豊臣秀吉

 

 秀吉は、現在の日本では最も人気のある日本史上の人物と言えそうである。他に、秀吉に匹敵するような人気のありそうな日本史上の人物といえば、源義経・織田信長・坂本龍馬といったあたりだろうが、知名度や印象度を考慮すると、やはり秀吉が最も人気があるのではなかろうか。
 秀吉人気の要因はというと、全くの庶民から天下人にまで昇りつめた、ということなのだろうが、確かに、概ね史実が判明するようになってからというもの、明治よりも前に全くの庶民から最高権力者にまで昇りつめた人物は秀吉くらいであり、明治以降にもそうはいない。
 だが、秀吉が徳川氏のように長期政権を築いていたとしたら、その人気は果たしてどうなっていただろうか。秀吉人気の要因として、豊臣政権が短期政権に終わり、子孫が秀吉の次代に攻め滅ぼされて断絶した、という点も挙げられるように思う。世界的にどういう傾向なのか、私の知見では断言はできないが、日本では判官贔屓というものがあり、弱者や(最終的)敗者や悲劇的な最期を遂げた人物に人気が集まる傾向もある。
 もっとも、日本人の歴史上の人物の好みの傾向を、判官贔屓だけで説明することはできないのだが、冒頭に挙げた三名も悲劇的な最期を遂げているわけで、まあ日本人の心情の一つの典型的な在り様を示しているとは言えるだろう。長期政権を築き上げた家康はかなりの苦労人で、人気の出る要素も大いにあるとは思うのだが、現在では「狸親父」などと言われてあまり人気はない。
 仮に秀吉が長期政権を築くのに成功していたら、朝鮮出兵や太閤検地の際の「撫で斬りにしても・・・」との指令など、秀吉の暗黒面が強調されて、現在のような人気はとてもなかったのではなかろうか。これは秀吉に限らず、源義経・織田信長・坂本龍馬などにも同様のことが言えるのだろう。特に織田信長は、稀代の暴君として忌み嫌われていたかもしれない。まあ、現在でも信長をそのように嫌っている人はいるが・・・。

 

 

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