「葛河思潮社」 vol.1
『浮標(ブイ)』

原作/三好十郎
演出/長塚圭史
出演/田中哲司 藤谷美紀
   佐藤直子 大森南朋
   安藤聖 峯村リエ
   江口のりこ 遠山悠介
   長塚圭史 中村ゆり
   山本剛史 深貝大輔

2011122()18:00開演
2011
123()14:00開演
横浜/神奈川芸術劇場
神奈川芸術劇場「日本文学シリーズ」

夏も終わりの千葉市郊外の海岸。
洋画家久我五郎(田中)は自己の芸術を信じ、
肺を病む妻の美緒(藤谷)を看護しながら貧困と闘っている。
彼を排する低俗な画壇(山本)、財産の譲渡を迫る家族(峯村)など、
苦境のうちに妻の病気は次第に悪化していく。
戦地へ赴く親友(大森)が五郎を訪ねた数日後、
その献身的な努力もむなしく美緒の病状が急変。
その枕元で、五郎は万葉の歌を必死に詠み上げる−。




「葛河思潮社(くずかわしちょうしゃ)」とは、
長塚さんが「アンチ・クロックワイズ・ワンダーランド」の
主人公・葛河梨池(くずかわりいち)
演劇のさらなる可能性を探るべく立ち上げた新プロジェクトとのこと。

葛河梨池は架空の人物ではあるけれど、
長塚さんの分身というわけでも無いそうです。
チケット取った後、確認の電話があったのですが
それもちゃんと「葛河思潮社」からで
なんかそういうの好きなのでワクワクしましたw
できればチケットが入ってた封筒も葛河思潮社だったら
なお良かったんですけど()

神奈川芸術劇場は、この1月にオープンしたばかり。
こけら落とし公演は芸術監督でもある宮本亜門さん演出の
「金閣寺」ということになってるらしいけど
こちらの方が上演は先で、実質的なこけら落とし公演だったようです。
ホールは建物の5階にあるのですが
1
階から4階まで吹き抜けになっていて
壁の内側に沿ってぐるりと回るエスカレーターで上がります。
広―い感じはするけれど、急いでいる人には嬉しくないかも(^_^;

あと、トイレがさらにその上の階でしかも少なくて
これはちょっとな、、、と思いました。
やっぱ女子トイレの数って重要だと思うんですよね(^_^;
新しい劇場だけにそこはもうちょっと考えて欲しかったです。
ホール内の音響とかは良かったと思うけど
デザインより機能性かな、とか思ったり…
素敵でまた行きたい劇場になったのは確かなんですけど。

今回も結局地元の日本酒をお土産に持って行ったのですが
プレゼント預けコーナーみたいのも特に無くて緊張しました()
南朋さんとかたくさんもらいそうなのにw

大スタジオは壁が黒で柱と座席が濃いオレンジという色彩で
とてもスタイリッシュな感じがしました。
(
ちなみにホールは赤だそうです)
椅子はクッションも硬めで肘掛も無いものでしたが
高さが他よりちょっと高めな感じがしました。
背の低い人だと足が床に着かなさそう(^_^;

四角い木の廊下みたいに囲まれたステージ中央には大量の白砂。
それがまず圧巻でした。
両サイドには黒い椅子が置かれています。
舞台上にはただそれだけ。
どんな芝居になるのかワクワクしてきます。
席が2回とも1列目だったので
ホント目の前が舞台でドキドキしました。
まさに砂かぶり席!ってかぶりませんけど()

開演。
長塚さんはじめ出演者の方が皆黒い服(様々)を着て登場。
砂を囲む木枠の部分に並びます。
「本日は葛河思潮社第一回公演・浮標に
お越しいただきありがとうございます」
長塚さんの挨拶から始まりました。
こおいうのは初めてです。
「みなさん上演時間を見て驚かれてるかと思いますが()
大変長い公演となっております。
なのでずっと肩に力を入れていると大変なことになります()
どうぞリラックスしてお楽しみください」
長塚さんがニコリとすると私の顔も綻ぶw
「哲さん、いいですか?美紀さん?のりこ大丈夫?
キャストの皆さんに声を掛けるのも微笑ましい()
そしていよいよ開演です。

砂の上には哲司さん演じる五郎ひとり
他の人たちはサイドの椅子に座ってじっと五郎を見つめています。
呆然と歩き、ふと砂の中から見つけたのは一冊の冊子・・・
そこから時間は戻っていきます。



なんていうか、すごく良かったですっっ
1
時間半+1時間+1時間半(間に10分休憩2)
4時間という公演時間でしたが、
長さは全然感じませんでした。
ぐぐーっと引き込まれて集中して見てしまいました。

家とかの具体的なセットは無く
最小限の小道具のみで五郎の家や海岸など表されるのですが
もう全く違和感無く世界に入り込むことが出来ました。
シンプルで逆に際立って良かったのかも。

特に2回目に観たときは感情移入してしまって
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幕からもうずーっと私も泣いてました()
五郎さんはもちろん、登場人物みんなそれぞれ事情があって
キツいこと言ってたりしても悪い人というわけではなく
気持ちがめちゃ伝わってきて切なかったです。

役者さんもみなさん素晴らしくて
もう本当にその人()がそこにいるて感じで・・・
その人ひとりひとりがちゃんとそこに生きている。
そんな感じがしました。
台詞も昔ながらの表現?とかあるのですが分かりやすく
言葉は綺麗だしとても耳心地が良かったです。
長くて大量の台詞だけどすんなり耳に入ってきました。


田中哲司さん。
洋画家・久我五郎。
五郎は感情の起伏がめちゃめちゃ激しいし
(
わーって怒鳴りまくったかと思うと我に返って平謝りしたり)
哲司さんはホント大変だなぁと思います。
哲司さんのこんな激しい役、初めて見たかも。
涙と鼻水とぐちゃぐちゃになってたりしてたしw
あれだけ入り込んでて、12回公演とか絶対大変。。
凄いなぁと思いました。
五郎は美緒がいなくちゃ生きていけないと思っていて
美緒のために画家の仕事もやめてお金になる絵本の仕事をしたり
本当に尽くしていて
美緒が死んでしまったあとどうなってしまうんだろうか
と心配になりました(お芝居は美緒が亡くなるところで終わるので)
けど、このお話は三好十郎さんご自身の話を元に書かれていて
三好さんもわりとすぐに再婚されたそうだから
案外大丈夫なのかな()

藤谷美紀さん。
五郎の妻・美緒。
美緒は結核でもう長く生きられないだろうという体で
それでもいつもニコニコ笑っているし
五郎の体や赤井や伊佐子のことも本気で心配できる
綺麗で強い人。
けどそれだけじゃなくて
若くてはつらつとしている京子にやきもちを焼いたり
五郎に病気をうつしてやろうと思ったとか言ったり
けっして綺麗なだけじゃない部分もあって
そこがまた人間らしくて良かったです。
美紀さん久しぶりに見ましたけど
変らず綺麗で素敵でした。

佐藤直子さん。
小母さん。役()
素敵でしたーvvv
ちょっと京都なまりで、すごくいい人だけど毒もあって
可愛くてほのぼのするー
めちゃめちゃ上手いなぁと思いました。

大森南朋さん。
五郎の友人・赤井源一郎。
もと小説家でもうすぐ出征する兵隊さん。
出番はあまり多くは無いけど
さわやかで可愛くて素敵でした

ちょっとした表情とかいいなと思いました。

安藤聖さん。
赤井の妻・伊佐子。
赤井家の女中だったため、家族からは辛く当たられている。
そんな中、赤井は出征するし妊娠したこともわかるし・・・
で不安いっぱいだった。
それを言い出せない感じと、
言ってからのホッとした感がたまらなくて
こちらも泣きそうになりました。

皆さんサイドの椅子に座っている時も
真ん中でされているお芝居の中の話に出たりすると
目を伏せたり他の人もその人のことを見たり
ストーリーに直接出ていないときも演技されていて
それもすごくいいなと思いました。
目は忙しいんですけど()

峯村リエさん。
美緒の母親・お貞。
和服で綺麗でした

美緒のことももちろん心配だけど、
長男・利男のことも心配で
美緒が亡くなったあとの土地などの心配ばかりしている。
一見冷たそうだけど
でも美緒を思う気持ちも本物で
それが空回りしちゃってるかんじで
こちらも切なかったです。

江口のりこさん。
美緒の妹・恵子。
あまり母親とは仲が良くなさそう。
淡々としているのだけど、
服を誉められたときとか、汽船を見つけたときとか
一瞬見せる嬉しそうな表情が可愛らしかったです。

遠山悠介さん。
美緒の弟・利男。
明るくていい人なんだけどちょっと空気読めないっていうか(^_^;
でもこの人が出てくるとちょっと和むていうか()
京子さんに翻弄される姿が可愛かったですw

長塚圭史さん。
五郎の友人・医学士・比企正文。
医者と聞いて白衣を期待したのですがありませんでした()
代わりに浴衣姿と上半身裸姿が!!w
背中綺麗だなーとか思ってしまったよww(^_^;
比企はとても冷静な目を持ってる医者で綺麗ごとは言わない。
五郎に煽られて、て部分もあるけど
自分にまかせろとか必ず治るとか言わないのが良いと思いました。
取り乱した五郎との浜辺でのやりとりも切なかったな。。

千秋楽のカーテンコールですっごくニコニコしていて
それがめちゃくちゃ嬉しかったです♪
みなさんまだ役が抜けてない感じで硬い表情なのにw
開演前の挨拶の時はすぐ目の前に立たれてドキドキしました。
すみません。好きです。()

中村ゆりさん。
比企の妹・京子。
若くて綺麗で華があって、声楽とかやってて
病気の美緒からすれば眩しい存在だったでしょう。
まだ苦労とか全然知らないような無邪気な存在。
完璧小悪魔
でしたねー()
でも嫌味じゃなくて可愛かったです♪
歌声も綺麗でしたvv
利男さんと上手くいくと良いなと思いましたw

山本剛史さん。
小金貸・尾崎謙。
小金貸といっても無理に取り立てるでもなく
五郎に食って掛かられて「猿」とまで言われるのに
またお金貸してくれるし、
下心があるとしても、
やっぱりこの人も基本悪い人じゃないんだと思います。

深貝大輔さん。
家主の荒物屋・裏天さん
この人がまたものすごーくいい人で・・・
自分もお金なくてめちゃ困ってるのに
五郎が支払い待ってくれって言っても嫌な顔しないし
やっぱり泣けてきました()

ラストの方、
美緒が創った孤児院の生徒たちが見舞いに来るのですが
その台詞は皆で振り分けて交互にいう形で
ひとりの台詞をふたりで同時に言ったり
シュプレヒコールみたいな感じなのですが
これがまたいいんですよねー
リエさんとか深貝さんとか、
それまでの年齢上の役の時とは全然違う声で
ちゃんと子供になってて凄いなと思いました。


終わり方がわりと唐突な感じで
こちらの感情も突き放された感じで終わるのだけど
でもやっぱ好きだーーーと思いました。
こうやって感想書いて思い出していても
なんかちょっと泣けそうです()

三好十郎さんの作品を観たのは、
以前長塚さんが出演した「胎内」とこれで2作目なのだけど
どちらも「生」への情熱というかパワーがめちゃ溢れていて
観るのにもかなりエネルギーを使います。
でも、本当に素晴らしい作品に出会えて良かったと思いました。
力のある脚本ってこおいうのを言うんでしょうね。
できることなら吉祥寺公演も行きたかったです。
スタンディングオベーションできなかったのが悔やまれます。。
(
ステージ近すぎて恥ずかしくて立てなかった(^_^;)
東京の人ってあんまり立たないですよね。。


葛河思潮社の今後にも
かなり期待しちゃいます。




最後に、今回の中で特にグッときた台詞を抜粋します。
『人間、死んだらおしまひだ。生きてゐる事が一切だ。
 生きてゐる事を大事にしなきやいかん。
 生きてゐる事がアルフアでオメガだ。
 神なんか居ないよ!居るもんか! 
 神様なんてものはな、
 生きてゐる此の世を粗末にした人間の考へる事だ。
 この現世を無駄に半チクに生きてもいゝ口実にしようと思つて
 誰かが考へ出したもんだ。
 現在生きて生きて生き抜いた者には神なんか要らない。』