阿佐ヶ谷スパイダース
『失われた時間を求めて』

作・演出/長塚圭史
出演/中山祐一朗 伊達暁 長塚圭史
   奥菜恵

2008年5月24日(土)13:00開演 18:00開演
東京/ベニサン・ピット

3人とひとりと長い椅子 そしてどうしようもなく夜
ばくばくと 呑まれていくのか 恐るべきものへ

待望の阿佐スパ本公演です。
今回も東京のみ、とのことでしたが
頑張って2回、観てきました。

会場のベニサン・ピットは初めての劇場。
場所が分かりにくいという声をたくさん聞いていたので
迷わないかドキドキでしたが全然簡単でした(笑)
周りには古い印刷工場?みたいなのがたくさんあり
そおいう町なのかな、という感じ。
あとは住宅地って感じで。
当のベニサン・ピットも元の会社は染色業?なのかな?
とても劇場とは思えない外観でした(笑)
実際元工場みたいですし。
でもなんともいえず雰囲気のある建物で
その小さな空間で、ぎぎゅっと濃いお芝居を観るのは
とても心地よかったです。
前回のスズナリの方が狭い感じはしましたけど
それは天井の高さによるのかもしれません。
ロビーも広めだったし。

今回もお土産を持参しました。
直前まで、
重いし楽日でもないし今回は止めようか…
と思っていたのですが
このあと当分長塚さんの出演される舞台は無さそうだし
やっぱり!と持って行きました。
今回は、地元の名産品?「府中味噌」で作られた
「肉味噌」というご飯のお供(笑)みたいなのとお酒にしました。
この「差し入れを預ける」というのがまた緊張なのですけど(笑)
ロビーで手荷物を預かってるスタッフさんがいたので
そこの方に預けました。
食べてもらえてたら嬉しいです。

1回目の席は最前列ど真ん中。
もう本当にステージ目の前っていうかすぐそこでヤバかったです。
私、本当に長塚さん好きなんだなと再認識しました(笑)
だって、ステージ際に来られると直視できないんですよ(^_^;
中山さんとかはわりと平気なのにw
這いつくばったりする芝居があり
そうするとホント目の高さが同じぐらいになっちゃうので
かなりドキドキしました。

2回目は4列目中央。
1回目よりは落ち着いて、
ステージ全体を見ることができて良かったです。

3方を壁と側溝に囲まれ、それぞれの壁には扉が1つずつ。
側溝には大量の枯葉が積もっている。
外灯とベンチ、そしてくずかご。
公園のような、けど地面は板張りで部屋のようでもある。
不思議な場所。

ヒラヒラと真っ赤な枯葉が1枚舞い降りてくる。
それを合図にしたように空からはハラハラと色とりどりの枯葉。
その枯葉はどれも新聞や雑誌を葉っぱ型に切り抜き色を塗ったもの。
枯葉はどんどん地面に降り積もっていく。

ピアノの調べ。

とても美しい光景。

そのどこでもあり、どこでもない場所で
出会いすれ違う3人の男と1人の女。
男1(中山)は
自分は最低の人間だと思っているのに
何故かツキだけはあって金が手に入る
それをとても嫌悪し
誰か終わらせてくれることを願っている。
男2(長塚)は
いなくなった猫を探し続けている
男3(伊達)は
ベンチで本を読みながら何かを待っている
女(奥菜)は
誰かに乗っかって現状から抜け出したいと願っている。

だけど皆、同じトコロをぐるぐると回っているだけ…

いつもはとても具体的な場所や人が描かれ
一見現実的なお話が多い阿佐スパ作品ですが
今回は「原点に戻る」「実験的に」ということで
設定も台詞もとても抽象的で
なかなか分かりにくいお話でした。
でもとても「演劇的」な作品だとも思いました。
私はもともと「不条理劇」といわれるものに苦手意識があり
今回「不条理劇風」と言われていて不安もありましたが
全然ダメじゃありませんでした。
むしろとても好きだなと思いました。
なんだろ、私の中で不条理劇と言えば
岩松了さんやケラリーノ・サンドロビッチさんの作品なのですが
これらの苦手なところは
登場人物が、それぞれ人の話を聞かず、
勝手に訳の分からないことを主張するばかりで
結局何が言いたいのか分からない
というトコロでした(^_^;
けど、今回の作品では
たしかによく分からないことを言ったりするのだけど
(特に中山さん演じる男1は)
けど、対している人がちゃんとその話を聞こうとしていて
一応会話になっていたと思うので
これは(私の中では)不条理劇では無いかな〜と思います。
最後も、よく分からないけど救われた気がして
よく分からないけど涙が出そうになりました。
なんとも言えない暖かい空気があったんですよね。
そおいうところが、やっぱ好きなのです。

加藤ちかさんの美術も今回もとても素敵で
途中後ろの壁だったところが透けて
向こう側にもこちらと同じような景色(枯葉・外灯)が浮かんだ様子は
とても幻想的で美しかったです。

解りやすい=良い
解りにくい=悪い
とは言えないなぁと思いました。

雑誌のインタビューで伊達さんが
「よく分からないけどすごいもの観た、と言わせたい」
みたいに言われてましたが
まさにそんな感じしました。
2回観て、それでもよく解らない所はあったけど
それでも見終わったあとの気持ちはスッキリしてるというか
まぁそれでも劇場を出て駅に向かっている間も
なにかぐるぐる考えてしまっていたのですけど(笑)
あとからじわじわ来る作品だとは思います。

中山祐一朗さん。男1。
ステージ上に這いつくばって枯葉を集めくずかごに入れ
全部かたづけてはまたそれを出してバラ巻く
それを何度も繰り返す
少し狂気じみた男1。
今回の役の中では一番テンションが高い役
だったと思います。
寒くて凍える、という演技もしなくちゃなのに
もう一人汗だくで、
大変だなぁと思いました。
男1の焦りとか不安とか狂気とか
見ていてちょっと辛かったです。
でもやっぱ中山さんは凄い!と思いました。

長塚圭史さん。男2。
いなくなった猫を探し続けている男。
この人は、本当に存在していたのかな、と思います。
伊達さん演じる男3の兄であり弟である
もしかしたら男3の心の一部?だったのかな
とラストシーンを見て思いました。
猫のことを嬉々として話す姿が可愛かったです。
中山さんの男1と
稽古の途中までどちらがどちらの役をやるか決まってなかったそうで
逆のパターンも見てみたかったなと思いました。

伊達暁さん。男3。
ひとり全てを知っていそうな落ち着いた大人の男。
伊達さんのこおいう役ってあんまり見たこと無かったので
ちょっと新鮮でした。
衣装がなんかひとりボタっとしてたのが気になったのですが(^_^;
奥菜さんと色が被っている部分があり
何か意味があったんだろうなとは思います。

奥菜恵さん。女。
すごく可愛かったです。
そしてやっぱり上手いなと思いました。
役にもピッタリだったと思います。
現状から抜け出したいのにぐるぐるしてしまう
子供みたいに猫探しをしていたかと思えば
一人心細くなって落ち着かなくなる
最後はとてもやさしげで
くるくる変わる表情がとても良かったです。

今回もあらすじを書いていたのだけれど
途中で挫折してしまいました。。
「確かなモノ」「不確かなモノ」
「必要なモノ」「必要でないモノ」
「今までの自分」「これからの自分」
「今、ここにいるということ」
台詞にもありましたが
そんなことをぐるぐる考えてしまう作品でした。

これからの作品がすべてこんな感じになってしまったらなんですが
たまにはこおいうのも良いな、と思います。
それにたぶんずっとこんな感じにはならないと思うし。
阿佐ヶ谷スパイダースと言えばこんな感じ
というのがあって
それが好きだというたくさんのファンがいるけど
それに甘んじるのではなく
どんどん試行錯誤していろんなチャレンジをしている
それって良いなと思います。
賛否両論いろいろあると思いますけど
私は長塚さんの紡ぐ言葉がやはり好きで
もっと色んな作品を観たいと思いました。

長塚さんが海外留学から帰ってきて
次にどんな作品を見せてくれるのか
今からとても楽しみです。

その前に「SISTERS」がありますけどね。
なんでもこちらは今までどおりな「血みどろ」作品らしですよw