ハチ的コミケ66従軍記
〜ビッグサイトの真ん中で寒いと叫んだ生首〜

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8月13日


 まぁ、何というか。慢性的寝不足に、この、原さんの一刺しの如き強烈な日差しは、非っっ常に堪えるんだわな。といっても、時間はまだ0840時。この程度で酔っ払い歩調にてフラフラしてんだから、これからどんな受難が待ってるのやら。

 ――順に説明しないといけないようだね。えっと……だ、新刊脱稿後、コピー本の制作をやってたんだけど、遅々として進まない。そんなこんなで無理して作った原稿も、出来がイマイチよくない。ってか、これが陶芸の世界ならば割ってしまうぐらい不本意。その上、出発の刻は、あたかも、夢の1リーグ化を達成し歓喜の笑顔のナベツネがリオのカーニバルの衣装に身を包みサンバを踊ってこっちにやって来るかのように、恐るべく不快に尚且つ、脅威の速さで急接近してくる。

 体力もいい加減、末期的に衰えていて、このまま無理押ししたら、仕事中にカタストロフィ崩壊ってか最後の一線を越えかねない。コピーを落とすのは不本意だが、折角完成した新刊を、当日に会場へ持っていかなくては意味が無い。そこで泣く泣く落とすと決めたのが一昨日の事。

 ならば、せめてPOPの一つでも作って、ブースに華を添えようかね。と、挑んだのが昨日のこと。それでも只で済まないのが、この日記の良い所。ここ最近、只でさえ仕事で帰りが遅い上に、慣れないコピックマーカーでの彩色とかで、時間は疾風怒濤の如く過ぎ去り、あっという間に深夜を回っている。諦めて寝る手もあるんだけど…っと、それだけはいかん!一度引いてる身だけに、これ以上引くのは自分自身、絶っっ対に納得いかぁぁん!そんなワケで、結局、完成したときには夜明け。そのまま仕事に直行、で冒頭に遡るってワケ。

 何とか仕事を終えて帰宅できたハチ。ここでテキパキと明日の準備を出来れば、何も問題なく万事OKなんだが、なんだが、なんだが、何せ帰ってきたのが2300時頃。フロメシ後、体が「はふぅ…風呂も入ったし飯も食ったけん、もう寝るだけばい」と動くのを拒否。仕方ないのでちょっと食休みし、疲労困憊な体を何とか起こすのに成功したのは2500時を回ってから。

 でもそれからが大変。前回のCityドーム後に在庫その他を、部屋の押入れに無造作に放り込んでいたのが、これが仇となってねぇ。あれが無いこれが無いして、結局は押入れ物件を全部、引っ張り出すハメになったとさ。

 在庫箱ごとにバラバラになっている在庫を、持参する部数だけまとめて箱詰めし、これまた部屋中にてバラバラに散っている、ブース設営用具一式を、一つ一つ探し出しては箱詰めし、の作業を五輪開会式を見ながら延々と繰り広げる。結局、全てを箱詰めしてカートに搭載した時、時刻は0530時になろうとしていた。

 こりゃ、寝ててもあんまり意味が無いな…と思ったが、2日連続で完徹では、いくら何でも身が持たないんで、1時間半程度ではあるけど、ベッドで横になる事にした。
 


8月14日


 ♪新しい朝が来た 絶望の朝だ 苦しみに胸かきむしり 青空呪え――

 当にそんな感じで、カートを転がして家を出たハチ。いや、転がすってよりも「ギャギャギャギャギャ……」と、まるで魔女の悲鳴。油差しておけばよかったか?

 さて、コミケに参加すべく東京に発つ為には、何よりまずは、目前の仕事を終えなくてはいけない。ここ最近に積み重ねてきた体内の疲労物質が、既に毛穴から溢れ出てきて、更にはオエっ…と、嘔吐のついでに出てきそうなこの状況で、精神力だけを頼りに仕事をしないといけないのだよ。間違ってここで倒れでもしたら、明日が無いのだよ!アアァァン?!そんなことを言いつつ、いい加減立たなくなってきた(いや、『勃』の方は健在だが)自分を無理に奮い立たせ、仕事に向かった。

 1600時。流石に盆期間ともなると暇になるらしく、この時間での終業と相成った。今なら、一旦帰宅&湯浴みに自宅に帰っても間に合う。ところで、人間追い詰められところまで追い詰められると、理性よりも生理本能が勝るもんだな。ここまで寝不足が極まると、立ってようが歩いてようが、気付いた時には既に寝てるんだもんな。

 歩いてて寝てしまい、更に数メートル前進して壁に正面衝突、なんてのは数知れず。ボールペンで字を書いてて、そのまま寝てしまい、左手をぐりぐりぐり…「AHHH〜〜!!(トムとジェリー調で)」で目を覚ます、なーんて事もあったりした。更には、荷物を数段載せた台車を引いてて、そのまま寝てしまい、壁に正面衝突。直後、慣性の法則で飛んできた荷物に、きっついボディーブローを頂いた、なーんて事もあった。

 よくもまぁ生きてたもんだと感心しつつ、一旦帰宅して福岡空港へ。ちょっと慌しかったが、大した波乱も無く順調にJAL便に乗り込んだ。ところで、最近のJALでは、1000円出せば『プラスJ』とか称するアップグレード席に座れるという。そういえば、サークルチェックが全然出来てなかったので、このテの広い席は大歓迎。幸い席が空いていたので、一つ試してみる事にした。

 2000時頃、ほぼ予定通りにJAL機離陸。んで件のJだが、流石に席が広々としてて、ハチのようなデカブツには非常に有難い。さて、サークルチェックをば、と思いきや、運悪く隣の席がオババ也。流石に、パンピーの女性の隣でカタログを広げるのは控えねばならぬ。例えそれが枯れていようが生物学的なそれに過ぎなくとも 仕方ないんで、早々と夕飯を済ませて寝てしまう。

 2120時頃、羽田到着。今夜のお宿は、今年に出来た日本橋の西鉄インって所。例年使ってるホテル浦島は閉まっちゃったんで、今年はそこ。よって、ルートも去年までとはガラリと変わり、今年は京浜急行を利用しての都心部浸透作戦を決行することになった。早速京急に飛び乗ったハチ。はぁ…やっぱ今の時間、東京モノレールよりも京急の方が乗客が多いのか…と感心しつつ座席に座るも、乗客の構成を把握するにつれて、愕然とすることになるのだった。

 ――この電車、何か変なヤツで溢れかえってるんですけど

 上記は、京急電車内での忌憚ナッシングな感想を、簡潔かつ率直に述べたモノである。いやだってね、ズームインサタデーにて0730時頃に出てくる傾奇者が、ごく普通にリアルで出没してるんだもん。おのぼりさんのハチは腰抜かすよ。他に周囲を見回すと、「貴方はどこの島から来たんですか?」と言いたくなる程ピアスを着用した兄ちゃんに、意味不明な事をブツブツ言ってるオヤジ、無防備を通り越して死んでるんじゃないかと思わせるほど無防備な姿で泥酔してるリーマン等々……はぁ、もうどうでもいいや。明日になればもっと…だしね。

 Kの指示によれば、このまま京急で泉岳寺まで行き、地下鉄に乗り換えるという。ゴトゴトと揺られること20余分、泉岳寺で降りる。…にしても、エスカレーターもエレベーターも無いのかよ?ここは。このバリアフリーくそ食らえな駅ホーム見てると、とても先進国の首都の駅とは思えないんだが。慎太郎オヤジは隣国の民度を言う前に、まずはてめぇん所の民度を何とかするんが先やろーもん?と、九州のアジア重要都市から来たオタクは思うわけだ。

 ガタガタ抜かしても仕方が無い。カートを持ち上げ、階段を上がる…が、どこも出口ばかりで、乗り換え口らしき場所が無い。カートを抱えつつキョロキョロしているハチの姿を、駅員さんが「何やってるんだ、あのバカ」って目で見ておらるる。視線に耐えられなくなったハチは、一旦引き返してみることにした。――はは…ん、そういうコトね。

 読んでるみんなは予想ついてるとは思うんだけど、京急→営団への乗り継ぎって、その線路のまま他線に行くタイプなんよね。福岡で言えば、市営地下鉄とJR筑肥線のような感じ。そもそも、地上を走ってた京急が地面にもぐった時点で、気付いとくべきなんだけどね。はぁ……

 しばらく待ってると、電車が到着。電車は勝手に営団地下鉄に変貌し、ガタゴトとハチらを乗せて行ったのでした。ちなみに今日は恒例の花火大会だったので、浴衣姿がそれなりに生息。そうこうしてる内に、目的の営団日本橋駅に到着。例の如く、エレベーターもエスカレーターも無い民度の低い非バリアフリーな出口を降り、今夜のお宿たる西鉄イン日本橋を目指すハチ。

 …が、それらしき建物は無い。これはどういうことか?駅周囲を探し回ってみたが、やはり見つからない。はっきり言っておくが、大都会の最新ファッションに身を包んだ男女が闊歩する中を、カート転がして歩くのは、ある意味、一種の放置プレイであり、非っっ常に難儀である。当然のことながら、荷物の体感重量も加算していくワケで、難儀指数も飛躍的に加算していく。

 う…ん……。本来の予定ならば、一人で到着してみせてKを驚かせるつもりだったが、背に腹は変えられない。Kに電話を入れた。「――今、何処だ」日本橋駅を出た所「都営のか?」うん「……バカか、お前は」な、何ば言っとっとね?!そりゃバカなのは自覚してるつもりばってん、他人から言われりゃ、それなりにムカつくもんやろーもん。Kは大学行っとるんやろ、んで、小泉総理に突付かれながら郵便サービスの向上に励む一公社職員やろーもん?少しはマシな言い回しば考えなイカンやろーがぁぁぁ!と、深夜の大都会東京の中心でいきり立つハチ。

 「西鉄インは人形町だ」――えっ?だって西鉄イン日本橋って…「前に行った筈じゃないか。そこから一駅向こうの人形町で降りてすぐの所にある」で、でも、西鉄イン日本橋って銘打ってるからには、日本橋駅から降りるって考えるのが普通じゃないか?西鉄の駅で西鉄インのポスター見てるオノボリさんには、まず間違いなく刷り込まれてると思うんだが。あのポスターには「営団人形町駅から」って何処にも表記してなかったぞ?JAROに訴えねばならない代物じゃないかい!おい「それは、お前だけ」…はいはい、下調べが足りなかったハチが悪かったYO「わかったんなら、とっとと地下に降りて地下鉄に乗る!」へいへい…

 階段をカート担いでエンヤコリャ…と降り、すぐ傍にあった地下鉄の入り口下りて券売機に立ったハチ。あれ?この券売機も上の案内板も、人形町までの料金が書いてないんだけど。これどげんコトね?嗚呼、大東京はまたも田舎モンに試練を与えるのか…オロオロして周囲を徘徊するハチ。何度か券売機の周囲をグルグルしてようやく事実を把握。どうやらハチは、都営じゃなくて、東京メトロ(営団)の日本橋駅に入ってしまったらしい。人形町駅は都営になるんで、無くて当たり前というオチ。

 地下鉄が単一団体により営業されている福岡では、この感覚は今ひとつ理解しにくい。駅員の「そこにバカがいるぞ」的視線を背に受けつつ、都営の入り口へと向かったハチだった。例によって階段だらけの『不入狗車椅子』な道程を、カート担いで進む。手の感触が次第に薄れてくるのが判る。ただ、無駄にエアコンが効いてるんで、汗はかかないのが、ハチにとっては不幸中の幸い、地球にとっては不幸中の更なる不幸であった。

 ようやくそんなこんなあんなで、西鉄インに着いた時には、もうちょっとで日付が変わろうか、ってお時間。早速チェックインし、鍵を受け取って…おお、カードキーか?ハイカラよのぉ。エレベーターを上る。考えてみれば、建物の昇降に文明の利器を利用したのは、羽田空港を発った後はここだけ。一方、福岡県の端っこ筑紫野市では、職場にはエレベーターあるし、西鉄二日市駅にはエレベーター&エスカレーター完備…なーんだ、東京都のほうが民度低いじゃん。ねぇシンちゃん?

 ドアの前でカードキーを挿して、入ろ…あれ?開かない。これはどうしたことか?と、ドアの前で混乱すること数分。カードキーは挿しっぱなしにするんじゃなく、引き抜いてから開ける、って事に気がついた。やれやれ、他人様の悪口言ってるとロクな事が起きやしねぇ、反省。

 その後、Kのお部屋にお呼ばれし、明日のことやら戦利品の自慢話やらを聞く。当のハチは、疲労困憊ハカタサイコーバイであったんで、テレビに映りし栄光に輝く、谷(嫁)をぼんやりと眺めつつ聞き流していたが。

 適当に時間を過ごし、0130時ごろ部屋に戻る。ところで、このホテルのテレビは目分量17インチワイドぐらいの液晶モニターになってて、普通のテレビと違って部屋がスッキリとなってるのが印象的。自販機コーナーで買ってきたカップ麺で簡単に夜食を食らい、風呂に入る。疲れてたんだけど、シャワーで済ますんじゃなくて、ちゃんと湯を張った。本当に汗臭さを何とかしたければ、湯船に浸かって毛穴を広げないといけないんだそうだ。まぁ、本当に何とかするべき連中は今頃、ビッグサイトでウロウロしてるんだろうけど。

 その後、五輪中継やらビデオカードを1枚使って気分転換鑑賞致しまして、寝りに入ったのは0320時ごろだったかな。予想通り、寝不足は避けられなかった。まぁ、業だから諦めているが。なんにしても数時間後の闘いに備え、少しでも体を休めなくてはな。では、おやすみ――
 


8月15日


 やれ夏コミ3日目だ雛子誕生日ださっちん聖誕日だと浮かれポンチになる前に、まず最初に一言書いておく。――先の太平洋戦争(まぁ、これを「第2次世界大戦」と呼ぼうが「大東亜戦争」と呼ぼうが、各個人信条思想の勝手なんでハチは知らん、って事で)にて、我が国及び全世界で犠牲になった全ての将兵・民間人の方々に対し、冥福と哀悼申し上げます。

 さて、シメるところをきっちりシメた(?)所で、浮かれポンチ大会行ってみようかね。

 Kの指示した出発時刻は0600時。タイマーは余裕持って0500時で設定してたが、二度寝三度寝を繰り返し、予定時間には寝汗流して下着を着替えるのが精一杯。結局、30分の遅れでチェックアウト。

 さぁ、本を頒布しまくって良い本を買いまくって、思いっきり充実した一日を過ごそうじゃないかい、がはははははは……って具合で、希望に満ちつつ宿を後にせんとするハチの目の前に登場したのは、ど〜〜〜〜んより…と、重くよどんだ雲が覆いかぶさりし、とても清々しいとは言いがたき朝の空であった。

 天気予報で知ってたとは言え、体力は既に消耗しきってしまい、気力を食い繋いで辛うじて動いてる状態のハチには、この天気はちょっと酷である。それに小雨も降りだしてるし。そうはいうものの、0930時までにビッグサイトのサークル入場口に行くのが、この旅におけるほぼ最後の義務。気合を入れてカートを進ませたハチであった。

 お宿を出たときには、小雨がほんのパラパラ降る程度で、傘をさすまでも無い。そして、このままの状態で会場までいける!そう判断したハチは、折り畳み傘をバッグの奥に入れたままにし、カートの荷物も特に防水対策をせずに、ひたすらゴンゴンと進んでいった。このまま雨に降られること無く、何とか無事、ビッグサイトに到着できましたとさ。めでたしめでたし…にならないのが、この日記の良いところ

 小雨だった雨は弱まるどころか、ハチら一行の出発を待ち受けたかのごとく、ドコドコと雨足を強くしてきたんだわ。これはイカン、かと言って今更、カートの梱包を解くわけにはいかない。窮余の策として、非常用簡易レインコート用に持参した福岡市指定ゴミ袋可燃ゴミ用45Lを、カートの上に敷いてシノぐ事にした。先に荷物には防水対策をしてないと言ったが、一応、本だけはビニールで包んでカバーしてはいる。これで何とかなればいいんだけど。

 人形町駅から、都営地下鉄日比谷線→八丁堀→JR乗り継ぎ→新木場駅のルートを通る。地下鉄の段階で、既に同胞らしき大荷物がチラホラ確認できた。とはいえ、きわめて節度高き人々ばかりであったと付け加えておく。ここから臨海線で国際展示場前駅まで乗り、徒歩で会場入り、という算段となる。

 さて新木場駅。流石にここまでくると、明らかに同胞含有率が飛躍的に高まる。って言うか、駅員以外にはソレしか見えないんだが。

 ところで、競馬ブック愛読のハチが楽しみにしてる、かなざわいっせい著「八方破れ」では、場外にたむろするギトギトのドロドロな馬券オヤジらの、克明かつ生々しい観察が、見事な笑いの要素の一つとなってたりする。一方、今ハチの目の前に居る、コミケ兄ちゃん達を観察してみると、これはこれで、非常に面白いのである。

 見渡す限りの同胞らの構成比率は、ハチ的独断目分量換算によると、一般7:サークル3って所だろうか。意外と、ご婦人方もチラホラと点在してる。その彼女らは、何故か他の男連中よりも明らかに元気であった。生物学的には♀は♂より生命力が強くできている。という話を聞くが、彼女らを見ると、妙に納得できた。

 にしても、みんな大荷物だよな。いや、中身スカスカなバッグ一個のお手軽な人もいた事はいたが。一般参加者で、3日分の着替え等の日用品を携行してる…にしては、あまりにも巨大である。何が入ってるのやら。

 ところで、妙に驚いてしまったのだが、この群集、黒いのである。いや、細部を凝視すると、皆カラフルな服装をしてるし、多彩なバッグを担いではいる。でも全体を見回すと、何故か、深夜の海原の如く真っ黒に見えてしまうのである。ハチが独断推測するに、これこそがオタクが発せし独特のオーラで覆われた結果によるものであろう。とはいうものの、ハチも泥黒の海を構成する一人であることにはなーんも変わりないんだわな、くははは……

 中でもインパクトがあったのが、ハチの左正面に居た人物で、何やら大きなバッグを抱えてる。いや、バッグと兄ちゃんの体格比がムチャクチャで、むしろバッグが彼を持参してるように見える。で、その巨大なるバッグに戦利品を詰め込むのかと思いきや、よく見ると、何か入ってる様子である。……大きな箱か?見たところ、バッグに丁度収まる長方形の物件を収めてる。更に、壊れぬよう大事そうに抱えてるように見えた。本棚を直接持ってきたのか?等身大のフィギュア等の然るべき物件でも持ってきてるのか?ハチの想像は膨らんでいく…って所で、電車が来てしまい、妄想タイムは終了。

 電車が来た――電車の形をした棺桶に揺られ、国際展示場駅に到着。これから徒歩で、天国時々戦場ところにより一時生き地獄の有明ビッグサイトに赴くことになる。驚いたことに、臨海線電車の中という、最早コミケ参加者しか居ないであろう、あんな場所でも、多少の民間人が確認されたのだ!これはマジで、海底火山の中からバクテリアが発見された事実以上の驚き。

 これはハチが臨海線で荷物を抱えつつ座ってて、長椅子の向こう側に老婦人を確認して判明した。さてその老婦人、「また嫌な季節が来た…この美しい有明臨海都市が汚される…」ってな目で、沸々と沸き立つ海底火山の溶岩たる我々を見ていたように思えて、妙に心苦しかったかな。ま、ハチ自体は参加ルールは厳守してるし、汚損行為はナッシング。別にやましい事はしてない筈なのだが、内心「すまんかったとばい」と、思わずにはいられなかったのは何故だろう?

 ――臨海線国際展示場前駅。駅舎はとても広々で、好天の日は、天井からの明かりがサンサンと降りそそぎ、パラダイスを彷彿とさせる。しかし、年2回、この駅舎がアニメやゲームのポスターで埋め尽くされるとき、そこは地獄への入り口へと化す――

 とうとう、ビッグサイト敷地内へと到着したハチ。肝心の雨は、多少は降って(ポツポツ)いるが(パラパラ)多分大丈夫(シトシト)だろう…(ザアアアァァァァァ……)

 うぎゃああああ……お約束サンクスじゃあああぁぁぁ!……と、思わず天を仰ぐ。ハチが駅舎を出るのを確認するかの如く、実に絶妙なタイミングで本降りになる雨であった。

 これはマズ…と後ろを振り返ると、「ハイハイ外に出てくださいね〜、ハイそこ〜外に出る〜」と、駅員が蔑むような口調で、なかなか出ようとしない参加者を外に誘導せんとしていた。それは当に銃口をこちらに向ける督戦隊の如し。

 しかしまぁ、何だ。駅員の立場からしてみれば「こうしてる内にも後ろからゴンゴンと参加者が沸いて出るわけであって、早く出てもらわないと安全上困るのよね。ほら、雨が降るのは天気予報で知ってたでしょう、それでも来るんだから濡れようが風邪ひこうが、貴方らの自己責任でしょ?」であって、それは一定の範囲で理解できる。そんなこんなで駅前で立ち止まってる内にも、時計の針は刻一刻と確実に、サークル入場〆切時間を目指し進んでいる。覚悟を決めたハチは、一刻も早く建物内に入るべく、雨のビッグサイトを、カートをゴロゴロと転がして前進した。

 ……はぁ…はひぃぃ……これで何度目の階段になるのだろうか?雨水は全身に行き渡り、体内の熱が徐々にではあるが、確実に損なわれつつあるのが実感できた。ハチの体にはもう、数を数える余裕は残されていない。それでこの歩道橋である。どこにでもある物件である筈だが、今のハチには遥かなる高峰に見える。思わず足が止まるハチ。が、後ろから無数の参加者が迫ってくる。疲労で緩んだ口を、今一度ギリリ!と噛み締め、カートを持ち上げた。そして一歩一歩、慎重に歩道橋を登り始める――

 今まで送迎バスで一気に、サークル入場口まで行ってたんで、入り口までの道程はま〜〜ったくと言っていい程、実感が湧かなかったハチ。それがこの度、交通機関を利用してのルートで、サークル入場口までの道を征く事になった。なったんだが、よもやこんなに段差が多いとは!!道中、何度も歩道橋を何度も登ったり降りたりをしなければならない。晴天時でも大変な作業であるのに、この雨での辛いことったら無いね。

 ようやく、ビッグサイト東館側のサークル入場口に着いた。時計を見ると、0815時ぐらいになっていた。先ほどの有明死の行軍は、大体30分程度の事だった事になる。う…ん…、思ったよりも短くて、ちょっと拍子抜けしたハチだった。

 目標のブースに着くと、机の上には例によって例の如く、無数のチラシが置いてあった。否、どちらかといえば乱雑に散らかっている、って表現が正しい。これを「イベント告知チラシはKが持ってけや、ハチは印刷所のパンフを貰うし」って具合に延々と片付け、その後で本を並べていく。

 「オラァァァ!!お前ら自分のサークルはどうしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!戻れぇぇぇぇぇ……」

 スタッフの怒号の方を向くと、…おお、いるわいるわ「あんたら自分のブースはどうしたんですか?」のチケット入場組が湧いてる湧いてる。机に着いた頃にはチラホラ程度だったのが、ブース設営を終える頃には、ぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ……と、実写版・王蟲の行進みたいに集まっていた。

 これが本物の王蟲ならば、ナウシカの説得で止まってくれるんだろう。んだが、このビッグサイト腐界の王蟲は止まるどころか、腐界の海に溶けて白骨化したナウシカを踏んで前進し続けるんだろうな、やっぱ。

 この列は、ハチのブースが入ってる島の、すぐ傍で出来ている。ハチはサークルで参加して3年目になるけど、ここまで至近距離で見たのは初めての事。列の大きさは、島3〜4個分。ハチの目分量で、長さ50M、幅5M程度といった所だろうか。雨が降ってるんで、まずは建物の中に入れ込んだのだろう。この列全体が、あるサークル狙いの人々なのは容易に予想がつく。が、くはぁ…しがない同人作家たるハチには、夢のまた夢な話だな。

 それにしても、暑いどころか涼しい。更にそれを通り越して、ちょっと肌寒い風が会場内を廻る。その風に乗って、スタッフとチケット組とのやり取りが聞こえてきた。ちょっと耳を傾けてみることにしますか――

 「サークルさんに迷惑かかってるのが、わかってるよな?!」「はーーーい」いや、分かってない分かってない。その列にいる時点で、全然分かってない「キチンと並ぶようにッッッッッッ!!!」「はーーーーーーーい」やれやれ、返事だけは立派だねぇ…ま、ハチの所には寄り付きやしねぇ、大手狙いの人々なんで、ちょっとぐらい悪態ついても構わねーわな、くはははは。

 直前の一斉点検時ごろには、流石にチケット組は外に出されたようだ。井上陽水の名曲に乗って、一斉点検が始まる。机にある本が「何で、あたしじゃないのー(CV:榎本温子)」って抗議してるようにも聞こえるが、そっちの方が有名ったい、それにくさ同郷やけんね、と速やかに却下しておいた。

 1000時。代表夫人(?)の挨拶を砲声に、一斉に続く歓声っていうか怒号をあげつつ突進する(やめれ!)チケット組連中。コミックマーケット66も、今日で最終日。幾万の参加者一人一人が、数々のドラマと感動と喜びを、――時々不快感とヒンシュク及び腐臭とを――手に入れることだろう。果たしてハチの作品が、誰かの喜びとなれるのだろうか…そんな事を思いつつ、開会を迎えたハチだった。

 いや、前言をちょっとだけ撤回させてくれんか?ハチの目の前を、スタッフの制止を無視して疾走しやがるチケット組だけは、サタンの名の下に永久(とこしえ)の災いあれ。

 その後は、平穏に時が過ぎ、本もちょこちょこ売れていってる。いや、平穏とは言ってみたが、只机に座ってて分からんだけで、実際はもんの凄い、魔女の釜の中のようになってるのかも知れん。2日続いた酷暑から打って変わってのこの天候も、参加者の体力を削いでるとも考えられる。

 なーんで、そこまで一般参加者の疲労に拘るか、って言うとだ。――いやね、宮原さんが来てないんよ?宮原さんといえば、InfernoDaysでの極悪振り活躍は、ここでもあちらでも書いてたりするので知ってるとは思う。が、対外的には実に、本っっ当に律儀なお人で、顔見知りのところには、ちゃんと挨拶を欠かさない。あの格好だけど。そんな宮原さんの姿を、全然見てないんだわ。それどころか、宮原特戦隊のメンバーを何故か殆ど確認できず、唯一/Si/さんが顔出しに来た程度。結局、終わるまであのインパクト大爆発なお姿を見ることはなかった。

 …って事は、やはり一般参加の現場は想像以上に過酷だったらしい。後日、CNドームでInfernoDaysのブースに遭遇し、匿さんに話を聞いてたら、大変だったと言ってたし。

 それ以降、イベント終了までは、たいした山場もなく読んでる方もつまんないだろうから省略。その省略後、1815時頃に羽田空港。帰りの飛行機まで2時間はある。ちょっと待つのにも、時期が時期だけに空港一体に、おガキ様がそりゃ暴走族の如き大音量を発しつつ跋扈しておられ、発ってるだけでもストレスが溜まる。

 ならばどうしようかなー…と、目に付いたのは、YAhooカフェ。おお、これはいい。まさか、こんな場所まではおガキ様は現れるまい。入ってシステム聞いてみると、1オーダー頼めば、時間一杯ネットし放題だそうだ。そこでしばらく時間潰して、搭乗待合口に。あ、例のカートやら本やらの荷物は、早い段階でチェックインを済ませたんで、今頃は飛行機の中ね。

 搭乗待合口の売店で、恒例の「まい泉カツサンド」を買ってくる。Kらに勧めてみると、これが結構な大好評。そりゃよかったな…っと、ハチの食らう分が減るじゃないか?!チッ、やらなきゃよかった。減るといえば、ハチの身の回りにおいて、何となく満ち足りないような、何か足りないような……

 あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!

 そうだ!想い出した。空港入ってすぐにおみやげに買った、常磐堂の人形焼こしあん&カスタード詰め合わせ20個入り税込み1050円也を、YAhooカフェに置きっぱなしにしてたじゃないくわぁぁぁぁぁ!!搭乗手続き済ませたし、ゲートも通過しちゃったんで、今更戻ることも出来ねぇ。仕方ないんで、売店で12個入り630円を購入。最後の最後での失態に、売り上げやら掘り出し物の喜びが、一気に吹っ飛んでしまったハチであった。ぬぅああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……

 落ち込んだまま飛行機に乗り、離陸するが早いかKもろとも大爆睡。着陸のアナウンスで目を覚ましてみると、目の前には「この美人のスッチー様を差し置いて寝やがったヤツは、罰として飲み物は抜き。欲しけりゃ焼き土下座でもしやがれ」という内容が、1億倍やんわりとした文面で書いてある紙切れが、貼ってあった。チッ、行きで飲んだコーヒーが割と美味かっただけに、損した気分。

 飛行機を降りて空港で解散。他の人々は帰るが、ハチは恒例の一人酒盛り大会を遂行すべく、ショッパーズへ買出しに突撃。ショッパーズについたころには、時計は既に2300時になろうとしていた。日曜のこの時間でってのは、バスも電車も地下鉄も終わってしまってるんだが、意外なことに、結構客がいるんだわな。この時間帯になると、商品整理が行われるようで、テナント店の売れ残りが一箇所に並べられてたりする。その中からつまみになりそうな物件を買い、店を出る。

 えっ?バス無いのにどうやって帰るのかって?タクシーに決まってるじゃん。タクシーを拾ったハチは、そのまま…近所の12時までやってるダイエーに行ったとさ。

 さっきショッパーズに行ったのに、今更何故にダイエーかと言うと、だ。まず第一に、惣菜屋などのテナントが店ごとに違ってて、置いてる商品が一部ちょっと違うから。それに第二に――ここんとこが重要、メモとっておくように――天神から自宅への移動の間、ビールやら酎ハイやらの飲み物群はどうなる?移動の間にヌルくなるだろう。折角の、かなざわ規格を合格せしコキコキに冷えたビールが、台無しになるというモノだ。ならば、なるべく近くて、それでいて安い場所、とならば、今の時間では近所のダイエーしか無い。分かったかな、ハハァン?

 帰宅したときには、既に日付が変わってる。シャワーを浴びて、旅の埃やらコミケ臭やらを流した後、飲みまくって買った本を読んで、飲んで本を読んで、飲んで飲んで本を読んで、飲んで飲んで飲んで飲んで……


8月16日


 ――気付いたときには1900時になってやんの。

 2日間殆ど寝てなかった分、大爆睡を果たしたハチ。夕日を見つつムックリと起き出して、その後も飲んで飲んで飲みまくったのはキミとボクとの内緒だ♪今まで、原稿完成コミケ成功祈願で酒断ちしてた反動が、ここに来たんだろう。

 それはそうと、今この日記を書いてて気付いたんだが、ショッパーズから近所のダイエーまで、深夜で空いてる道をタクシーで行くのと、重いカートをガラゴロ転がしてダイエーから自宅まで帰る時間って、あんまり変わらないんだよねー。つまり、クーラーが入ってる分タクシーのほうが良かった事になるんじゃないかい?!って事だ。

 1メーター分のタクシー代を惜しむあまり、あれほど大事にしてた筈のコキコキビールの愉悦を損なったハチであったとさ、めでたしめでたし。ふぬぅうううぅぅぅ……


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