざ知らず、昼間だと昆虫にとっては羽化はいちばん不用心な生態。

だから、短時間である方がチョウにとってはベターなわけである。 そのために、これだけ見ていてもいつも見逃していたのだ。
サナギから成虫へ3 サナギから成虫へ4
このようにして、9月末日までには我が家のプランターや裏庭で見つけた幼虫、 30匹はすべて羽化させ、外界に放った。

自然界の中だと、そのままでは、きっと、鳥や、アリ、カマキリ、アシナガバチからスズメバチなどに、何割かは食べられていただろう。

よく世話をしていた家内も、ケースの向こう側でやさしく見守っている。(ブルーの半袖シャツ)

また、来年帰ってきて我が家のスミレに卵を産み、その次の年も、またその次の年も、この子たちやその子供、さらに孫やひ孫たちにも逢いたいものである。


HOME