人類史系統樹の見直し
人類史系統樹におけるアウストラロピテクス=アフリカヌスの位置付けについて、見直しが必要とする見解が発表されたとの報道があったので、以下に翻訳してみる。私の英語読解力の低さと意訳のため、原文に忠実な翻訳とはなっていないが、大きな間違いはないはずである。
翻訳の前にまず雑感だが、アウストラロピテクス=アフリカヌスは、100万年前に絶滅し現生人類とは別の進化をたどったパラントロプス属の祖先である可能性もある、と私は認識していたので、驚いたということはないが、仮に新たな年代観のほうに妥当性があるのだとしたら、人類には同時期に複数種いたとの見解が、これによりますます揺ぎないものになったといえよう。
ただ、この新たな年代観のほうが妥当だとしても、アウストラロピテクス=アフリカヌスの位置付けも含めて、人類史の系統樹を復元するにはまだまだ不明な点が多いと言わざるをえず、今後の発掘と検証に期待したいところである。以下が翻訳である。
年代推定競争の新たな展開
南アフリカのもっともよく知られた化石群の多くの年代について、ウィットウォーターラント大学の研究チームにより新たな推定がなされ、人類進化の時計が100万年繰り下がることとなった。だが、同研究チームによる我々の進化系統樹の再整理について、科学界の全員が歓迎ムードというわけではない。
クリューガーズドルプの近くのスタークフォンテインにある人類の「揺り籠」が、考えられていたよりも100万年新しいことに研究者たちは気付き、再推定した結果、南アフリカの猿人で人類の祖先と考えられてきた猿人のアウストラロピテクス=アフリカヌスが、初期ヒト属の一員とほぼ同時期に並行して存在していたことが分かった。
ウィット大学古人類学研究調査部門長のリー=バーガー氏、およびダリル=デ=ルーター氏・ロジャー=ラクルーズ氏は、スタークフォンテインにあるアウストラロピテクスの堆積地の推定年代を改めた。彼らの調査結果は、アメリカ自然人類学誌の10月号で公表される。
だが、スタークフォンテイン洞窟の年代推定の専門家であるティム=パートリッジと、ウィット大学で気候学研究グループと共同研究をしている地質学者は、この結果を酷評している。「彼らのうち誰一人としてスタークフォンテイン洞窟で研究していないのに、どうして通説に異議を唱えられるというのでしょうか?彼らがいつどこでこの結果を導いたのか、私は知りたいのです」とパートリッジは言う。
パートリッジ氏は、彼と世界各地の科学者からなる研究チームもまた、新たな年代推定技術の開発を続けてきている、と言い、次のように続けた。「我々の調査結果もまもなく公表されますが、私が言えるのは、現在まで使用されてきた年代推定法の結果を確定するものだ、ということだけです」。
パートリッジの研究チームの完全な年代推定技術により、科学者は、他の場所で発見された資料と比較することなしに、発見物の正確な年代推定ができるようになるだろう。
南アフリカの充実した化石史を巷間に普及させた、世界的によく知られた古人類学者であるフィリップ=トビアス氏は、年代推定結果の変化を知らなかった。「改訂された推定年代について言及する前に、まず記事を読まねばならないでしょう。我々が現在使用している年代推定法は、世界のトップクラスの科学者たちの研究に基づいています」とフィリップ氏は言う。
スタークフォンテインの初期人類とその祖先の遺物の年代推定は、長期間にわたって論議を喚起した。火山岩盤のおかげで物理・化学的に正確な年代推定のできる東アフリカとは異なり、南アフリカでは、科学者はそれほど正確ではない比較年代法に頼らねばならないのである。
スタークフォンテインには火山岩はなく、遺物は白雲岩か石灰岩の洞窟で発見される。水が石灰岩を溶かし、溶解により洞窟の底部で砂と骨が混合し、角礫岩と呼ばれる化石を含むコンクリート状の混合物が形成される。
バーガー氏は、生物の年代順を推定することは、南アフリカ地域の年代推定でもっともよく使われてきた方法だ、と言う。この比較年代法は、同じ層の他の化石の年代を推定するために、年代の特定されている化石基準を用い、人類を含むものでもある。バーガー氏の記事には「絶対的な年代推定法はまだなく、南アフリカの化石の絶対・相対年代を確定するにさいして、我々は多角的な方法に依拠しています」とある。
パートリッジ氏は、スタークフォンテインの複雑な角礫岩層の解釈のために、地質学的なモデルを考案した。彼はスタークフォンテインの地層を各年代に分け、それをメンバーと呼び、最古のものから最新のものまで年代順に分類した。底部のメンバー1が最古で、メンバー6が最新になるという。古磁気による年代推定によると、人工物の磁気特性が研究されているところでは、南アフリカの最古の人類化石のいくつかは350万年前だとしている。
バーガー氏の研究チームは、スタークフォンテインの動物相がそれらの年代と一致しないことに気付き、化石は304万年以上前ではありえないと断定した。
現在では彼らは、リトルフット化石が発掘されたスタークフォンテインのメンバー2は300万年前より新しく、以前は280〜240万年前とされていたメンバー4は250〜150万年前だとしている。
バーガー氏は「スタークフォンテインの人類がより早期の人類と比較してきた古人類学のこの30〜40年間は、より後の人類と比較しなければならないとなったら、新たな事実により動揺することでしょう。人類進化の全体的な中間枝は、再評価が必要となるでしょう」と言っている。
「揺り籠」で発見された人類の身体的特色との矛盾が、バーガー氏とその研究チームに、何かが違うと警告した。彼らの形体は、年代から推測されるよりも発達した人類であることを示していたのである。
デ=ルーター氏は「アウストラロピテクス=アフリカヌスを200万年前近くに位置づけることによって、この議論は解決します。我々は、南アフリカの初期猿人を、他の場所の違った初期人類種と比較してきました」と言っている。新しい年代推定技術は、これまで発見されたもっとも完全な初期人類であるリトルフットにとって、はっきりとした関連がある。
バーガー氏は「リトルフット骨格が従来言われてきたほど古いことを示す証拠は現在のところなく、じっさい、ミズプレスのような化石よりも新しいかもしれない」と言う。
バーガー氏による新しい年代推定は、長い間ヒト属の祖先と考えられてきたアウストラロピテクス=アフリカヌスが、むしろ人類の系統樹の側枝のほうに相応しいことを示している。