塩について
塩は、人類にとって必要不可欠である。無論、塩をそのまま直接に摂取しなければないないということはなく、例えば塩を用いて作る醤油や味噌といった形で摂ってもよいわけで、普通は加工食品や調味料から摂ることになるのだが、ともかく塩分を摂らなくては人間は生きてはいけないのである。故に、人類にとって塩は非常に重要な物資であり、塩を巡って激しい闘争が起きることもあるし、塩が貨幣としての役割を担うこともある。
中国においても塩は非常に重要な物資で、塩の専売が常時行われるようになった唐代半ば以降は、歴代の王朝政府にとって最も重要な財源となった。中国は、その面積に比して塩の産地は限られていて、また古くから統治機構が発達していたから、塩の生産・販売を統制するのは比較的容易だった。
塩は誰もが摂取しなければならないものなので、塩を専売として税をかけると、国民全員が税を負担することになる。国民個々人(企業や法人といった単位でも構わないが)の資産や収入に応じて税を課すというのは大変な労力を要するし、統治機構の大いに発達した現在でも脱税が後を絶たないくらいだから、ある物資を政府が指定した商人だけに請け負わせてその商人を通じて間接的に税を徴収するという専売制度は、権力側にとってある意味では楽な徴税方法である。
歴代の中国諸王朝にとって、産地が限定されている・誰もが必ず摂取する必要がある、という二点において、塩は申し分のない専売物資で、これに大きく依存することになった。当初は原価10銭の塩を110銭で売っていたのだが、後には360銭で売るようになり、明治になって中国に渡った日本人が、中国では砂糖よりも塩が高いと知って驚いたそうである。
普通なら、そんな高いものなど買えるか!ということになるのだが、塩は必ず摂取しなければならないだけに、塩の専売というのは、実に巧妙というか狡猾な手法と言うべきだろう。更に、塩は摂取し過ぎても良くないので、個人の摂取量に大差が生じず、従って富者も貧者も負担額は大して変わらないことになる。この点からも、塩の専売は実に悪しき制度だったと言えよう。
生活必需品がこうも高いとなると、やはり闇商売が横行することになる。唐代以降の中国諸王朝は塩の専売に依存していたから、塩の闇商売は厳しく取り立て、闇商売が横行して利益が減ったので税率を上げていったが、そうすると闇商売の側も利益が上がるので一層横行することになり、正にいたちごっこであった。塩の闇商売の横行は、中国各地に秘密結社の増加を促したという。何だか、PCソフトの高額化と違法コピーに類似した現象のようにも思われる。
日本は、その地形から面積に比して塩の産地が多かったということと、統治機構が未熟だったことから、「全国」規模での塩の専売は明治になるまで行われなかったが、江戸時代には、塩の専売を行っている藩もあった。仙台・加賀の両藩は、江戸時代を通じて塩の専売を実施していたそうである。