出国一週間前に同じパックの人達と今後行動を共にするので、仲間をよく知っておく必要があるという主旨で、日ソ旅行社が主催して結団式が行われた。
今回のメンバーは、学生が大半で上智大学・ロシア語科の学生と新聞科の学生が団体で参加していた。その他は個人で、日本女子大の学生や、高校生もきている。その他は私のような社会人で、営業マン、大学・高校の先生、翻訳者、病院の事務員、看護婦、雑貨屋の店主、そしてバイオリニストなど実にまちまちである。因みに、私はコンピュータのシステム・エンジニアでした。
その中でも驚いたのは、高校生の女の子が一人で参加していたことだ。団結式には母親が同伴していたが、私のような社会人でもソ連に行くことが不安であるのに、女子高生一人で行くとは大した度胸である。
結団式が終わると、その母親が私のところに来て、「すみませんが、この娘(高校生)を見てやって下さい」というのだ。「私は何もできませんよ」と言うと、「時々見ているだけでいいんです」という。どうしたものかと思ったが、「何もできない」との前提でOKした。そしたら、早速、写真のフィルムを5本、私に預かってくれという。まあ、虫の良い人だ。結局、先方のペースで預かる羽目になったが、実にうまいやり方だ。
そのフィルムをお礼にくれた訳でもないので、預かった以上、その娘を常に意識ら外せないのだから、参った、参った。
上智の学生は恒例の研修旅行らしく、先輩から色々聞いていて、ソ連のことを良く知っている。兎に角、ソ連は日用品が不足しているから、日本の物なら何でも欲しがるという。特に高く売れるのは、「セイコー」の腕時計、欲しがるもは衣服とストッキング。特にストッキングは軽く、何足も持っていける。あとは、現地で親切にしてくれた時のお礼用に事務用の使い捨てボールペン、子供達にはチューインガム、プレゼントには五円玉(丸い穴のあいたコインは世界でも珍しい)等々キリがない。しかし、大変参考になった。
私も今まで買ったことがなかった女性のストッキングを10足ほど買って持って行くことにした。当時、1足200円のストッキングが1,000円位で売れるのだ。時計に至っては、当時1万円のものが10万円位で売れるし、NIKONやCANONのカメラは値がつけられない程高額になる。ただし、オチがある。これを売って旅費を稼ぐことは出来ない。何故なら、ソ連は税関が極めて厳しく、入国時に持金をすべて見せて報告させ、出国の際、残金をすべてチェックする。残りがリーズナブルに減少してないと盗みの罪になるというのだから、売って儲けた金は全てお腹の中に入れてしまわないければならない。某俳優のようにパンツや腹巻の中ではないのだ。だから、必要以上に高額なものの持ち込みは無意味となる。結局、ストッキングが最適である。上智の学生のように慣れた人たちは、質流れの安時計をそれも「セイコー」ブランドのものを1人が3個持っていくという。それも、当時は今のような「時計の安売店」はないので、もっぱら、質屋から調達したようである。
こんなことでも知っているか否かで大変な違いが出ることになり、やはり情報は重要である。結団式に出席した「御利益」(ごりやく)がこんなところにもあった。
次回は「さあ! 出航だあ!」です。