連載「一期一会」


 人生には色々な出会いがある。私が今迄に出会った数々の方々のうち今でも心に残り、楽しい人生の1ページとさせて頂いた方々を思い出しながら綴ってみたいと思う。

<第5話> アメリカ人との出会い(つづき)

Ver.1.01 2002/03/28
Ver.2.01 2002/03/28

 1980年代にアメリカへの視察旅行があった。この旅行の途中、ロサンゼルスからニューヨークに向かう機内で知り合った方との話をしようと思う。

【前回の続きです】

(8)食事のメニューで苦戦
 兎に角、レストランに行って食事をしながら話をしようということになり、「和食が良いか、洋食が良いか」というので、折角アメリカ(法権内)に居るのだから洋食にすることにした。
 ウエイターが持ってきてくれたメニューは全て英語で書かれており4種類ほどのコース料理があった。しかし、メニューの意味がわからないので、日本流の「あなたにお任せ」を依頼した。しかし、彼は「No.君が決めなさい」という。「分からないと言うと」メニューの最初の前菜から最後のデザートまで一つ一つ懇切丁寧に説明してくれる。しかし、私にはその食材や料理名の英語が理解できないので閉口した。仕方ないのでローストビーフなど自分に分かる単語のコース料理をオーダーした。
 話には聞いていたが、欧米人は本当に本人が決めるまで辛抱強く待てくれるのには驚いた。そして、この経験がその後の考え方に大変役立った。

(9)浴衣(ユカタ)は何故青と白だけなのか
 食事をしながら、日本文化についていろいろな質問が出たが、その中で「日本のユカタは何故白と青だけなのか?」との質問が出た。
 私は一瞬「ウッ」と唸ったが、5秒ほど考えて「昔日本では、藍という染料で青く染めることしか出来なかった」その「白と青の技法によってユカタが作られ長い間の経験から、単純な「白と青」だけで色々な造形美を創り出す事が一つの文化となった」将に、「シンプル・イズ・ベスト」なのだと説明した。
 この説明が正しいか否かは意見もあろうが、一応筋が通っており彼は納得してくれた。

(10)狸の置物は何か?
 彼は好奇心旺盛で、レストランを出て日本風パブ「赤提灯の店」の前を通過するとき、瀬戸物で出来た狸の置物を見てあれは何かという。
 これも即座に考えて、こう言った。「あの狸は酒が好きで、手に酒徳利を持っている。そして、同類の酒好きの客を店の前で待っている。即ち、客引きをしているのだ」というと、嬉しそうに納得してくれた。
 この日は、これで終わりで、翌日は、アメリカで出会ったとき約束した「富士山一周ドライブ」に行く予定だ。

(11)翌日はドライブ
 翌日は晴天で最高のドライブ日和だ。私の自宅は八王子なので自分の車で都内の「Hotel New Sanno」に向かった。そこで、彼と彼のフィアンセの二人を乗せて、又、来た道を中央道・八王子、河口湖方面に向かっって走った。
 この日は、二人のためにラジオのダイアルを810KHz FEN(Fer East Network=在日米軍極東放送)にセットして音楽を聴きながらドライブを楽しんだ。たまたま、彼が学生の頃の曲がかかって「君の気配りに感謝」などと大変喜んでくれた。

(12)この日も質問攻め
 しばらくフィアンセと口ずさんでいたが、高速道路の車窓から見えた大きな建物を指差し「あの屋根は何故緑色か?」との質問がでた。
 この質問も普通の日本人ならばすることのない質問なので、一瞬考えたが、すぐに次のように答えた。「あの大きな建物は寺院です。昔寺院は強大な権力と財力を持っていました。当時の民は貧しく、家の屋根は殆ど藁(わら)で葺(ふ)かれていました。」「寺院はリッチだったので屋根が半永久的にもつ銅版で葺きました」「銅版の屋根は錆びて銅色から緑色に変わります」「従って、あの屋根は緑色で、リッチの象徴でもあるのです」と答えた。

(13)河口湖はスイスのよう
 中央道分岐の終点、河口湖ICに到着した。この周辺ではやはり河口湖が最も一般的で又美しい。駐車場に車を停めて、少し散策した。彼は又意外な関心を示した。「ここは富士山と河口湖のバランスが素晴らしいのと、全体の景色と雰囲気がスイスに似ている」というのだ。「スイスに似ている」というのは以外だった。
 私もスイスは写真等で知っているが、河口湖が似ていると聞くのは初めてだった。改めて見てみると確かに日本ではないような雰囲気がある。遠くから土産店の町並みを見ても尖がり屋根で白壁に茶色の格子状の模様といったスイスやドイツのような建物ばかりなのだ。私は何度も行っているが変に慣れっこになっていてそのように感じたことはなかったので、意外な発見をした。

(14)富士山五合目で質問攻め
 富士スバルラインで富士山五合目まで順調に進む。そこの駐車場に車を停め周辺を散策。皆さんは以外に知らないかも知れないが、そこには富士山神社がある。神社には大きな天狗の面が祀ってある。
 その面を見て「あれは何か?」という。「His name is Tengu. He is God of Mt. Fuji and super man.」「あれは天狗と言って、富士山を守る屈強な神様である」と説明した。「あの長い鼻は何か?」と次の質問だ。「あの長い鼻は男性のシンボルを象徴して彼の男性としての強さを表現している」と若い彼女のいる手前やや照れくさかったがそのまま答えた。彼と彼女は納得してくれた。
 建物の外に出ると今度は長さ50cm程の大きな鉄の下駄があった。矢継ぎ早に彼の質問が出る。「あれは何か?」「あれは、下駄と言って、日本古来からの履物である。しかし、あれは大きくその上鉄で出来ている。だから、通常の人間では履く事が出来ない。」「天狗はスーパーマン故、あの重い鉄の下駄を履く事が出来る」と答えた。彼は即座に納得してくれた。
 このように、質問が矢継ぎ早に出て、流石の私も対応に苦労した。

(15)お土産はノー・サンキュー
 日本人は今でも観光地に行くとお土産を沢山買う人が多い。欧米人は殆んど買わないとの話を聞いた事があった。
 彼にとって初めての富士山観光なので「私が記念に何かプレゼントする」と申し入れたが彼は遠慮でなく「ノー・サンキュー」だと言う。「まだ他も観光するので」というので。「それでは嵩張らないものを」と言っても頑なに「ノー・サンキュー」だと言う。これ以上強要するのも問題なのであきらめた。本当に彼らはお土産を欲しがらない事が理解できた。
(2年前まで娘がロンドンに留学していたときの感想でも、欧州人も殆んど土産を買わないとのこと。また2年前私が家内と北海道旅行した時は同行の観光客は皆両手に持てないほどの土産を買っていた。)

(16)帰りは東京駅まで
 富士山を降りて、西湖、精進湖、本栖湖を経由して、朝霧高原の素晴らしい富士山を眺めて御殿場に抜けた。彼らの次の目的地は京都と聞いていたので、この先、小田原駅まで送り届ければこれで私は開放されると思っていたら、「東京駅から京都駅まで「ひかり」で一気に行き新幹線の速さを体験したいので東京駅に戻りたい」と言う。
 遠路アメリカからの客人の希望を飲まざるを得ないし、もうここまでくれば同じこと。私は承知して二人を東京駅まで送ることにした。彼女は流石疲れたらしく東名高速道路の快適な走りに酔いながら彼に寄りかかり居眠りしていた。
 私も疲れて「私は結局、婚前旅行の運転手か」などとひねくれた気持ちが一瞬頭を掠めた。そして、私自身一日中英語の世界で疲れたので彼に断ってラジオをFENからNHKに切り替えさせてもらった。彼は「ノー・プロブレム、むしろ気付かずに申し訳ない」といって慰めてくれた。

(17)無事東京駅に到着そしてお別れ
 東名高速道路は順調で無事東京駅に到着した。二人は本当に嬉しそうな顔で最後の別れを惜しんだ。そして、「君がアメリカにきたら自分が十分な案内をする」と約束してくれた。そのような機会が訪れることを祈念してお別れとなった。

 ちょっとしたきっかけでこのような友人関係が出来たことに大きな喜びを感じた。また同時に、この時の二人の嬉しそうな顔は一生忘れないでしょう。

ではまた。


 次回は「ロシア人との出会い」です。

 お楽しみに。

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