『イリヤッド』の紹介
基本的な情報
アトランティスおよびそれにまつわる謎の探索を主題とした作品です。小学館より刊行されている『ビッグコミックオリジナル』の2002年11号より連載が開始され、2007年6月20日発売の2007年13号(7/5号)にて完結しました。全123話です。単行本も、2007年7月30日発売の15巻で完結となりました。2013年には文庫版が刊行され、2013年6月15日発売の10巻で完結となりました。原作は東周斎雅楽氏、画は魚戸おさむ氏です。
特色
アトランティスおよびそれにまつわる謎の探索が主題ということで、歴史ミステリーとしての性格が強くなっていますが、アトランティスについての真相を隠蔽し続けてきた、残忍な暗殺集団である「山の老人」との対決というサスペンスとしての性格もあります。また、ヒューマンストーリー的性格も強く、歴史ミステリーを主軸としつつ、サスペンスとヒューマンストーリーの融合した作品となっています。
歴史ミステリーとしては、古典や伝説の些細とも思える一節から、歴史上の事件や各地の信仰などの様々な要素を結びつけつつ伏線をはっていき、その伏線が新たな展開をもたらすととともに、以前にはられた伏線とつながっていくという重厚な構造となっています。また、創作史料・遺跡も登場します。
サスペンス面では、「山の老人」や主人公の入矢以外の一部のアトランティス探索者との対決という構図になりますが、「山の老人」も一部のアトランティス探索者も残忍なだけに、死者がかなり出ています。しかし、作品全体としてはあまり殺伐とした印象は与えないのは、主人公の入矢修造がちょっと抜けたところがあり、愛嬌のあるキャラクターとして描かれていることと、ヒューマンストーリー的性格が強いからなのでしょう。
ヒューマンストーリーの側面では、夢がキーワードとなります。登場人物の多くは心に傷を抱えているのですが、夢をけっして諦めようとしない入矢の姿勢に心を打たれて立ち直る、というパターンの話が多くなっています。そもそも主人公の入矢自身が心に傷を負った人物として登場し、ユリとの出会いを契機として立ち直ることにより、物語が始まっています。また作中では、夢を見られないことは深い心の傷があることを意味しており、アトランティス人は夢を見ないというヘロドトス『歴史』の記述と関連して、夢は歴史ミステリーの側面においてもキーワードになります。
アトランティスにまつわる謎について
サスペンス・ヒューマンストーリー的性格が強いとはいえ、『イリヤッド』の主題はあくまでもアトランティスにまつわる謎の解明です。フィクション・ノンフィクションを問わず、多くのアトランティス本の最大の焦点はその場所で、次に存在年代・文明水準・担い手などが重要な関心事となっています。作中におけるアトランティス文明は、イベリア半島の南西部とアフリカ大陸の北西部に領土を有し、その都は、スペイン南西部の、セビーリャを頂点としてティント川とグアダルキヴィル川に挟まれた三角地帯内にありました(場所はこの地図を参照してください)。この三角地帯はかつて海で、その真中にはいくつかの島がありました。現在はドニャーナ国立自然公園になっています。
『イリヤッド』でも、場所を含めて上記のような謎の解明が重要な関心事となっていますが、最大の関心事は、秘密結社がアトランティスにまつわる真相を隠蔽しようとする理由の解明にある、と言ってよいと思います。その理由とは、アトランティス人が語り継いできたある真相が、人類から夢を奪う・人類にたいへんな衝撃を与えるからということなのですが、秘密結社はいわば「人類の護民官」として、アトランティス探索を妨害してきた、というわけです。その真相とは、ネアンデルタール人が現生人類に語った進化論的な話のようですが、連載が完結しても、どうも私にはすっきりと説明することができません。もういちど、最初から読み直して考察するつもりです。