ベトコンはサーフィンしないだろ
ビル・キルゴア中佐

職業/軍人
所属/米陸軍 第一騎兵師団の指揮官
得意技/ワーグナーをBGMにした機銃掃射、12時間連続空爆
趣味/サーフィン
好きな食べもの/Tボーンステーキ


仕事中
サクッと爆撃とか終わらせて、
早くサーフィンに行くぞ。いいな!



ー、オレの大好きな映画「地獄の黙示録」、何が好きって、バカしか出てこないからですが、中でもオレらの心を鷲掴みにして放さないバカ、それが米陸軍第一空挺部隊の猛者、ビル・キルゴア中佐だ。映画が2時間30分だかある中で、この人15分ぐらいしか出てこないが、ご記憶にない方はアレですな、「ワルキューレの騎行」に乗ってベトコンの基地がある農村をバリバリバリバリ機銃掃射してた御大といえばすぐに思い出されるんではないか。「地獄の黙示録」と言ったらコレというぐらいの、名場面中の名場面ですが。まァ、あとはウィラード大尉(マーティン・シーン)が悶々としたりカーツ大佐(マーロン・ブランドー)がダラダラしたりとか、そんなダウナー系が大部分だから、そういう中にあって必要以上にアッパー系のこの方の勢いがね、非常に重要なわけです。 でもねえ、オレは思うんだが、たぶん「地獄の黙示録」ファンの8割5分はキルゴアファンですよ。本当かよ!いやでも、キルゴア中佐の場面だけは難しいこと考えなくていいわけだから。あとの部分はいろいろ考えなきゃいけないじゃないですか。テーマとか。 そういうことが全然必要ないですから。
そんな、ありていに言えば頭悪くても震えることのできる場面。
あるいは頭悪い者以外は震えない場面。
真面目な映画ファンが、大きな声で好きと言えない場面。
そういう場面を仕切っているのがこの、キルゴア中佐だと。
実際問題、名前からしてキルおよびゴアですから。ゴアといってもインドじゃないですよ。血糊。ひでえ名前だなあ!




それではご堪能いただこうじゃないの
<キルゴア中佐の腰に来る大活躍シリーズ>

●ベトコンの死体にトランプのカードを添える「ありゃ何です?」「死のカードだ。誰がやったか知らせるのさ」

●ウィラード大尉のことは全然相手にしない割に、同行の兵士ランスが有名なサーファーと知るや「君に会えるなんて光栄だなあランス!わしゃ君の長年のファンでねえ」非常に調子がいい
しかもその直前まで、腹を押さえて死にかけているベトコンの面倒を見るという、財布をなくして飲み屋で立ち往生していた見ず知らずの会社員に金を貸してやり、ついでにタクシー代もおごったという天龍源一郎ばりの男気を見せているにも関わらず(「こいつはハラワタが出るまで闘ったんだ!敵も味方もあるか!」)、 ランス(プロサーファー)の名前を聞くや、そんなベトコンのことは2秒で忘れるから困っちゃう。

●ウィラード大尉「ナン川への進入ルートはこれです。侵入地点はビン・ドリン・ドップ」
キルゴア中佐「ビン・ドリン・ドップ?あそこはベトコンに押さえられてるから危険だ。却下だ!」
キルゴアの舎弟「でも中佐、あそこには6フィートのスゲエ波が来ますよ」
キルゴア中佐「なんでそれを先に言わん!ビン・ドリン・ドップを攻めるぞ!」
…やっぱり男はこれぐらい思い切りが良くないといけないんでしょうか。

●それからはもうサーフィンのことしか頭にないキルゴア軍団。でも、ちょっと男気に欠ける部下が「でも中佐、あそこはベトコンの拠点ですよ。ヤバすぎますよ」とか、いかにも場を盛り下げることを言うと
キルゴア大佐「ベトコンはサーフィンしないだろ!」
まったくそういう問題じゃないんだが、みんな納得した。
("Charlie Don't surf !"って言ってますが、そんなクラッシュの唄がありましたね。ここから来たのかな)

●そんなわけで攻撃の時が来た。朝日をバックにヘリコの群れがガンガン離陸。まさに西部警察ですよ。しかも進軍ラッパまで吹いてますよ(下図参照)。ヤンキーか?まあヤンキーだな。アメリカ人だからな。
キルゴア中佐「朝日を背負って低空で侵入、目標から1マイルのところでミュージックスタートだ。ワーグナーをかけたれ!やつらを心底ビビらしたるんじゃ!爆音で行け!」基本的には街宣車と同じコンセプトです。





●で、お馴染みの「ワルキューレの騎行」に乗った攻撃が開始となるわけですな。「ワルキューレの騎行」といえば、藤原組長も入場テーマに使ってますね。さすがテロリスト。 あと、さすが前座の鬼。藤原組長といえば、こないだ「週プロ」の選手名鑑で、今年の抱負を聞かれて「オッパイは大きいほうがいい。あっ、これは娼婦だ」と答えてました。
で何だっけ?攻撃開始です。ガトリングガンが火を噴きます。ロケット砲も撃ちまくります。大暴れですな。キルゴア中佐は実に楽しそう。僚機がベトコンの砲台を撃破すると「いいねえレッドチーム!ビールを一ケース奢るぞ!」キルゴア自身もまだまだ現役なので、機関銃を積んだトラックにミサイルを撃ち込んで一撃で決めた!
そしたら舎弟が「ナイスショット、ビル!」ゴルフかよ。

●そうこうするうちに、ヘリコに照明弾を撃ちこまれてしまった。クルーはみんなビビるが、キルゴア中佐はその照明弾を手で外に投げ捨てるのであった。手で。「ただの照明弾だ。落ち着け!大丈夫か?ランスも大丈夫か?」いい上司だなあ

●攻撃は一段落したんだが、どうもまだベトコンがあっちこっちにいる様子。
キルゴア中佐「めんどくせえから爆撃を要請しろ!」じゃあ何だったのよ。さっきまでの大暴れは!

●ドッカンドッカン爆撃が続く中、舎弟たちは楽しくサーフィンだ。つうかキルゴア中佐に強要されてるんだが。お父さんも上半身裸になって、ウィラード大尉に「この匂いがわかるか!ナパームの匂いだ!」

●「朝に嗅ぐナパームの匂いは最高だ!むかし12時間ブッ続けで丘を爆撃してなあ、その跡を散歩したが死体一つ転がっとらんかった!そこら中にガソリンの匂いがした…勝利の匂いが!
もう何を言ってるんだかサッパリ判りませんが
そのあと「この戦争も、いつかは終わる」。決まった!


いい天気だなあ。絶好の爆撃日和だ!

まァそういう狂ったお父さんが出てくる脚本を、「ランボー」や「若き勇者たち」の脚本とか監督でおなじみのジョン・ミリアスが書いてますが、ジョン・ミリアスといえばもうバリバリ右翼だから。デブだし。この人がまた、ベトナムに行きたくて行きたくて仕方ないのに喘息のせいで徴兵検査に撥ねられてしまった。でもこの人は右翼だからお国のために戦いたくて戦いたくて。
そういう思いがこの、キルゴア大佐に投影されてますなあ。「地獄の黙示録」自体はご存じの通り、非常に形而上学的な、というかまァ、ズバリ言ってよくわかんねえ映画になってますが、そうなってしまったのはひとえに監督フランシス・コッポラが考えすぎちゃったせい。あとオレがバカなせい。でもまァ、最初に脚本を書いたジョン・ミリアス(右翼)的には、たぶんもっと痛快まるかじりな作品を夢想してたに違いねえと。
そういうわけで、「地獄の黙示録」の真の主役はこの、ビル・キルゴア中佐だ。
と、いま決まりました。
キルゴア中佐を主役にして撮りなおしたまえ。はやく。


幸せだなァ


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