現生人類の起源を巡る新展開

 

 今年の元旦から半年以上ずっと更新しておらず、その間に古人類学では重大な発表が相次いだので、中には、いまさら「新展開」と表題に掲げるのも恥ずかしい話題もあるのだが、わりと最近に発表された話題もあるので、まあよかろうとは思う。

まずは、ジャワのエレクトスが現生人類とは異なった進化を遂げていた、との発表である。100万年以上前、数十万年前、20〜数万年前、という異なる年代のジャワのエレクトス化石を比較したところ、ジャワのエレクトスは年代が下るにつれて特殊化していった、とのことである。
 これにより、遺伝学の分野だけではなく、形態学の分野からも、ジャワのエレクトスがオーストラリア先住民へと進化した、との従来の多地域進化説が、東南アジアにおいても成立しがたいことが明らかになったものと思う。
 ネアンデルタール人も年代が下るにつれて特殊化していき、その特殊化が現生人類の特殊化とは異なることが明らかになったことから、多地域進化説派は、ネアンデルタール人→クロマニヨン人という進化図式から、アフリカからの解剖学的現代人とネアンデルタール人との混血説へと転向していったが、東南アジアにおいても、同様に混血説へと転向していくことになりそうだ。

上記の話題にも関連することだが、アフリカ・西アジア・欧州において苦境に追い込まれた多地域進化説派の拠り所となってきたのが、東アジア・東南アジア・オセアニア(オーストラリア)で、中でもオーストラリアは、エレクトスと現生人類との明確な連続性が認められるとして、最大の根拠とされてきた地域であった。
 多地域進化説では、オーストラリアへの人類の移住を古くに想定する傾向があるが、今年になって、オーストラリア最古の人類は、従来考えられてきた(6万年前)よりも新しい(4万年前)、との発表があった。これだけでは多地域進化説を否定する根拠とはいえないが、単一起源説にとっては都合がよいともいえよう。
 また、多地域進化説の重大な根拠とされてきた、オーストラリアの「頑丈型人類」と「華奢型人類」との存在についても、「頑丈型」と「華奢型」がいるのではなく、性別の違いに基づくものではないか(男は「頑丈型」、女は「華奢型」)、との見解も提示されている。

上記二つも重要な発表だったが、6月になって発表されたエチオピアの化石は、今年の古人類学に関する報道の中では断然の衝撃的なものであった。ホモ=サピエンス=イダルツと名付けられたこの化石は、確実な最古のサピエンス化石とされたのである。
 従来、オモ(エチオピア)やクラシーズ=リヴァー=マウス(南アフリカ)で出土したサピエンスの最古の化石候補は、年代的にやや不確実なところがあったのだが、イダルツの推定年代はそれらよりもずっと確実で、約16万年前とされた。オモ出土の1号化石でも、せいぜい13万年前にさかのぼる程度とされているから、現時点ではまず間違いなく最古のサピエンス化石である。
 これにより、アフリカにおける現生人類への進化の軌跡はいっそう明らかになり、同時代の他地域にサピエンス化石が発見されていないことから、現生人類アフリカ単一起源説にとってはますます有利な状況になった、といえよう。

 

 

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