NOSTALGIA PIANO STORIES III 解説
ノスタルジアの色を持つ音楽・・・

Nostalsia
秋の早朝
晴れた空
どうして秋の空は
こんなに澄んで
高く深く広がるんだろう
紅の葉がゆれる
葉は
枯れても美しい色で
空をいっそう青くする
そしてざわめく
ざわめきに埋もれそうになりながら
凛とした朝の空気の中に
光のつぶがゆれる
そして
光も交わってざわめく

ああ空よ!

私もここで紅の葉になって
光のつぶになって
ざわめきたいのです
こんなにも深い空の底で
枯れてもなお
空を青くする私がいるということを
語りつづけたいのです
いつまでも.....
いつまでも.....

これはアルバムを買って何も見ずに
聞いてぱっと思い浮かんだ言葉から
展開していきました。
多分聞いたときに窓から秋の空が
見えたからなんだろうと思います。

Written by アリエス

作曲 編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
OrchestraORCHESTRA CITTA DI FERRARA
ConductorRENATO SERIO
HarmonicaNOBUO YAGI
TIME3分33秒

旅情
霧雨の降る冷たい朝
窓をあけると
銀灰色に輝く曇り空
クレムリン宮殿のような建物
広場に人はまばら
ずっと昔に買ったLPレコードのジャケット
「悲愴」というそのタイトルが
すぐ思い出せなかった

冷たかった霧雨が上がって
また一日が目の前を通り過ぎる
部屋に閉じこもって
頬杖をついて
人が思うほど落ち込んでもいなくて
それでも手紙を待っている

音楽は昔も今も
人から人へ移り住んでいくものかもしれない
ゆっくりと旅をする目に見えない
旅人なのかもしれない
それはとても哀しいものなのかもしれない

Written by アリエス

作曲 編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
OrchestraORCHESTRA CITTA DI FERRARA
ConductorRENATO SERIO
AccordionFUMIHIKO KAZAMA
GuitarCHUEI YOSHIKAWA
TIME3分48秒

Cinema Nostalsia
今は亡き淀川長治さんのための鎮魂歌(レクイエム)
としか私には思うことができないのがこの曲

映画が終わって長いタイトルロールの間になっている曲
お客はみな帰ってしまって、誰もいなくなっても
ただ一人きりすわっている淀川さん
何を想っているのだろう…

ベートーベンはその人生の最後に
「諸君!喜劇は終わった」という言葉を残している
淀川さんはきっと
「諸君!(僕の)映画は終わった」といっていたにちがいない。

ドボルザークの響きがする・・・
テーマの後半は交響曲第8番3楽章を想わせる
重厚さとみずみずしさ
ピアノの音が氷上をすべるバレリーナのように進んでいく

突然、稲妻が走り荒天へとひるがえる
人生の波とう、苦しみや悲しみ、怒り、そして運命

時代が変わる瞬間を見過ごして
いつのまにか今があたりまえになっている
しかし一刻一刻、時は確実に過ぎていく
今でさえ・・・

やがてクライマックス、人生の終わりがさしかかる

右手のトレモロの中にスポットライトを浴びた淀川さんが 浮かぶ

テーマは最後にもどってくる
サヨナラ
サヨナラ
どうか安らかに
安らかに・・・
ト短調で始まった曲はト長調で安らかな眠りにつく
-THE END-

Written by アリエス

作曲 編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
OrchestraORCHESTRA CITTA DI FERRARA
ConductorRENATO SERIO
TIME6分10秒

il porco rosso
夏にしては陽射のやさしい昼下がり
白く 明るいプールサイド
「卒業」のダスティン・ホフマンが出てくるような

パラソルの下のテーブルには
ハワイアンブルーのカクテルグラス
リクライニングチェア

白いワンピースの彼女
髪は短くカールしている
帽子の中の瞳は
どこか遠い過去を見ている

追憶は昼を夜にかえていく

「ひとりで歩いてくる」
彼は夜の街へ出た
まわりの喧騒から逃避するように
体に風を感じたい、ただそれだけで
歩いていた

夜の都会にもまどろみがあった
彼の行く先はトランペットだけが知っている
彼女のいた店にはきっと行かない
でも彼女がそこで待っていることは
よくわかっている
遠く浮かび上がる街の明かり

そして彼は
闇の中にまぎれて
見えなくなってしまう
昼間の残像を
目にやきつけながら

Written by アリエス

作曲 編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
OrchestraORCHESTRA CITTA DI FERRARA
ConductorRENATO SERIO
DrumsHIDEO YAMAKI
W. BassKUNIMITSU INABA
Piano, RhodesMASAHIRO SAYAMA
Flugel HornTOMONAO HARA
TIME4分53秒

Casanova
カサノヴァとはイタリアの冒険家、文学家(1725〜1798) だそうです。 多分、イタリアの博物館には偉大な人物として、まつられている のでしょう。

8分音符のきざみの上に乗ってくる第1テーマは、「トッカータ」 だといっていいと思います。 トッカータとは「触れる」という意味の音楽用語です。 有名なJ.Sバッハの「トッカータとフーガ ニ短調」のイントロの 部分です。 チラリーーン!と歌ってみてください。 はなからぎゅうにゅうー!と歌いたくなりませんか?ならない!失礼しました! 「鼻から牛乳」は嘉門達夫さんがバッハの曲をパロディに したものです。 鼻から牛乳まで歌ってしまいますと、バッハ様には申し訳ないけど トッカータとフーガになるわけなんです。

この動機から始まったメロディは8分音符のきざみに乗って 大いなる旅に出ます。
ズンズンズンズン・・・

ずっとずっと歩き続け、立ち止まってふと空を見上げたら
糸の切れた凧が 雲一つない青空に
らせんを描きながらすいこまれていく

きざみが姿を消し、曲想がなめらかになる所です 「トッカータ」のテーマは変わらないのに全く対照的に 流麗な空気がただよってきます。 左手の音型の変化とレガート奏法によってつくりだされます。

さて、ゆっくり腰をおろして休みます。
のどかな畑、そのむこうに海
そしてこれからどこへ行くのか・・・

これはゆっくりとしたもう一つのテーマ8小節間のことで、 ブリッジ(つなぎ)になっています。

小さくなったあの凧が、また風に流されていくのが見えます
私はあの凧と同じ、風が行く先を決める
やがて凧が見えなくなると私は我にかえったように
終わりのない旅へと立ちあがり、ひたすら歩く・・・
「トッカータ」のように・・・

というように、大きく分けると2部形式といえるかな、と思います。 「トッカータ」のテーマをA、ブリッジをBと考えれば。 私はこの曲を「久石のトッカータ」と呼んでいます。

Written by アリエス

作曲 編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
TIME4分19秒

太陽がいっぱい
真夏の果実たち
それは橙色と檸檬色の饗宴
あなたは色落ちしたGパンに
白い開襟シャツ
緑のバンダナまいて
足早にやってくる

街角には
カーニバルのラテンリズムが
鳴り続く

アコーデオン弾きの陽気なおじさんも
酔っぱらって
声をかけてくる

Dance,dance,dance in take Five
ひたすらセピア色の中で
ひとかじりしたライムを手渡され
涙がこぼれそうなあの夏

まぶしくてすっぱい太陽の味
そして切ない恋の味

Written by アリエス

作曲NINO ROTA
編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
DrumsHIDEO YAMAKI
W. BassKUNIMITSU INABA
GuitarTOSHIAKI USUI
ViolinHIROYUKI KOIKE
CelloTOMIO YAJIMA
BandoneonRYOTA KOMATSU
MandolinHIDEKI WACHI
CongaMOTOYA HAMAGUCHI
TIME3分26秒

HANA-BI
曇り空の海岸
そこには2人の姿があった
ブラームスの第3シンフォニーの
あのワルツ
ころばずに踊れるだろうか

4拍子になって弦はピチカート
管はスタカート
砂の上を
小さな鳥たちが無邪気に歩き回る
潮騒がきこえる
なぜかって、海岸に耳を押しつけてるから
もう起き上がることは二度とないから

大きな波が岩に砕け散る
ドドーン!パシャーン!
ピアノは低音部に向かって
波をつくる

ブラームスのエスプレッシボ
ここにはそれしか感じるものはない

Written by アリエス

作曲 編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
OrchestraORCHESTRA CITTA DI FERRARA
ConductorRENATO SERIO
TIME3分37秒

Nocturne
これはイントロがショパンです
右手の音、最初とその次。
音の間隔はちょっと違うけれど
この雰囲気、今にもショパンのNocturne
になりそうです。
淡々とした低音に浮かぶテーマ
久石さんのトレードマーク
「ティラリラン」三連符の装飾音
私は「久石ターン」と呼んでいます

暗闇の中に白い一筋の光
舞台には白鳥の衣装をつけた
バレリーナが踊っている
青く透きとおったその肌は
湖に映る月の反射を受けている

やがてどこからか王子があらわれ
両手をとりあってステップをふむ
とても楽しそう
ドビュッシー「月の光」中間部の雰囲気
白鳥の踊りは王子とともに
静かにくりひろげられる
一人のときより一層きらめいて
生き生きと
かれんに
そして歓びにみちあふれて
夜のしじまの饒舌さのように
艶かしさまでもふりまいて

やがて黒鳥の悪魔がおとずれ
白鳥から王子を奪い去っていく
月の光の下で
ベートーベンの厳かな響き
王子をなくした白鳥は
悲しみの嵐にうちひしがれ
苦しみもだえる

やがて心の嵐が過ぎ去ると
いなくなった王子を想いながら
再び一人で踊りをつづけます
天をあおいで地にひれ伏し
白鳥のバレエはおわります

この曲は夜曲ですが
ずっと月が出ているように
感じます

Written by アリエス

作曲 編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
TIME4分12秒

バビロンの丘
これは絶対カンツォーネだ!!
ぜひイタリア語の歌詞をつけて
ホセ・カレーラスかプラシド・ドミンゴに歌ってもらうべきだ!
ほら歌ってるところを想像してごらんよ!
「サンタ・ルチア」とか「帰れソレントへ」とかみたいにさ!
この陶陶としたピアノ伴奏の上にテノールがのっかると
ぴったり来ると思いませんか?!
拍子を思いっきりはずしながら歌うんです
テンポ・ルバートといって、早さをのばしたり縮めたり
自由に変化させるんです。
拍子つまり、リズムはあるのだけれど
酔っぱらって千鳥足で歩くと同じ速さで歩けないといった感じを
意図的にやるんです。しらふで酔っぱらったふりするんですね。
遅れ気味に歌い始めたり、ゆっくりした分だけ はしょったりして
カンツォーネだから・・・イタリアの演歌と言えるかもね
久石さん、本当はウタにしたかったんじゃないかなー
とってもウタに聞こえます

後日談
モトはサン・サーンスの曲だったのです。見落としていました。
聞いたことないのでオリジナルだと思い込んでいました。
最初からサン・サーンスだと思って聞かないところが
この文の特徴かも知れません。(苦笑)

Written by アリエス

作曲C.SAINT-SAENS
編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
OrchestraORCHESTRA CITTA DI FERRARA
ConductorRENATO SERIO
TIME4分00秒

la pioggia
pioggiaとは「雨」というイタリア語
はじめはしとしと降り続く美しい雨・・・そしてテーマ
これは「ベニスに死す」に使われた
マーラーの交響曲5番4楽章アダージェットが重なってきます
久石さんがかつて買ったマーラーの5番のスコア・・・
再びこれに目をとおしたのでしょうか?

このマーラー的なテーマに酔いしれていると
「薄幸の女」を思わせる第2テーマがでてきます

肺結核にかかってサナトリウムに入れられた若い娘
年は18才ぐらいか・・・

その娘には恋人がいて、病気だとわかった時には
既に身ごもっていた・・・
許されぬ恋だとわかっていたが、いつも彼女の傍には
母親がいて、影ながら支えになっていた・・・

とても不安定な幸せという感じがするんです
幸せなんだけれども今にもこわれそうで・・・
しかし誰かが守ってくれている
何か小さな安心感がそこで灯をともす

そんな形で曲が終わります

Written by アリエス

作曲 編曲 演奏久石 譲
Piano久石 譲
OrchestraORCHESTRA CITTA DI FERRARA
ConductorRENATO SERIO
TIME5分15秒

Written by アリエス at 2000.4.27 最終改訂2000.6.2
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