連載「大阪の文化と東京の文化」


<第五回> プッシュ・プル(押しの文化と引きの文化)

 駅のような混雑した場所では、東京人と大阪人の行動様式が全く逆であることに気づいた。

 東京では最も人も多く混雑する東京駅を、大阪では、やはり関西で最も混雑する大阪駅を例に比較してみると、この行動様式の違いが良く分かる。

 東京駅での乗り換え客は足早に歩くが、特別のことを除いてはまず走らない。前に歩く人との間に空間があれば速く歩き、詰まれば流れの速さに合わせる。しかも、すれ違うときは、相手に少しでもぶつからぬように自分が身を引いて(プル)よけて通る。だから私は毎日通勤しているが、対向者とぶつかったことはない。

 大阪駅ではどうか?大阪駅では毎朝沢山の人がホームや乗り換え通路を走りまくる。まるで小学生の運動会のように集団になって(夫々は仲間ではない)疾走してくるのである。そして、肩や腕、鞄などに容赦なくぶつかってくる。その上、ぶつかっても決して「お詫び」を言わない。自分の行きたい方向は自分のもの、これを邪魔するものは「突撃」(プッシュ)して排除する。全くの自分中心である。

 混雑した電車の中でも、この「プッシュ・プル」の文化の差が出る。東京では大勢の人が乗り込んでくれば、先に乗っている人は奥に詰めるか、通路を空けて他の人が奥に入り易いようにする。

 大阪では大勢の人が乗り込んできても、先に乗っていた人はその位置から移動しようとしない。だから、入り口はぎゅうぎゅう詰めでも、その反対側のドア付近は新聞を拡げて読んでいる人がいるほど空いている。その上、少しでもその「先人達」を押そうものなら、強烈に押し返してくる。これは老若男女を問わない。むしろ、老人程この反発(押し返し)が強いから「たまげた」ものだ。

 この心理は良く分からないが4年間考えた末の結論は、要は「自分の立っている場所は自分の確保した場所」と思っているようだ。だから、「何人にも侵されたくない」と考えているように思える。

 これが分かると、「割り込み」の時と同じで、自分が奥に入りたければ相手を押すのでなく、多少道を拡げながらその間を擦り抜けて奥に入ればよいのだ。そして、多少腕がぶつかろうが、足を踏もうが、決して「お詫びの言葉」はいらない。相手は自分行く手を邪魔しているのだから。

 東京の人はこのようには考えられないでしょうね。

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