パルコプロデュース
『SISTERS』

作・演出/長塚圭史
出演/松たか子 鈴木杏
   田中哲司 中村まこと 梅沢昌代
   吉田鋼太郎

2008年8月24日(日)13:00開演
大阪/シアタードラマシティ

4回目。
いよいよ千秋楽です。
昨日までなんとも無かったのに
これで最後かと思うとなんだか妙に緊張してしまいました(^_^;

長塚さんがご出演の舞台だと
お酒とか貢ぎ物を持って行くことが多いのですが
今回は作・演出だけだし
大阪まで来られてるかどうか分からないから
特に何も持って行く気はありませんでした。
それが、先日伊丹に行った時、たまたま入った雑貨屋さんで、
白地に大きく彼岸花の絵の入った手拭いを見つけてしまい
それがとても綺麗で、
今回の「SISTERS」では彼岸花がとても印象的に使われてるし
どーしても贈りたくなって買ってしまいました(笑)
その後、某役者さんのブログで長塚さんも大阪入りしていることを確認し
それでも迷ってはいたのですけれど
昨日の公演を観て、やっぱり贈ろう、と決意し(笑)
メッセージを書いて預けることができました。
ちょうど鈴木杏ちゃんが手拭いブームだとブログに書いてたので
杏ちゃんに贈ろうかとも思ったんですけど(^_^;
気に入っていただけてたら幸いです。

さてさて、
最後なのでちょっとストーリーを詳しく書いてみようかと思ったり。
長いよ!(笑)

とある古びたホテル。廊下。
従業員の女が歌いながら壁を雑巾で拭いている。
そこに現れる女性、尾崎馨(松)。
馨に従業員、真田稔子(梅沢)は言う。
「ホテル中べっとりと汚れて拭いても拭いてもとれやしない」
稔子は壁を触り、匂いを嗅いで顔をしかめて去っていく。
馨も壁を触ってみる、が、どこも汚れてはない。
「キ●ガ●だ」呟く馨。

ホテルの一室。
上手にはベッドが二つ。
奥には洗面所(バス)に続く扉。
壁には大きな絵が、何か赤いとても赤い絵が掛けてある。
絵、そして床には大きな亀裂が走っている。

  ※この亀裂は実際にあるわけではなくて
   馨の心の歪みを表しているのかも

馨は中央の椅子に腰掛けている。
そこに入ってくる夫、信助(田中)。
彼は東京のビストロでシェフをしている。
このホテルは従兄弟の三田村優治(中村)が経営しているもので
優治の妻、操子(堂ノ脇)がレストランを切り盛りしていたが
一ヶ月前、操子が突然自殺し、優治ではどうしようもなく
従兄弟である信助は助けを求められたのだ。
信助と馨は結婚したばかり。新婚旅行から帰国したところ。
このホテルには、
体調のすぐれない信助の母親の見舞いに実家に帰る途中、
優治に料理を教えるため、3日だけ滞在する予定だった。

ベッドが離して置いてあることに
「これは失礼じゃないかしら」と怒る馨。
「ヨーロッパ旅行の時あんなことになって
 そのあとこんな風になってたら
 信助さんがそうしたんじゃないかって思うでしょう」
馨は信助が意図的にそうしたと疑っている。
新婚旅行の際何かあったのか、精神的に不安定な様子の馨。
「あなたがいくら違うと言ってももうそう思ってしまったのだもの」
「だからもういいの。ごめんなさい」
「こうゆうことだろ」とベッドを無理矢理ひっつける信助。
「そういうことじゃない」と言いながらも手伝う馨。
少し落ち着いた様子。
そこに優治から呼び出しの電話が入る。
「すぐに行かなきゃいけないの?」とすがる馨に
「行くって言っちゃったから」と部屋を出ていく信助。

一人になった馨は、信助のシャツの匂いを貪るように嗅ぎ
ハッとなってそれらを全て抱えて洗面所へ駆け込む。
「洗濯よ、洗濯」
戻ってきた馨は部屋の外を眺め、一面に咲く彼岸花を見つめ呟く
「いやねぇ、あんなに沢山死人花が」
そして洗面所へと消えていく。

ホテル別室。
神城礼二(吉田)が洗面所より出てくる。
礼二は操子の兄であり、
娘、美鳥(鈴木)とこのホテルに暮らす小説家。
子供向け冒険小説を書いていたが、現在は新作を書けずに燻っている。
今も体調も崩し悶々としていた。
そこへ外から美鳥が戻ってくる。
美鳥の手には色鮮やかな彼岸花が握られている。
礼二の体調を気遣う美鳥。
しかし礼二は大したことはないと言い、
美鳥に、部屋にばかりいないで街へ出ろと促す。
街なんて退屈だと反発する美鳥。
何かギスギスした空気が流れている。
たった今、到着した尾崎夫婦、特に馨に興味津々の美鳥。
あまり関わるなと釘をさす礼二。
「たかが人が一人いなくなっただけで大騒ぎするなんて馬鹿らしい」
という美鳥に
「俺の妹が自殺したんだぞ」とたしなめる礼二。
「病気なんかよりよっぽどマシ。だって権利を行使したんだもの」
「私たちは毎日この一瞬一瞬、死ではなく生きることを選択しているの、そうでしょ」
と主張する美鳥。たじろぐ礼二。
彼岸花を生けるという美鳥に、それは不吉な花だという礼二。
結局美鳥は「花は捨ててくる」と言い乱暴に部屋を出ていく。
出掛けに礼二にキスをして・・・。

夕方。
部屋に戻ってくる信助。
そこに馨の姿はない。
洗面所には鍵が掛かっている。
ついてきていた優治に、「このホテルの鍵は大抵これで開く」
と渡されたスプーンで鍵を開けると
そこには部屋いっぱいに干された洗濯物だけがあった。

 ※このシーン、信助が扉をゆっくり開けると
  奥の部屋の中の明かりが静かに灯り
  今まで壁だった所が透けて、中の洗濯物が白く浮かび上がる
  という演出でとても美しかったです。
  紗幕を使ったこの手は前回の本公演「失われた時間を求めて」でも
  使われていましたが、幻想的で本当に美しくうっとりです。

結局馨は見つからず(携帯も置きっぱなし)
神城親子についての愚痴(部屋代をたいしてもらってないなど)
を言ってだらだらする優治を促し
とりあえず部屋を出ていこうとする信助。
そこに花瓶を持って現れる稔子。
「ここに持ってくるよう頼まれたんだけど」
馨が頼んだのかと尋ねる信助。
「違うよ、神城美鳥がここにいると言ったんだ」
嫌悪感たっぷりに美鳥のことを話す稔子。
信助は花瓶を美鳥に渡すよう押しつけられる。
神城父娘の部屋は隣の隣。
そこに持って行けというのだ。
「もし誰もいなかったらこれを使いな」
とスプーンを渡される。
途方に暮れる信助。
仕方なく花瓶を持って部屋を出ていく。

数時間前。
尾崎夫妻の部屋に忍び込む美鳥。
手には彼岸花。
そこに洗濯を終え洗面所から出てくる馨。
美鳥の姿を見て驚く。
「大事な話がある」と話しかける美鳥。
「この部屋で操子おばさんは死んだの」
「どうやったか分からないけどあそこに紐を掛けて首を吊ったの」
「どう?この話聞いて何かこの部屋変わった?」
と問う美鳥。
「そうね、変わったのかも」と応える馨。
「知らない方が良かった?」という美鳥に
「知って良かったわ。知らないのは馬鹿みたいでしょう」
と言う馨。
笑い出す美鳥。「馨さん、面白いよ!」
「私はどう?率直に言って」と言う美鳥に
「知ってる人に似ているわ」と馨。
「それから?」
「自信ありげ」「そして・・攻撃的?」
「そう!でも最初だけよ。選んでるの、会話するに足る人かどうか」
「私今ビリビリしてるの」
「お父さんは街へ行けと言うけど街の人間なんて退屈に決まってる」
「私も退屈よ」という馨に「そんなことない」
美鳥はすっかり馨を気に入った様子。
「私がなぜこんな風か興味ある?」
「でもそれはゆっくり話すわ。すぐに帰ってしまわないように」
「けどその心配はなさそうね。三田村に料理なんかできるわけないもの」
「なぜ呼び捨てなの?おじさんでしょう?」
「もちろん本人には“おじさん”よ」
笑いあう二人。少し打ち解けたよう。
が、急におどおどし始める美鳥。
「こんな事言ってももう信じてもらえないかもしれないけど」
「ごめんなさい。さっき言ったことは嘘なの、おばさんは別の場所で死んだの」
「私を試したの?」少し怒る馨。謝る美鳥。
「どうして嘘だったなんて言うの?」
「無かったことを有ったことのように話すのは簡単だけど
 有ったことを無かったことのように話すのは難しいのよ」

「けど部屋は変えてもらった方がいいわ」と
部屋を出ていこうとする美鳥に「それはいい」という馨。
怪訝な顔をする美鳥。
「こういう部屋の方が私たちには寧ろいいのかも」
「ねえ、少し歩かない」
と誘う馨にOKを出す美鳥。二人で部屋を出ていく。

神城父娘の部屋。
鍵を開ける音がして、こっそり入ってくる信助。
そっと花瓶を置いて出ていこうとする。
そこに洗面所から戻ってくる礼二。驚く。
「何をしているんだ!どうやって入った?!」
信助は稔子から、誰もいなければスプーンでドアを開けて
花瓶を置いておくように言われたことを話す。
呆れる礼二。
恐縮して出ていこうとする信助を呼び止めて握手を求める礼二。
自分は作家をしているというが信助は知らない。
それも仕方ないと著書を差し出す。
『ルーとわたしの冒険』
それが礼二の代表作のタイトルだった。
表紙には灰色の猫と少女のイラスト。
しかし礼二イメージとこの猫のイラストは合ってないらしい。
「私のルーはこんなに幼くない。」
「このあどけなさを少女に重ねておけば・・・」
自分の作品については饒舌になる礼二。
少しうんざり気味の信助。しかし話を合わせる。
本棚にはたくさんの本。
自分の部屋にもこの部屋と同じように本がたくさんあるという信助。
驚く礼二。「まさか隣の隣の部屋を?」
すぐに部屋を変えて貰うよう薦める礼二。不思議がる信助。
けれど理由は言わない。
「とにかくできるだけ早くここを去ることだ」
追い出されるように外に出される信助。

一人デスクにつく礼二「一体何をやってるんだ」

暗転。

夜。
馨がひとり部屋で編み物をしている。
そっと部屋に入ってくる信助。
馨が部屋にいることに安心した様子。
「どこに行ってたの?心配したよ」
「街へ」
「神城さんの娘さんと?」「そう、美鳥ちゃん」
「あのさ、この部屋、変えて貰おうと思うんだけど」
「え?」
「神城さんがそうした方がいいって。優治くんに聞いてもごまかされたし」
「もしかしたらそーいうことなんじゃないかと思うんだよね」
と話し始めたところで、馨が編み物をしていることに気付く。
「なにやってるの?」「マフラー編んでるの」
「へぇーそんなこともするんだ」自分のかと思い喜ぶ信助
「美鳥ちゃんに。この毛糸一緒に選んだのよ」という馨。
信助ガックリ(笑)
「とても仲良くなったんだね」「そんなでもないけれど」
当初3日だった予定を2日に繰り上げ、早めに発とうと言う信助。
しかし「実家にはあなただけ行くのじゃダメなの?」と言い出す馨。
せっかくお土産も買ってきたのに。一緒に行くから喜ぶんじゃないか
と食い下がる信助にも馨は「お土産は送ってあげればいいじゃない」と。
なぜ急にそんなことを言い出すようになったのか訳が分からない信助。
「いろいろ疲れてるしマフラーも編んであげたいし。
 親戚なのよ美鳥ちゃん」
「いや、親戚だけど、遠いよーっっものすごく遠い」
「それにマフラーこそ送ってあげればいいじゃない」
ちょっとムッとしてくる信助。
しかし、元々何の話をしていたのか思い出す。
「この部屋、変えて貰おうと思うんだけど」
「どうして?この部屋で操子さんが亡くなっから?」
やっぱりそうなのかっっと焦る信助。すぐに優治に言おうとするが
「変えなくてもいいんじゃない」という馨。
「この部屋なら、私もあの時のようにならないと思うから」
やはりヨーロッパ旅行で何かあったのか。
「あんなことは普通だよ」
「てかむしろ普通なんて無いんだよ」
となぐさめる信助。
「怖いの。信助さんが」
「こんなどこの誰とも分からない私なんかと」
しかしさらに不安がる馨。
そこでおもむろに靴を脱ぎ、高く掲げる信助。
「俺、この靴好きだけど、誰が作ったかなんか全然関係ないよ」
「料理も同じ事。テーブルに乗ったら食べるだけ」
「誰がどーやって作ったか何か関係ない」
「私たちが料理なの?どっちが作る人でどっちが食べる人?」と尋ねる馨。
「どっちも作る人でどっちも食べる人だよ」と言う信助。
「私、何味?」
「適度な塩加減。でも大味でなく、時々ガリっと岩塩が混ざってるけど
 それもちょうど良い刺激になってる」
「レモンが添えてあるけどまだ掛けなくてもいいと思ってる」
「まだ食べ始めたばかりなの?」「そりゃそうさ」
「ここで止めたら後悔しないんじゃない?」
「俺のマナーが悪いから早々に皿を下げるっていうの?」
「席を立ったらいいんじゃないって言ってるの」
「最後まで食べるって決めて席に座ったんだ」

  ※この場面、信助さんてホントーにいい人だなぁと思いました。
   なんかとても一生懸命で。

「俺はどんな味?」
「美味しいわよ。やたらと」

やっと落ち着く二人。
部屋を変えるのも、予定を早めるのも信助に任せるという馨。
結局、部屋はそのまま、予定は早めることにする。
「マフラーは送ることにする」
「美鳥ちゃんってどんな子?」
「知り合いに似てるわ。死んだ妹に」
信助は馨の過去のことを何も聞かない。
「君が話したくなるまで待つよ」

お風呂に入ると洗面所に入っていく信助。
「馨もおいでよ」
と呼ばれ、「いいの?」と嬉しそうに近づく馨。

バンっとドアが開いて入ってくる優治。
翌日、朝になっている。

急に予定が変更になったことへの苦情を馨にぶちまける優治。
ただただ謝る馨。

「いい加減にしなさいよ」と入ってくる美鳥。
まったく臆することなく優治に詰め寄る。
「こんなところでうだうだやってないでさっさと厨房に戻りなさいよ」
「あの人ずっと厨房で待ってんでしょ」
「タダでやってもらってるんだから」
「信ちゃんは親戚だからいいんだよ」
「なら、私たちも家賃払わなくていいの?」
「払ってねーだろ」
「払ってんでしょ、必要以上に」
「じゃあもう払わなくていいの?」
さらに詰め寄る美鳥にやっと出ていく優治。
「あいつ、最低なんだ」吐き捨てる美鳥。
「急に予定が変わっちゃったからね」
「聞いてないよ」怒った声で言う美鳥。
けどすぐ「嘘嘘」と明るく笑う。

美鳥が死んだ妹に似ていると話す馨。
「私の所為で死んだの。私が見捨てた所為で」

何か言いたげな美鳥。
話を促す馨。

自分にはとても素敵な恋人がいるのだと話す美鳥。
「知的で、大人で、いつでも手を広げて待っていてくれる人」
それは昨日美鳥が語った父親そのものだった。
「父親のような人が好きなのね」「羨ましい」と言う馨。

まだ何か言いたげな様子の美鳥。
「絶対秘密にしてくれる?誰かに言ったらその目をもらうから」
「いいわよ。だから何?」
「全然不幸な話じゃないの、むしろ幸せなんだけど」
「・・・妊娠してるの?」気付く馨。
「どーして先に言っちゃうの?自分で言ってみたかったのに!」
怒る美鳥。
「操子おばさんにも先に気付かれたみたいなものだったけど、、」
相手にはまだ話していないと言う美鳥に
「私でよければ一緒に話をしようか」という馨。
喜ぶ美鳥。
「今日、会えるの?その人」
「会えるよ、いつでも会えるんだよ」
「仕事してないの?」
「してるよ!とっても素晴らしい仕事」

「偉大な本を書いてるの。子ども達の為に」
嬉しそうに話す美鳥。
「だから絶対秘密にしなきゃいけないの」
「けど私は何故秘密にしなくちゃいけないのか分からないんだけど」
「だって私たち愛し合ってるんだし」

急に吐き気を催す馨。トイレに駆け込む。
驚く美鳥。
馨はすぐに出てくるが何か様子がおかしい。
「ごめんね、ごめんね」と泣きながら呟いている。
恐る恐る近づく美鳥
「近づかないでよ!!」怒鳴る馨。
そしてそのまま卒倒してしまう。
壁の絵の亀裂から水が溢れてくる。

暗転。

  ※この、美鳥と礼二の関係がはっきりするトコロ
   うすうす感じていたけれど衝撃的でした。
   空気が凍りつく感じ。
   その後の馨の豹変も怖かったです。
   それまでの、なんとなくまったりした流れから
   一気に加速していきます。

これまで、ひとつの部屋のセットに
登場人物達が入れ替わり立ち替わり現れ
ふたつの部屋(尾崎夫妻、神城父娘の部屋)を表していました。
しかしここでふたつの部屋はシンクロし
同時に別々の空間が描かれます。

ベッドに横になっている馨。
中央の椅子に座り包丁を研いでいる信助。
デスクに座る美鳥。
洗面所から出てくる礼二。

「で、医者は?」
「帰ったよ。もう大丈夫みたい」
馨が倒れたのは美鳥の所為ではないかと責める礼二。
怒る美鳥。
「なぜ静かに暮らせない?何が不満なんだ?」
「不満なんじゃない、不安なの」
「一緒のことだ」
「お父さんは不安じゃないの?」
「不安だよ。私はただ静かに暮らしたいだけなのに
 なぜそれができない」
「お父さんが外に出た方が怪しまれないからって言ったんじゃない」
「それは街へ出ろということだ。
 なのにお前はやたらと近くの奴を捕まえて関係を持ちたがる」

興奮して、美鳥に手を挙げる礼二。
しかしすぐに後悔する。
たが、殴られてもそれを喜ぶ美鳥。
「久々に殴ったね。お父さんに殴られるの好きだよ」
「お父さんの怒りが痛みになってここに残るから」
「殴った後、こうやって自分の手を見つめるお父さんが好き」
「けどお母さんは酷いんだよ。殴られても平然と見下したような目で」
「私あの目が許せなかった」
「もっと殴って!私はあんな目しないよ」
「美鳥、そういう話をしてるんじゃないだろう」
どっと疲れている礼二。
洗面所に入っていく。

目覚める馨。「あの子は?!」
「部屋に戻ったよ」
「ダメよ!」
「馨、いますぐここを出よう。君とってここがいい場所とは思えない」
信助の説得に、応じる馨。
部屋を出ていく信助。

美鳥は部屋の中央にうずくまり泣いている。

「どうしたの?何泣いてるの?」尋ねる馨。
そこにいるのは美鳥ではない。馨の妹、ナツキだ。
「来ちゃったの」
「お父さんは?バレて無いよね?」
「どうして?」
「どうしてもよ、何度も言ったでしょ?」
「もう遅いよ。だってビックリしちゃったんだもん」
「、、、お父さんは?」
「やさしかった」
「初めだけよ」
「お姉ちゃん、怖いよ」
「大丈夫。私が守ってあげるからね」
ナツキの手を取る馨。
しかしその手を離し、ナツキはふらふらと洗面所に向かう
「だめよ!ナツキ!そっちに行っちゃ」
「お父さん、ごめんなさい。私が綺麗にしてあげるからね」
扉の中に入っていくナツキ
追いかける馨
扉を勢いよく開けるが、そこには誰もいない。

水の入った洗面器を持って稔子がやってくる。
起きあがっている馨を見て、そのまま出ていこうとするが
馨に呼び止められる。
「私は何も知らないよ」
「あなたは何か知ってるんでしょう?」
「美鳥ちゃんのことよ」
「神城美鳥、あれは化け物だ」
「美鳥ちゃんが悪いんじゃない」
「なんとかしなくちゃ」
「何にもできやしないよ」
出ていく稔子。

テーブルの上には信助が置いていった包丁の箱。
そこから包丁を一本取り出す馨。

そこへ、女子高生姿の美鳥と優治が入ってくる。
最近の流行りは何?などどーでもいい話をしてくる優治に
うんざり顔の美鳥。
「あの、もういいですか?」
「あ、ごめん、あとひとつだけ」
「、、、あれ、やってくれないかな」
「はぁ?」
「美鳥ちゃんがお父さんにやってあげてるやつ」
「・・・」
礼二のことをばらすと仄めかし美鳥を脅す優治。
シャワーを浴びると洗面所に入っていく美鳥。
「あとでおじさんもいくから」という優治。
一部始終を見ていた馨。
いきなり優治に斬りつける。
血は出ない。
馨の姿が見えていない優治。それでも逃げまどう。
ついに優治を追いつめ刺し殺す馨。

「きゃはははははー」
けたたましい笑い声とともに
天井から首をくくった操子が降りてくる
笑いながら手を叩き・・・
そしてガクッとつり下がる。

愕然とする馨。

泣きながら稔子が現れ、掃除を始める。
死んだはずの優治も起きあがり
「とんでもないことしてくれたよ」と見上げている。
そこに飛び込んでくる礼二。
「降ろしてやれないんですか」
「降ろせないんだよ。きつく結んであって」
操子は脚立でもなければ到底手の届かないような位置に吊られている。
「脚立じゃなきゃ、あそこまで飛んだとでもいうのか」
「そんなこともあるかもしれないよ」
「びょんっと飛んだのか、ぐぐーっと身体を伸ばしたのか」
「人間、死のうなんて考えた時は
 想像もつかないようなことができるかもしれない」
「それは大きくなる、なんてことじゃなく
 バンッと閃くアイデアみたいなものかもしれない」

だんだんと暗くなりみんないなくなる。
ひとり残った馨。包丁を握りしめ座り込んでいる。
もどってくる信助。
馨から包丁を取り上げる。
「何してたの?」
「何って、操子さんが死んだのよ」
ボーっとしている馨。我に返る。
「さぁ、行こう」と促されるが動かない。
「どうして動こうとしないの」
少し苛々してくる信助。

「信助さん、ふたつお願いがあるの」
「この状況を踏まえたお願いにして欲しいな」
「はい」

「ひとつめはね、実家へは先にひとりで行って欲しいの」
「明日の夜、いえ昼には追いかけるから」

「そしてふたつめはね、、、、して欲しいの。いまここで」
「そうしたら戻ってこられる気がするの」

さすがの信助もキれ、包丁の入った箱を机から払い落とす。
ばらまかれる包丁。
それを一本一本拾う馨。
包丁を取り上げようとする信助。
もみ合う二人。
そのままベッドに倒れ込み、信助の喉元に包丁を突きつける馨。
ひとつひとつ、包丁の先で信助のシャツの釦を外し始める。
包丁を取り上げる信助。
今度は馨に包丁を突きつける。
「脱げ!」
「はい!」
抱き合う二人。
「信助さん。締めて、締めてください」
馨の首を絞める信助。

暗転。

  ※この場面もかなり衝撃的でした。
   操子さんが降りてくるシーンも予想して無くてびっくりだし
   そのあとの信助と馨のシーンも。
   すごく怖かったです。

部屋には美鳥。そして馨。
馨はもう落ち着いている。
「具合、良くなったんだね」
「ごめんね、心配させて」
「あの人と一緒に帰らなかったんだね」
「約束したでしょ」
「何を?」
「彼に会うって」
「あぁ」
「あれは嘘よ、本気にしちゃった?」
「私言ったわよね、有ったことを無かったことのように話すのは難しいって」
「そんなこと言ったっけ?」
警戒している美鳥。
顔の傷に気付く馨。
「その傷どうしたの?」
「さっきぶつけたの」
「殴られたのね?」
「ぶつけたって言ったよね?」
「可哀想に」
「はぁ?」
「子供に暴力を振るう親はね、弱いの」
「子供ってそうでしょ?際限なく愛を求めるでしょ」
「だから力でねじ伏せるの私たちを」
「馨さん、聞いて、私不幸じゃないの、嫌じゃないの」
「お父さんとしてるときが一番しあわせなの」
「そう思わされているだけなのよ」
「違うって言ってるじゃない」
どんどんと美鳥を攻め込んでいく馨。
「そうして秘密の王国を作るの、私たちの中に」
「子供ってそうでしょ、秘密を作って世の中を渡っていくでしょ」
「誰にも内緒だよ、とあめ玉を渡された時の共犯がもたらす緊張感」
「その恍惚とした笑顔を見て、あぁこの人が喜んでくれるなら
 と思い込まされる」
「秘密の王国は汚れていく」
「そうしてたっぷりと汚れた小鳥たちをどうすると思う?」
「捨てるのよ。壊れた玩具を捨てるように」

「それはあんたんところキ●ガ●オヤジがそうなんであって」
「うちのお父さんは違うんだって」
「あんたんとこがどーだったか知らないけど人それぞれなんだって」

「じゃあ今すぐ証明してみせて」
「それはあんたの都合でしょ、私たちのことは私たちで解決するわ」
「今すぐ証明できなきゃ、私はあんたの父親のやってることを世間にばらして
 文学界から抹消してやる」
「誰にも言わないって約束したのに」
「だからまだ言ってないでしょう?」
「私の目玉でもなんでもあげるけど、破ってからにしてよね」
「・・・あんた最低だよ」
「不安なんでしょう?」
「不安だから誰にも喋っちゃいけないのに私に話した」
「だいじょうぶだよ、おかしくないよと言って欲しかったんでしょう?」
「父親が不安がってるの?」「父親の不安があなたを不安にするのね」

「電話で呼んで」「隣の隣なのに」
「電話で呼ぶの」
部屋の端にある電話にすがりつく美鳥

  ※この時、いつの間にか部屋には水が溜まっていて
   ばしゃばしゃと水しぶきをあげながら歩く美鳥に驚かされます。

なかなか電話が繋がらない。
見かねた馨が電話をかけようと近づいた時
いきなりコードで馨の首を絞める美鳥。
もみ合う
「パパ、パパ」とうわごとを言う馨に思わず手を離す美鳥
「どうして止めるの?止めないでよ」
怯える美鳥。
そこにノックの音。
洗面所に駆け込む美鳥。
激しく咳き込む馨。

礼二が入ってくる。
咳き込む馨に「大丈夫ですか」と声を掛ける。
「娘がおじゃましていませんか?」
「来てません」
「さっき稔子さんがあなたが呼んでると言いに来て出ていったんだが」
帰ろうとする礼二を呼び止める馨。

「お話があります、娘さんのことです」
「娘が何か言いましたか」
「言われて困るようなことがあるんですか?」
「ありませんよ」
「娘は現実と空想が入り交じることがあるんです」
「それは美鳥ちゃんをご自身の小説のモデルにしたからでは?」
「あれは昔の美鳥をモデルにしただけで今の美鳥ではありません」
「理想ですか?歳をとらない娘」
「なんですか?」
のらりくらり話す馨に苛立つ礼二。
部屋を出ていこうとする。それを阻む馨。
「まだ話は終わっていません」
「だからなんなんだって言ってるんです」

「・・・暴力をやめて」
「美鳥ちゃんはあなたの暴力に苦しんでいます」
「あぁ、そのことですか」笑い出す礼二
「ついカッとなって殴ってしまいました。美鳥には謝ります」
「・・・その暴力じゃない」
「はぁ?」
「笑ってごまかしてんじゃないわよ!」
馨の攻撃的態度にキレる礼二。
「何なんだ君はさっきから」
大きな声を出す礼二に怯える馨。
「君が言ってるのは私と美鳥の関係のことだな」
「純粋な美鳥が君に何か喋ったんだろう」
「で、どーしたい?」
「事実を認めるのね?」
「は?認めるも何も君はもうそう思ってしまったんだろ」
「思ってしまったことは私がどう弁明しようとどーしようもないだろう」
「事実を認めて謝罪しなさい」
「は?謝って済むのか、君は?」
開き直る礼二。
「私と美鳥は愛し合っているんだ。それを引き裂くことはできない」
「法律?そんなものは関係ない」
「私と美鳥は出会ったんだ。ただ親子という立場で」
「産まれてくるとき私は子供を選べるか?こんな子が欲しいって」
「選べないよ。この世に出てきてから出会ったんだ」
「だから二人の関係がうまくいかなくなって分かれることもある」
「君だってそうだろ?あの男と一生添い遂げられるのか?」
「子供には分からないのよ、どこから始まったかなんて」
「始まったと思ったときが始まりなんだよ」
「美鳥ちゃんと一生一緒にいるつもりなの?」
「分からないよそれは」

「どうしてわたしたちにあんなことしたの?」
「君狂ってるよ、私を自分の父親のように話し始めてる」
「あんたの娘もこうなるのよ」

「君がどんな辛い目に遭ってきたか?知らないよ」
「ただ君とその男は、出会わなかったんだ」
「忘れることだ」
部屋を出ていこうとする礼二に馨は
「良かったわね、また出会えるのよ」
「は?」
「また出会えるかもしれないのよ、新しい恋人候補に」
「妊娠してるの、美鳥ちゃん」
愕然とする礼二
「それでか、それで様子がおかしかったのか」
「馬鹿な娘だ。薬をやめたか」
「美鳥ちゃんは産む気よ」
「無理だ、、」
「さあ、上手く立ち回ってね、そのよく動く舌で」
「その顔、メッキが剥がれていってるの?」
「ただ出会っただけですもんね」
「命がけの人と、そうでないひとが」
ガックリと崩れ落ちる礼二

「父親にならなくちゃね」
ゆっくりと部屋を出ていこうとする馨
「美鳥ちゃん、ずっとそこにいるのよ」
はっとする礼二
ゆっくりとドアが開き、美鳥が出てくる
「美鳥ちゃん、初めてなのかしら
 2回目はね、私が、いなくなるような気がするのよ」
歩いてくる美鳥
足元は水で満たされている
美鳥の歩にあわせて流れてくるたくさんの彼岸花
抱き合う礼二と美鳥
ゆっくりと倒れ込む
動かなくなる二人
その周りに真っ赤な彼岸花が溜まっている

二人の姿を見、そばに寄ってくる馨
「そしてまた、勝ち取った」
「あなたは愛されていたってことね、ナツキ」
礼二のもとに座り込む
「おとうさん、ねえ、おとうさん
 どうして私じゃなくてナツキなの?ねえおとうさん」
礼二の身体をゆさぶりながら泣き叫ぶ馨

稔子、優治が駆け込んでくる
「もうおしまいだ」呟く優治
馨はずっと泣きわめいている
飛び込んでくる信助
「馨?馨!」叫ぶ。
泣きやみ、ぼんやりと信助の方を見る馨

「帰ろう。馨」
「帰ろう、我が家へ!」
馨、すこし嬉しそうに
「はい」

暗転。終幕。

 
以上。
ここまで読んでくださった方が果たしているのでしょうか(^_^;
ものすごく長くなってしまいましたbb
しかも最後の方は台詞も流れもぐちゃぐちゃだし。。
今回、とても心に残る台詞がたくさんあったのに。。。
ちゃんと書けなくてもどかしいです。

操子の自殺について
操子と礼二にも関係があったのではないか。
という意見も目にしました。
けど、私はそれは思いませんでした。
美鳥が礼二にいう「妹だけどそんなに好きじゃなかったでしょう?」
礼二の「いるんだかいないんだか分からないような真面目なだけの女」
稔子の「本当にいい人だったよ」
という台詞たちから
操子さんは、本当に真面目で大人しく、料理の好きな普通の人だったのだろうと思いました。
それが兄と美鳥の関係、そして夫と美鳥の関係を知って
衝動的に死んでしまったのかなと。
美鳥と礼二の部屋で、洗剤を部屋中にばらまいて死んだというところからは
強い嫌悪感を感じます。
優治が刺されたのを見て手を叩いて笑っていた所から
優治と美鳥の関係も知ってしまったのだと思いました。
最初、優治と美鳥の関係は馨の妄想かと思ってたのですが
「必要以上に部屋代を払っている」というところから
本当のことだったのかな、と思いました。
馨はその場に残った空気にシンクロして、過去を見ることができたのかなと思います。
もしかしたら、操子は礼二にあこがれのようなものは持っていたかもしれません。
自分たちの大事な部屋に何年も住まわせているのですから。
理想の兄、だったのだろうと思います。

礼二と美鳥の関係
そこに本当に愛があるなら
それはそれで幸せだったのかもしれません。
けど、美鳥の妊娠を知って「無理だ」と言った
礼二はやっぱり許せません。
子供は、それが愛だと思い込まされているんだと思うから。
最後、流れてきた彼岸花は「血」を表しているんだと思うんですが
美鳥は流産したのかな、と思いました。
だから「2回目は・・・」という台詞が出てきたんだと思います。
美鳥が礼二を刺して自らも死んだのか
二人合意で死んだのかは分からないけれど。
でも、二人一緒に逝けて、美鳥はしあわせなのかもしれません。

馨は、、、戻って来れたのでしょうか。
ラストシーンではまだちゃんとは戻ってこられてない気がします。
けど、これからゆっくり時間を掛けて
信助としあわせになって欲しいなと思いました。
信助は本当にいい人だと思います。
馨の過去も受け止めて、包み込んであげて欲しいです。

田中哲司さんの信助演技
実は見れば見るほど長塚さんに似てるなーと思ってました(^_^;
台詞の言い方や動きとか。

本当に本当に長くなってしまいました。

カーテンコールは6回くらいあって
最後の2回は今まで出てこなかった操子役の堂ノ脇さんも登場。
とても綺麗な方だったです。笑顔で嬉しかった(笑)
あと、長塚さんも登場。
杏ちゃんと松さんに水の中にひっぱり込まれてましたw
たぶん自前の服と靴が濡れてしまって可哀想です(笑)
客席はだんだんスタオベになり
最後は殆どの人が立ってたと思います。
私も立ちました。
なかなか鳴り止まない拍手に
「何か、喋れと(^_^;」と長塚さん
小さな声で(笑)挨拶してくださいました。
シリアスで悲しい話とは逆に
ほのぼのした、いい雰囲気のカーテンコールだったです。

本当に美しい作品(中身は重いし激しいけど)でした。