連載「一期一会」


 人生には色々な出会いがある。私が今迄に出会った数々の方々のうち今でも心に残り、楽しい人生の1ページとさせて頂いた方々を思い出しながら綴ってみたいと思う。

<第2話> 土方の親分

 当時、私は大型汎用コンピュータのシステムエンジニアをしていた。そして、私の顧客は都道府県でその主要業務をコンピュータ化する仕事をしていた。

 当時、昭和44年(1969年)、福島県庁に行く列車の中で思い出に残る出会いがあった。

(1) 長旅での隣席の人は気になる
 いつも列車で客先に行くのだが、列車の長旅では隣に座る人がどのような人か大変気になるものだ。当時は私のような担当者は福島へ行くにも会社の規定で特急には乗れず「準急」というのを利用する。準急は特急の半値位で、時間は少々長い位、だが座席の構造には雲泥の差があった。上野→福島は特急で3時間、準急で3時間半であった。
自分の隣の席に若い美人が座ることを期待するが、そのようなことはまずない。この日はその中でも最悪だった。

(2) 朝から日本酒飲む日焼けした人
 私が自席にいくと、既に窓側に座り、朝から日本酒を飲んでいる日焼けした方が座っていた。これを見た時、「今迄で最悪」と思った。しかし、このまま3時間半、黙っているのも辛い。

(3) こちらから口火を切る
 列車が動き出してからしばらく黙っていたが、この方が早く途中で降りることを期待して行き先を聞いた。彼は仙台より先迄行くのだという。もう最悪なんてものではない。しかし、これを機に彼も色々話し掛けてきて話が続いた。

(4) 見掛けで人を判断することの非を恥じた
 色々話をしているうち、この方は「土方の親分」だというのだ。(本人曰く)
しかし、親分という程いかめしくはない。体格も私位(165cm)で腕力があるとも思えない。

 ところが、彼の話しによると、「土方を動かすには腕力はいらない」「優しい心だ」というのだ。「毎日のように労をねぎらい。時々酒を飲ましてやる」すると、どんな頑強な人でもこの親分に従い仕事をしてくれるという。

 当時、弱冠27歳だった私は「優しい心」が人を動かす術として学んだ。大変よい勉強になった。

 そして、何よりも、「外見で人を判断してはならない」事を学んだ。

(5) お土産にゆで栗
 福島駅に着く頃にはこの方と意気投合し、楽しい話しが続いた。
 そして、ゆで栗を数個くれた。私が「大変美味しい」というと彼は「そうか、これはお袋がゆでてくれた栗でうまいんだ」といって又下さった。
 それで、列車を降りる時、私のスーツの両ポケットに一杯ゆで栗を入れて下さった。あまりの多さに閉口したが、この方の気持ちがうれしく、大切にしたいと思った。

 ではまた。

 次回をお楽しみに。

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