ハチ的コミケット70従軍記
来た、売った、疲れた

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8月12日


 その男は時計を気にしつつ、馬鹿デカい荷物をカートで引きずっていた。

 ども、八兵衛さんですよ。さて、今の時間は、2010時。これから2115時のスカイマーク便で羽田へ飛び、遥かなる夏コミへと赴く事になってる。――は、いいんだが、ってか、毎年毎年言ってることなんだが、空港までの道のりは、例によって例の如く、かなり余裕無しであった。

 いや、仕事自体は早く終わったのだが、仕事終わってから、一旦帰宅。その上でシャワー浴びてから再出発。となると、どうしても時間に余裕がなくなる。本来なら、不足している用具を買出しに行こうかと思ったんだが、背に腹は代えられない。完全に諦めて、空港へと向かった。

 しかし重い。今回は、旧版本の値下げ&割引サービスを行い、大々的に不良在庫の処理を目論んでいたので、普段よりも多めに本を箱にブチ込んだので、その重量たるや、23キロ。重さによる疲労よりも、荷物を負っている所の、千円で買ったボロのカートが耐えるか否か、それが一番の心配だったりする。

 「○○時発スカイマーク××便は、機体の到着が遅れておりますので…」

 福岡空港にて、さて、ぼちぼち搭乗手続きするかねぇ、とダルダルになってると、上のアナウンスが耳に飛び込んできた。もしかして、ハチが呪う乗ろうとしてる機の事じゃないか?!慌てて、スカイマークのカウンターに駆け込んだハチ。

 で、結論はビンゴ。羽田からこっちに向かってる機が遅れてて、出発には1時間以上の遅れを見込んでいるんだそうだ。遅れるのはいいんだけど、現地――京急や東京モノレールは動いてるのか?と心配したが、幸い、前の機に空席があるので、それに変更させてもらった。

 これで一安心、とはいかない。件の便の出発までには、手元の時計で、あと15分程度しかない。急いでカートの荷物をバラして、荷物を預ける。そんなワケで、急いで搭乗手続きに向か……

 ――はて?どっかで見たような。

 ハチの目の前に、搭乗手続きのために荷物をまとめてる男性が一人居る。後ろ向きなんで顔は見えないんだが、ハチはその人が見たことがある気がして、仕方がない。特に、その後ろ向きにかぶったヤンキースの帽子――

 「ああ、△△(八兵衛本名)君じゃない」――やっぱり!

 その人は、Imperatorの星鈴さんだった。どうやら、スカイマーク便が遅れたトバッチリを食らい、ハチと同じ機に乗合わす事になったらしい。時間が無いので、話もそこそこに、搭乗口へ向かう。搭乗口では、既に乗客の列が出来ていた。ここで星鈴さんとは、コミケ会場までのお別れ。

 さて、随分と久々に乗る事になったスカイマーク機。これがまた、何も無い。本当に何も無いんだわ。

 他社以上の大幅なダンピングを実現させるべく、他の会社であるような飲み物などのサービスを一切省いた、とは聞いていたんだが、本当に何もかも無い。座席には音楽を聞くチャンネルの名残が残ってはいたが、当然ながら、イヤホンは無い。こうなると、酸素マスクや救命胴衣がちゃんと装備されてるのか疑ってしまう。

 この飛行機で客に用意されているのは、味気ない座席と、安全のしおり。ただ、それだけ。いや、エチケット袋もあったか。

 そんなこんなで、スカイマーク機は21時未明、ハチを乗せて飛び立った。

 先に、何も無いと書いたが、飛行中、客はどうなるかというと、基本的には放置プレイ。機内前面には、ティプレイはあるんだが、離陸直後恒例の簡単な安全の説明以外は映さない。いや、厳密言えばちょっと違うか。ほら、他社機では主に離着陸前に映し出されるところの、現在地を飛行機のモデルで表した図があるじゃない?あれが、延々と映し出されるんよ。

 22時半頃に着陸。荷物を受け取って、東京モノレールに乗り込む。

 ハチが泊まる事になってるお宿は、大森東急イン。Kが、名鉄観光が主催してるコミックバスツアーの、宿泊のみプランを手配したという。場所も、JR大森駅の至近だそうで、苦労することも無い。夜景を眺めてると、モノレールの車窓を、雨が打ちつけていた。とは言え、以後はどーせ屋根の下だから、問題は無いが。

 そうこうしてる内に、浜松町駅へ到着。ここで山手線へ乗り換え。時計は23時を回っていたが、構内にはまだまだ人は多い。翌1時まで動いてるんだから当然か。そういえば、今日は大華火大会が中止だったよな。そんなワケで、幸いにも、極端な混雑に巻き込まれることは無かった。

 んだが、その人々が、何故か騒然としている様子。エンドレスで流れてたアナウンスに耳を傾けると、どうやら落雷で電車が止まってるらしい。先に言ったように翌1時まで動いてるので、それほど心配はせず、のんびりと待つことに。

 心配するまでも無く、ハチが駅に着いてから15分ほどで復旧。そして山手線は何事も無くゴトゴトと動き出し、夜遊び人を飲み込んでいった。

 品川駅から乗り換え、大森駅に到着。時計はまもなく24時を回ろうとしていた。と、改札を出たところで、偶然にもヨースルの人と遭遇。聞けば、ヨースルの人も落雷騒動に巻き込まれて、この時間まで遅れたんだそうだ。

 先にホテルに入っていたKと合流し、遅い夕食を食らうなどで、その日は終了。


8月13日


 朝だ。まだ夜は明けてないが、朝だ。

 時計は0455時。昨夜は1分でも睡眠時間が欲しかったので、風呂に入らずじまい。そんなワケで、同部屋のヨースルの人より先に風呂を使わせてもらうべく、ちょっと早めに起きた。

 おっと、説明がまだだった。件のコミックバスツアーでは、バスでビッグサイトまで行ってくれる送迎サービスが行われるという。これが、宿泊コースでも(席が空いてれば)利用できるらしい。これを利用しようという魂胆である。4時台に出発する一般向けと、6時代に出発するサークル向けの2便があり、後者を利用する。

 0600時を回る頃には、各自の準備も終わり、Kもやって来た。出発。

 ビッグサイトに到着した時には、0700時。サークル参加入場開始は0730時からなんで、その場で、もうちょっと待つ。しばらくすると、バスロータリーに豪華なバスがやってきた。よく見ると、そのバス、ゲームの広告らしきものが貼ってあるじゃないか。…こ、これが噂のコミケバスって物件なのか?!(後日調べたら、どうやらここのらしい)

 時間が来たので、速やかにサークル入場してしまう。チラシの山は――今更、諦めたが、せめてサイズの統一ぐらいしてくれんかのぉ?

 B5(B4)版のチラシを、ホイホイと折ってまとめてる最中に、A4(A3)がひょっこりと飛び込んでくると、ほぼ脊髄反射的に十日恵比須神社の方向を向いて「このチラシ出した印刷会社に災いあれ」と、博多の恵比須様にお願いしてしまうハチがいるのは、君と僕との内緒だ!

 会場入りした時間が早かったので、時間に余裕をもって設営が完了。予めシミュレートしたブースのレイアウトを携帯カメラで撮っておいたのが良かったか。ってか、所要時間の半分が、チラシの片付けに費やされたっていう氣志團現象はどうよ?

 1000時。いつもの代表夫人による開会宣言を号砲に、男津波が押し寄せる。我々の如き中小サークルは、最初の1時間程度の時間は、この連中の見物によって費やされることになる。

 さて、今回はのハチはお誕生日席、しかも目の前は外周という良い場所――見物対象の体格を鑑みるに砂かぶりと呼ぶべきか――だったんで、充分に見物させてもらった。

 近くで見て意外だったんだが、噂に聞く、無辜のブースを破壊するって程ではなかった。とはいえ、数の暴力と欲望及び群集心理で動く、恐怖のマッシーンであることには変わりなかった。先に男津波って書いたが、どちらかといえば、ローマ帝国を破滅に追い込んだ民族大移動を思わせる。

 本日は、にしじまさんが布告を出してくれた事もあり、クイズ地獄の人々が来てくれた。ディスプレイの文字越しでしか交流の無い人々と、こうやって、顔を合わせて、なおかつ実際に言葉を交わすのは、新鮮だった。

 1200時を回り、そろそろ自分の買い物に出かける。ブースを敷き布で覆って「13時半ごろには帰るよー」という張り紙を貼って、いざ出発――まてよ?財布の中身を思い出し、多分、1時間半もかからないんじゃねーか、と思い直し、「13時には〜」に書きかえて出発。

 例の如く、ソフトバンク大道の如くバットを短く持つ戦法で、狙いを絞りに絞った数少ないサークルを、順調に回…ぬぉおおお?!

 コミケ1年振りのブランクって言うか、前回参加のヤフードームは、規模の割には人口密度が極めて低いイベント。あのぬるま湯の如き快適さが、すっかりハチに、大人数の海を遊泳する術を忘れさせてしまったようだ。地図の上では近いんだが、人の流れに翻弄され、なかなかたどり着けないんでやんの。

 いやいや、去年まではこんな事は無かったんだけどな。これが『老いた』ってヤツか?

 ちょっと油断すると、前に進どころか明後日の方向に行きかねない。それで、すっかり人酔いを起こしてしまうハチ。今の時間でこうなんだから、午前中はどんな感じなんだろう。今のハチには想像したくない。

 そんなこんなで、30分で戻ってくるつもりが、結局は14時近くまで延びて、ヘロヘロになりながら、ブースに帰還。ぐったりと座ると、ジュースが置いてあるのに気付く。一緒に書き置きもあって、曰く『タマモが来ました』――しまったァァァァ!!

 不覚!前々から来ると言ってた、サザンウィンドのタマモさんがちゃんと来てたらしい。ハチが人波の中をモタモタしてる内に、行き違いになったんだろう。後で知ったんだが、宮原さんとも行き違いになってたらしい。ふぬぅ…買出しに行くのが、ちょっと早すぎたようだ。

 1500時を回り、そろそろ帰りを意識しはじめるハチ。何せ今日は、Imperatorの飲み会に参加する事になってるんで、早めに引き上げたい。そこで、ちょっと工夫。まずは、本の大部分を箱に詰め、ブースの機能を縮小維持しつつ、片づけを続行。

 1530時。コミケ自体はあと30分ある。今だ絶えない人の流れを見てると、まだ売れるんじゃないか?と考えたりするが、統計学的って言うか過去の経験だと、終了30分以降で売れることは皆無なんで、思い切って片付けてしまう。

 多少売れて、多少軽くなった――前言撤回、チラシの山を詰め込んだら逆に重くなった――荷物を、ペリカンの所に持っていく。まんレポで宅配便ブースが死ぬほど混むと聞くが、終了前だとそれほど混まない。とはいえ、先に言ったように、「切る」タイミングが難しい。バッサリと覚悟を決めてしまえば、比較的楽にネコやトリを利用できるんだけどね。

 大きい箱に詰めるだけ詰めて、ペリカンに預け、元々印白湯所が持ってきた新刊用の箱に、戦利品や細々した物を詰め、こっちをカートで持って帰ることに。ここまで済ませた所で、終了の拍手が巻き起こった。ハチは片づけが終わったので、星鈴さんのブースに行ってみる。そこでは、星鈴さんが片付けの最中。「まだ売れるんじゃないか、と思うと、どうしても最後まで居残ってしまう」と、さっきのハチと同じことを言ってた。ここら辺は、やっぱ難しいね。

 星鈴さんが宅急便に並びに行ったのを、しばらく待つ。今の時期の16時台はまだまだ日が高く&強く、西日がジリジリと体に突き刺さる。しばしのジリジリを経た後、戻ってきた星鈴さんと再合流。打ち上げに出発――といっても、メンバーは星鈴さんとハチの他には、関東メンバーが1名だけという、何とも侘しいシンプルな編成。新橋の居酒屋へと出発となった。

 ――といっても、今の時間帯に駅に行ったって、どーせ大手並に混んでるのは目に見えてる。そこで、ビッグサイト敷地内の飲食店で、まずは軽く食べることに。その後、改めて出発。

 りんかい線に乗り、出発。薄暮の夕日に照らされる臨海副都心を、ぼんやりと眺めているハチ。おや?まとまった人数の乗客が入ってきた様……ゑ?

 え?!!!!!!!!!

 ちょ…ちょっとまった!と言う間も無く、車内に人の津波が押し寄せ、ハチらが電車の端に追いやられしまう。追いやられるってか、感覚としては、人波によって、向こうのドアに押し潰される。と言った方が正しい。こ…これが大都市の通勤ラッシュという奴かァァァァ!!!

 これがまた強烈で、福岡ではまず考えられない程、電車に人が詰め込まれる。朝のラッシュ時の西鉄バスに比べたら、アレは、大航海時代の奴隷運搬船かアウシュヴィッツ行きユダヤ人輸送列車かって感じ。

 場数を踏んでる星鈴さんや、関東メンバーは平気そうだった。が、未経験な上に、カートを引いてて、只でさえ身動きができないハチには地獄。身動きが取れないなんて生易しいモノじゃない。まるでコミケの大手サークルに翻弄され、更に人に押され、体が動いては困る方向に動いてしまう。

 分かりやすい言い回しをするなら、アシュラマンに阿修羅バスターをかけられた上に、サンシャインマンにサンシャインプレスで潰された、ってところか。

 そういえば今日は、昨日延期になった、大華火大会があるんだったよな。それか。なワケで、半死半生で山手線に乗り換えて、ようやく大江戸肉体地獄から解放される。

 新橋に到着し、有名居酒屋チェーン店にて、ようやく打ち上げ開始。とはいえ、ハチは飛行機の時間があるので、最初のジョッキ1杯でお別れ。ボロボロになっていたハチには、その1杯のビールが体に心地よく染込み、それなりに満足して店を出た。

 浜松町で再び東京モノレールに乗り、羽田へ。ハチが乗るスカイマーク機が、行き同様に遅れてるらしい。もうどうでもいい。

 搭乗口近くのロビーで、ぐったり〜としてるハチ。職員の人が「ただ今、窓からは、大華火大会の花火がご覧いただけます。ご覧になりながら、今しばらくお待ちください云々」と。窓を見ると、小さいが、花火が見えた。距離を考えると、相当巨大な物件なんだろう。ま、ヘロヘロに衰弱しきったハチには、ぶっちゃけどうでもいいが。

 ここらへんになると、流石に記憶が曖昧になってくる。詳しい時間は忘れたが、行き同様の、味気ない飛行機に再び乗って、福岡に。

 機内ではほとんど寝てたので、特記する内容は無い。強いて挙げるのなら、飲みかけのペットボトルを、飛行中の機内に放置しておくと、気圧の影響か何かで、ボトルが凹んでしまい、キャップを開ける時に、バシュッ!と大きな音が出ることがあるのを発見。最終便なんかで、周囲が寝てるような状況ではかなり気になるぐらいの音が出るんで、気をつけるが吉。

 福岡に着いた後は、真っ直ぐ帰っておしまい。今回の遠征は、とにかく疲れた。何は無くとも真っ先に、疲れた記憶が脳裏に浮かぶ、そういう2日間だった。欲張って多めに本を持っていったとか、りんかい線地獄変とか、単にオヤジ衰弱化したとか、要因がある。

 でも、スカイマーク機での移動が、従来の他社の飛行機よりも、明らかに疲れるのが大きいように、ハチは思ったワケだ、うん。やっぱ、帰りの飛行機で温かいコーヒーを1杯飲むか否かで、疲労の回復度が大きく違うよ。来年は、ちょっと高くついても、他社の飛行機にしようと思う。


8月14日


 世間ではよく行われる、イベントでの戦利品の展開を、ハチもやってみた。

侘しい……?

 いや、これだけですよ?昨日、ハチが買った本(一部頂き物アリ)は、本当にこれだけ。使った弾銭は、6千円ぐらい。

 有明の真砂は尽きぬども、コミケで万単位を使う漢の種は尽きまじ、という今日この頃。ちょっとどころか、かなり少ないとは思うんだが――いいんだよ、これで。ハチはこれでも十分に満足できてるし。

 疲れた。まだ疲れが取れない。トレジャーまで日にちはある事だし、戦利品をゆっくり読みながら、疲れを取るか。ところで、やれ万単位だのダンボール単位だので本を買う猛者って、買った本を後でちゃんと読んでるんだろうか?他人事ながら、気になるところである。


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