こどもの城開館20周年記念
青山円形劇場+ゴーチ・ブラザーズ共同プロデュース公演
『胎内』

作/三好十郎
演出/鈴木勝秀
出演/長塚圭史 伊達暁 奥菜恵

2005/10/30 東京/青山円形劇場

終戦2年後のある雨の日。
人知れぬ山中に掘られた洞窟に入ってくるひと組の男女。
男・花岡金吾(伊達)は汚職事件に絡んで逃亡生活を続けている。
そして女・村子(奥菜)はその愛人で、温泉旅行と聞いて付いてきていた。
二人は追っ手の目を逃れる為、
しばらくこの洞窟に身を潜めることにする。
しかし、そこにはもうひとりの男が潜り込んでいた。
復員兵・佐山富夫(長塚)である。
佐山は言う。この洞窟は自分が掘ったものだと。
彼は終戦間際に召集され、戦地に赴くこともなく、
こんな山奥で毎日毎日穴を掘らされ、
上官からは暴力を受け、身も心もボロボロになった。
そして終戦後、家に戻ってもなかなか定職に就けず、
妻からも子供からも蔑まれ、居場所が無くなって、家を出、
あちこち彷徨ったあげくこの穴に戻ってきたのだ。
彼は生きる気力を無くし、世の中の全てを軽蔑し、
この穴の中でただ朽ちていくのを待ってているようだった。
一方、花岡と村子は、あふれる生命力を誇示せんがごとく饒舌に、
自らの生きざまを話し続ける。
花岡は言う。
「世の中のすべのもの(神や愛?)は金で手に入れることはできないが、
それでも大概のものは金で手に入る。その大概のものを積み重ねてみろ。
それは神や愛にもなるじゃないか」「世の中のすべては金だ」と。

そんな中、地震で洞窟の出口が塞がれてしまう。
三人は慌てて入り口付近を掘るが一向に穴は開かない。
狭い穴の中で食料も水も残りわずか。空気の出入り口すら分からない。
パニックになる花岡と村子。
「どうしようもないじゃないか」という佐山。
死に向かう閉ざされた洞の中で交錯し合う三人の感情…

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疲れました。
演じる側はもちろん、観る側も非常に体力を消耗するお芝居だったです。
終演後、頭がボーっとしてしまって、しばらく立ち上がれませんでした。

ステージにはいわゆる「舞台」は無く、
洞窟をイメージさせるごつごつした地面があるだけ。
真ん中には水たまり。天井からはポタポタと水滴が落ちてきている。
ところどころはスポンジのような素材になっているのか柔らかく、
まるで泥濘のよう。
そこで思いっきり取っ組み合いをされるので、
泥が散り、役者さんも髪も服もドロドロになって、
とても鬼気迫るものがありました。
台詞の量もハンパでなく膨大で、しかも昔の言葉使いだったりするので
付いていくだけでも大変、という感じでした。
でも、みなさん台詞を自分のものにして、話せていたと思います。

長塚さんは、やっぱ素敵でした。
こんなにがっつりと「役者」としての長塚さんを観たのは初めてでしたが
何て言うか…凄かったです。(うまい言葉が見つかりませんbb)
最初、場内がだんだん暗くなって暗転。
そして中心だけポッと明かりがともり、そこに佇む長塚さんを観た時、
ぞわぞわっとした感じがして涙が出そうになりました。
存在感。がすごくある人だと思います。
佐山は、場面場面で別人のようにキャラが変わる
というか感情が変わるので
とても大変そうだなと思いました。
長塚さんて、背も高いしスタイルもいいのだけれど、
何とも言えず儚げな印象もあって
佐山という役にピッタリだと思いました。

伊達さんは、観るごとに凄く良い役者さんになってるなぁ〜と思います。
今回とても声が印象的で、良かったです。
ブローカー・花岡、という役にしては若いというか
凄味に欠けてたのかもしれないけれど
わたし的にはピッタリでした。
とても強がっているのだけど実際はとても弱く子供のようで
最後一番に壊れてしまった花岡は、嫌な奴だけど切なかったです。

奥菜さんは本当に可愛かった。
でも、家族の為に好きでもない男の妾になって、したたかに生きてきた、
村子という女性もしっかり演じれらてたと思います。
最後は母のように二人の男性を膝に抱いて
広さというか深さというか、そんなものも感じました。
小さいのに、パワーのある女優さんですね。

戦争の、今まで知らなかった哀しさを見ることができたと思います。
今まで戦争ものといえば、
戦地で散っていった人の話を見ることが多かったから。
佐山のように、国のために戦って死ぬことも出来ず、
ボロボロになってしまった人たちも沢山いたんだ
ということがショックでした。
やはり戦争を体験した人の書いた本ということで
何十年経っても衰えない
「生に対する執着」「生命力」のようなものを感じました。

災害や事故で、誰でもいつこのような極限状態に陥るか分かりません。
でもそんな状況におかれた時、果たして自分はどうなるのか…
今までの人生を認め、全ての人を愛することができるのだろうか…
そんなことをグルグルと考えています。

今、この作品に出会えて良かったと思います。
観念的な台詞をただそれぞれが言い合っているような作品で
普段だったら苦手な部類に入ると思うのですけれど
今回は台詞も頭にすっと入ってきたし、観て良かったと思えたから。

うーんでも正直まだ、自分の中で消化しきれてないですね。。。
うまく感想が纏まらないです。

できれば戯曲を読んでみたいです。

カーテンコールで観れた役者さんたちの充実した顔も素敵でした。