特別資料 刑法の特徴とその対策

1. 刑法の概要と勉強の指針

○刑法は要件論。
結果無価値・行為無価値、形式的犯罪論・実質的犯罪論といった面が重視される傾向
しかし、所詮刑法は要件論に過ぎない。
要件(構成要件+違法+有責)を満たせば犯罪成立。要件を欠けば犯罪不成立。それだけの話。
学説の対立や細かい理論も、要件解釈のためのものであることを意識すべき
(要件解釈にあまり関係ない、結論に差が生じない学説の対立には深入りしない)
→学説の対立が、どの要件についてのものであるかを、常に意識して学習する。
答案でも要件検討の流れに沿って論点を展開すればよい。
「まず論点ありきではなく、まず要件ありき」

○ 犯罪成立への要件の過程(大谷説に立っています。自説で作ってみるといいでしょう。)
(前提)行為であること(=必ず罪責は行為ごとに検討すること)
1. 構成要件該当性が認められること
「主体」
「客体」「(実行)行為」
(各論の構成要件、論点はこの「行為」の要件と「客体」の要件に関するものが多くを占める)
「結果」「因果関係」(未遂犯では不要。「実行の着手」の要件。)
共犯の場合は「教唆」「幇助」「共同」という修正された構成要件が必要
主観的構成要件要素としての「故意」または「過失」。(「目的」)
2.違法性阻却事由のないこと
(「正当防衛」「緊急避難」など)
3.責任阻却事由のないこと
(「責任能力」「期待可能性」など)
→犯罪成立
4.減軽事由の有無の検討
「中止犯」「過剰防衛」
5.罪数の検討

○理論的対立が強い科目
(特に総論の条文が非常に整理されておらず、体系的に理解するためには学説の理解が不可欠であるため)
 まず、自説の特徴、根拠、帰結を押さえる(なるべく論理の流れを納得しつつ)。
 他説を学ぶのはそれから。択一過去問等を素材に、自説との根拠の違い、帰結の違いを中心として、漠然と押さえていけばよい。
(大谷説の特徴=法益保護不可欠の原則を貫きつつ社会的相当性にかなり配慮
  故意を構成要件的事実の認識に限ると非常に限定、その結果、誤想防衛、法律の錯誤の論点が独特)
  一般人に対する行為規範である点を重視
  前田説に比べて厳格、形式的な解釈(構成要件段階で実質的判断を排除)

予備校本は他説にも大きく配慮、ただその理由は他説を採る人のため。
決して全部の学説をマスターしろといっているのではない。
なお、自説が理解できるのであれば、素材は基本書でも予備校本でもどちらでもいいと思われる。

○ 刑法各論で最も重要なのは保護法益。
民法等でいう「趣旨」とほぼ同義(法益保護のために犯罪はあるので)
=保護法益から論じる、考えるのが最も説得的であるから(学習の面でも、答案作成の面でも)。
 刑法各論は保護法益を最重要視すべき。財産犯であっても、犯罪ごとに微妙に違う。

2. 答案の書き方

○とにかく、要件に基づく検討をすればよい。それに尽きる。
刑法総論は難問=何を聞いているかといえば、複雑な事案での行為者の罪責の確定。
自分で判決文を書くつもりで、行為者、行為ごとに分けて罪責を確定させていけばいい。刑法各論も同様(論点の記述に偏らない)。
具体的にいえば、
 本問では因果関係の存在が不明である。そこで、因果関係の判断基準が問題となる。
よりも、
 甲はAという「人」を「殺」す行為をなし、A死亡の結果も発生している。では行為と結果の間の因果関係は存在するか。因果関係の判断基準が問題となる。
 という書き方のほうが印象がいい。

このような書き方をしていると、論点を論じるスペースがなくなる。
それでよい。
本試験は要件に基づく行為者の罪責の検討が聞かれているのであって、学説の対立を聞くものではないから。
(この点の認識不足が、刑法を必要以上に難しいものにさせている一番の原因と思われる)。
A答案集も論証はコンパクトなものが多い。
大体10行で多いほう。20行論証するのはながすぎ。
「反対説に配慮しつつ」と指定のない限り、反対説に配慮する必要もない。
論点に点が振られているのでは、と思うかもしれないが、意外なほど論点の記述、量は評価に反映されない。

 このことを意識しておけば、勉強の内容もおのずと変わってくる。
学説の詳しい理解よりも(答案に書けない)、むしろどの要件の話について、なぜ問題となっているのか、という問題の所在(分かっていないと要件に基づく答案が書けない)を重視すべきでしょう。

○ 難問では行為ごとに分析する姿勢を持つ。
難しいと思う問題でも、一つ一つの要件を満たすか、丁寧に検討していけばいい。
混乱も防げ、分かりやすい答案につながる。
 刑法でよく聞く「分からんかったけど思ったよりも評価がよかった」という感想は、分からない場合は論点をたくさん書かずに、行為ごとに要件に基づく検討ができているから。

○ 共犯の場合は、必ず正犯から先に検討する。
なぜかといえば、正犯の実行行為の存在が共犯成立の要件になるから。
また、共同正犯の場合、「Aの罪責」「Bの罪責」と論じるよりも、「殺人行為に対するABの罪責」「その後の財物取得行為についてのABの罪責」と書くほうが、書きやすい場合もある。(Aは成立、では共謀していたに過ぎないBにも成立するか、という流れができるから)

○ 学説の違いによって落ちることはない(主観的刑法論は別)
学説の取捨選択に迷うことなく、自説を論じれば足りる。
ただし、少数説の場合、採点者に分かってもらえるように分かりやすく表現する必要はある。
→分かりやすく表現できる自信がない論点の場合は他説を採るのが無難(たとえば大谷刑法各論よりも判例)。
 また、前田説を分かりやすく説明するのは難しいかもしれない(そもそも通説と発想自体異なるような気もする)。今から学習される方には行為無価値がお勧め。

○ 最高裁、下級審の最新判例を素材とした問題が多い
=問題の所在は押さえておく。問題の所在を把握していなければ、古い基本書のみでは立ち往生する危険あり。
 判旨を書くことは要求されていない点に注意(理論的根拠がはっきりしない判例が多いので)。

○ 予想答練がとにかくよくあたる。
T予備校は1・2問とも的中
=情報収集が必要なのに加え、自滅を防ぐことが必要。
当該論点については知識が増える、たくさん論じたくなる
しかし、そこを論じすぎてしまってバランスを崩したり、混乱して分かりにくくなったりしたら逆効果(H11@)
 やまがあたったときほど、慎重に要件に基づく答案構成を行うべき。欲張っていろんな知識を詰め込まない。うまく表現できないおそれが高いから。
 結構やまがあたった年の再現A答案も、論点はあっさり論じてあるのが多い。
 やまがあたっても、3分の1はまともに書けない。そう思って論じるのがよい。

3. 択一の勉強との兼ね合い

 刑法の択一は択一プロパーの知識は出題されないと思ってよい。(出題されたら現場思考を試す問題に違いないと思われる)
→従来いわれていた択一プロパーの勉強は不要
→択一と論文の勉強が重なりやすい。
択一が苦手な人は、択一中心でもいいと思われる(他の科目も気になると思うので)。
 ただ、刑法の答案の書き方には要件に沿った検討という点で独特のコツがあり、できの悪い予備校の解答例(論証中心。そのほうが作りやすいから)とはまた違ったテクニックが要求される。
→答案のイメージはこの時期に作っておく必要がある。
その作業だけでも、時間を取って行うべき。
 具体的な方法は優秀答案を読む、過去問のA答案を読む、実際に答案を書いてみてチェックするなど、いろいろ考えられる。

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