出アフリカ説の再検討

 

 人類の第一次出アフリカについての通説を覆すような発見があったとの報道があった。一定期間が経過すると記事は削除されるようなので、以下に引用する。

 

猿人に近い原人の頭骨、西アジア・グルジアで出土

 西アジアのグルジア共和国・ドマニシ遺跡の約175万年前の地層から、脳の容積が小さくて猿人に近い特徴を持つ、原人の頭骨化石が出土した。発掘した同国科学アカデミーや米北テキサス大などの国際チームが5日発行の米科学誌サイエンスに発表する。

 アフリカで誕生した人類は、大きな脳と高い歩行能力を獲得した原人(ホモ・エレクトス)になってから、ユーラシア大陸へ進出したとされてきた。今回の化石は原人に分類されたものの、別種と言えそうなほど原始的。人類が、脳が小さい段階でアフリカを出たことになり、従来の考え方に見直しを迫る発見と言えそうだ。

 化石は、頭骨と下あごがほぼ完全に保存され、全体的にきゃしゃで小ぶり。同遺跡ではアフリカ以外では最古の約175万年前の頭骨化石が2個見つかっているが、いずれも脳の容積が約800ccなのに対し、今回の化石は約600ccで原人とするにはぎりぎりのサイズ。より猿人に近いハビリス人に似ているという。

 人類は約600万―500万年前、アフリカの類人猿から猿人に進化し、ハビリス人などの初期ヒト属を経て、原人になった。アフリカを出た原人の一部は、アジアへ到達し、インドネシアのジャワ原人や中国の北京原人になったとされる。

 馬場悠男・国立科学博物館人類研究部長の話「進んだ知能と長い足の獲得というユーラシア進出の条件が揺らぐことになる。より猿人に近い人類が長距離移動していたとなれば、化石人類の分散を考える上でも影響がある」

 

人類最初の出アフリカを行なったのは、ホモ=エルガステル(エルガステルという種区分を認めなければ、エレクトス)、つまり「原人」だとされてきたが、グルジアから普通は「原人」とはされていないホモ=ハビリスに似た化石が発見されたとのことで、その通説を再検討する必要が出てきたといえよう。

事の真偽はまだ不明な点もあるが、年代自体は、ハビリス化石だとしたら妥当なところだろう。ただ、ホモ=ハビリスは何かと問題の多い種で、ホモ(ヒト)属ではなくアウストラロピテクス属ではないか、単一種ではなく複数種ではないのか、そもそもハビリスという種区分が成立するのか、といった様々な疑問が提示されている。とはいえ、アウストラロピテクス属とするにも「原人」と評価するにも微妙な化石人骨群があるのは確かで、今回発見された化石もそうした人骨群に属すのだろう。

とりあえず、そうした人骨群をハビリスに分類しておくとすると、問題は、ハビリスは人類史上においてどのような位置付けになるのか、ということである。今回発見された人骨は、以前にグルジアで発見されたエルガステル人骨とほぼ同年代のようで、アフリカでも、エルガステルとハビリスがほぼ同時代に存在していた期間もあったから、両者は別種とするのが妥当なところであろう。

ただ、エルガステルはどういう種から進化したのかというと、どうもハビリスの一派であるように思われる。つまり、ハビリスの一派から200万年前近くにエルガステルが登場し、その後、一定期間エルガステルとハビリスは共存していたが、それは従来いわれてきたようにアフリカにおいてだけではなく、ユーラシア大陸の一部においてでもある、ということになろう。その後の人類史の展開を考えると、ハビリスは絶滅し、エルガステルの系統からエレクトスやハイデルベルゲンシスが登場したのだろう。

今回の発見は、いわゆる猿人はアフリカ以外では発見されていないという通説を覆すかもしれないもので、その意味では確かに衝撃的であったが、だからといって、人類アフリカ起源説を否定するものではないし、現生人類の起源をめぐる論争に直接影響を与えるというものでもないだろう。

 

 

歴史雑文最新一覧へ   先頭へ