SIS company Produce
『写楽考』

原作/矢代静一
構成・演出/鈴木勝秀
出演/堤真一 長塚圭史
   高橋克実 キムラ緑子
   七瀬なつみ 西岡徳馬

2007年4月28日(土)14:00 開演
東京/Bunkamura シアターコクーン

時は江戸・天明の世。
あの男(堤)、伊之は貧乏侍の子・勇助(長塚)と
長屋で共同生活を送りつつ絵の勉強をしていた。
しかし毎日酒を呑み、女と遊び、のんきに暮らしていて、
絵に対しても「地獄を描きたい」とは言うものの
そんなに真剣では無い様子。
堅物の勇助に日々説教をされるが気にせずのほほんとしている。
そこにひょんな事で転がり込んでくる浪人、幾五郎(高橋)。
彼は老中・田沼意次の暗殺を企てる一味のひとりだが
こちらもどうにも呑気な様子。
伊之はある大店の奥方、お加代(キムラ)と不倫関係になっているが、
ひょんな事でお加代が死に、
伊之はお加代殺しの下手人として追われることとなる。
そして10年後。
勇助は「喜多川歌麿」として大ブレイク。
超人気浮世絵師となっている。
田村意次暗殺に失敗した幾五郎は
滑稽本作者・十返舎一九として世に出ようと歌麿の下で働いている。
そこへ、長い逃亡生活でやつれ果てた伊之と
彼と一緒に逃げていたお加代の家の雇われ人、お米(七瀬)がやってくる。
伊之の描いた浮世絵を見て欲しいと頼むが
歌麿は冷たく突き放す。
そこへやってきた版元の蔦屋重三郎(西岡)
かつては売れない絵描きだった頃の勇助と伊之の面倒をみていたが
今の歌麿には相手にされていない。
蔦屋は伊之の絵を見て、それを売り出すことにする。
名前を「東洲斎写楽」とし、謎の絵師として絵を描くことになる伊之。
その浮世絵は一気に人気を博する。
しかし、お米が「お加代殺しは自分の仕業」と申し出たことで
逆に伊之は捕まり、縛り首にされることになってしまう。
謎の絵師、「写楽」と、その周りに生きた人々の話。

1回目。
席は後ろの方だけれど見えないほどでもなく、わりと良い感じ。
客電が落ちる前、舞台上に現れる人影。
どどん!
和太鼓の音にみんなビクっっとする(笑)
横笛の甲高い音、和太鼓のお腹に響く音を聞きながらだんだんと暗転。
舞台上方から写楽の大きな浮世絵が降りてきて
がぜんワクワクしてきます。
そして音が止み、ふっと客席にスポットが当たり、
忽然と現れる高橋さん演じる幾五郎。
この役は狂言まわし的役回りもあります。
一気に物語の世界へ。。

堤さん演じる写楽が、
筆を銜えキッと前を見ているチラシなどの写真で
謎の絵師、写楽のなんとなく狂気な世界を描くのかな
と思っていたのですが
(この物語の中の)写楽こと伊之は、
自分の意思よりも、周りの状況に流されて翻弄されてる男
という感じで描かれていて意外でした。
本当の戯曲では4時間くらいかかる作品だったらしいのですが
今回の演出家、スズカツさんは大胆に改編。
一部の役や台詞をカットして、
物語にスピード感を持たせたかったそうです。
なので、今回描かれてない部分で、
伊之やお米がどんな10年を送っていたのかが描かれていたのかな
と気になります。
それだけ、冒頭と10年後の伊之は変わっていたから。

今回の演出は、派手なアクションや音楽などはなく
ほとんど独白のような長台詞を重ねてあって
正直途中睡魔に襲われたのですが
それでも面白い作品だったと思います。
ラスト、写楽の死後の、後日談みたいな場面があって、
無くてもいいって意見もありましたが
私はこのシーン、大好きです。
一気に救われる気がするから。
一見チープな書き割り風の背景が使われるのですが
この、絵に描いたような田舎ののどかな風景が
伊之が思い描いた地獄なんだな、と考えると
なるほどな、と思えました。

堤真一さんは、さすがに上手かったしカッコ良かったです。
最後、ワイヤーに吊られて歌舞伎の見得を切るような場面があって
すごくきまってました。

長塚圭史さんも、とても良かったと思います。
結構辛口の意見をあちこちで見たのですが(^_^;
神経質で心に暗闇の部分を持つ勇助にピッタリだと思いました。
他の人より言葉遣いがカッチリしてたし、
難しい役だったんじゃないかな、と思います。
私は、長塚さんが好きだからってのを置いといても(笑)
正直、伊之より勇助の方に感情移入してしまってました。
自分は理想の元に、すごく真面目に頑張って絵を描いて
それでもなかなかうまくいかず、
遊んでばかりでお気楽に生きながらも
自分の絵を描いている伊之に、苛立ちと嫉妬心を持っている。
そんな伊之が失脚し、自分の方が華々しく有名になっても
どこかで伊之を恐れていて、冷たい態度をとってしまう。
それでも結局は、伊之の願いを聞き入れ
お米と、伊之の娘(本当は勇助の子かも?)・お春を
のどかで平和な田舎に暮らさせてやる。
なんていうか、一番人間らしくて哀しい人だなと思いました。
ラストシーンでは、勇助のことを思って泣けましたもん(笑)

あと、やっぱり長塚さんは背が高い(笑)
ひょろ〜っと高くて顔ちっちゃくて
着物はまぁあんまり似合わないかもね、と思いました(笑)

高橋克実さん。
青年から老人まで。江戸言葉?から関西弁まで。
客席から舞台の上から、動きも台詞も多くて大変だなと思いました。
狂言まわしって難しいですよね。
でも、浪人の時の、のんきで豪快な感じはとても気持ちよく
カッコ良かったです。

キムラ緑子さん。
大店の奥方でありながら、伊之、そして勇助とも関係を持って
子供まで産むのにそれをあっさり手放し
壮絶な最期を迎える激情の女、お加代と、
お加代と伊之(勇助?)の娘だけれどそんなことは知らず
天真爛漫に育ったお春の二役でしたが
どちらもピッタリで素敵でしたvv

七瀬なつみさん。
若い頃のお米は、声高いしなんかあんまり好きじゃなかったけれど
10年後とのギャップをすごくしっかり演じ分けていて
やっぱ上手い女優さんなんだなぁ〜と思いました。
お米は、伊之のことが好きなのに最後まで愛されず
それでも尽くして最後心を病んだりもしてしまうけど
最終的には幸せになれて良かったと思います。

西岡徳馬さん。
余裕があって、自然で、さすが!という貫禄。
蔦屋が出てくると、場が締まる感じがしました。
お茶目なシーンもあって良かったです。

想像していたものとはだいぶ違っていましたが
笑いもあり、じっくり聴くところもあり、
なかなか面白い作品だったと思います。