暁の車/Fiction Junction featuring YUUKA
☆担当者コメント
まず「Fiction Junction featuring YUUKA」とは?この「Fiction Junction」というのは、このコーナーでも紹介されている梶浦由記さんのソロプロジェクトの名義です。でも何故こんな長い名義を使うんだ、と思う方もいるでしょう。その理由としては前にこのコーナーで梶浦由記さんの曲が紹介された時、担当者のTAX FREEさんも悩んでいらっしゃったように、歌い手は梶浦さん本人じゃないんですよね。ただ梶浦さんの方から、イメージの合う歌い手の方にアプローチをかけて曲を歌ってもらった場合、その歌い手の名前で出すのもなんか違う気がする…。そんな場合に梶浦さんは「Fiction Junction」の名義を使うわけです。ただこのプロジェクトはデビューしてから半年ほどしか経っていません(2003年9月現在)。だからまだまだこの先どんな展開をしていくのか分からないのも、面白い所です。
ではヴォーカルの方についても。もちろんこのYUUKAさんがヴォーカルな訳ですが、この方はミュージカル等で歌っていらっしゃる南里侑香さんのことです。最近ではゲームMemories Off 2ndでの相摩希役等、声優にもチャレンジなされてるようです。 その両者がタッグを組んで世に送り出す「Fiction Junction」のファーストプロジェクトが、この「暁の車」なのです。
前置きが長くなりましたが、この曲は「機動戦士ガンダムSEED」という番組のカガリ・ユラ・アスハというキャラのイメージソングとしての挿入歌でした。僕もその放送を見てましたが、この曲が初めてかかったとき、ゾクゾク来るものがありました。それが、低音を生かした重厚なリズム、南里侑香さんの奥深い歌声でした。
最初はゆっくりと歌声を中心に曲を組み立て、逝ってしまった人を悼む挽歌のような歌詞――
風さそう木陰に俯せて泣いてる
見も知らぬ私を私が見ていた
逝く人の調べを奏でるギターラ
来ぬ人の嘆きに星は落ちて
行かないで、どんなに叫んでも
オレンジの花びら静かに揺れるだけ
やわらかな額に残された
手のひらの記憶遥か
とこしえのさよならつま弾く
――とも相携えて、じっくり聴かせるバラードのような曲だと聞き手は思います。しかし1分半ほど経った所での一瞬の無音状態、そして即座に沸き起こる躍動感に満ち溢れたメロディー、ここで聞き手は、先ほどの印象を完全に破壊されます。またここでの歌詞――
優しい手にすがる子供の心を
燃えさかる車輪は振り払い進む
逝く人の嘆きを奏でてギターラ
胸の糸激しく掻き鳴らして
――が先程の穏やかな歌詞とは一変し、暴力的、無常なものになりショックを与えます。ここでの「車輪(くるま)」とは逝ってしまった人のことを指すのでしょう。それに残された人々の憤り、絶望等が歌い手の迫力のある歌声に乗せられて坦々と描かれています。ギターを激しくかき鳴らし、それを何とかしようとしますが、そのアクティヴな負の感情が去った後には、虚しさを伴う自発的な負の感情が描かれる訳で…――
悲しみに染まらない白さで
オレンジの花びら揺れてた夏の影に
やわらかな額を失くしても
赤く染めた砂遥か越えて行く
さよならのリズム
――ここではメロディーも切なげになり、憤り、絶望が去り、少し落ち着いた時に沸き起こる感情―悲しみ、虚脱感―をテーマにしています。しかしその感情を深めていくわけではありません。「影」という単語を用いてマイナスのイメージを残しつつも、この部分のイメージとしてはその負の感情を「超えていく」ということにあります。それを受けて超えて行った後どうなるか――
思い出を焼き尽くして進む大地に
懐かしく芽吹いて行くものがあるの
――当然、そこには何かが残るはずです。懐かしく芽吹いていくもの…この抽象的な詩の中では分かりやすい部分だと思います。「懐かしく」の部分を強調して歌われているので、さらにこの詩は引き立ち、暗い感情から立ち直るような方向に向かってきた詩はここで希望までをも与えています。また曲を一種の物語に例えるなら、ここで本編は終わりです。そして30秒ほどの間奏&転調をはさみ、物語はエピローグへ…――
暁の車を見送って
オレンジの花びら揺れてる今も何処か
いつか見た安らかな夜明けを
もう一度手にするまで
消さないで灯火
車輪は廻るよ
――ここで最後の締めです。逝ってしまった人を見送れるようにまでなり、先程は悲しみを強調するために使われた「オレンジの花びら」が穏やかに揺れている…。ここまで曲を聴いてきた方ならその情景が思い浮かぶことでしょう。ただまだ安らかな夜明けは得られませんでした。それを再度手に入れるために先程手に入れた希望という灯火を消さない。そしてここでの「車輪(くるま)」は後に残された者達の人生を指すのでしょうか。
ただの挽歌のようなイントロ、そこから絶望の底まで突き落とした上で、最後には希望をもって締めくくる…こんな曲が今までに有ったでしょうか?梶浦由記独特の神秘的かつ民俗音楽的なメロディーとも相まって、僕の筆舌に尽くしがたい曲になっています。そのためこんなに長々と書いてしまいましたが、まだまだ書き足りない気がします。
でも、こういう書き方は野暮だったかもしれません。歌詞を見ても分かるようにこれはとても抽象的な曲です。それを僕なりに解釈してレビューさせていただきましたが、あくまで僕の主観の上でのものなので、かえって皆様に変な先入観を与えてしまうかもしれません。でも、とりあえず聴いてみてください。その上で詩の意味を考えてみると、新しい音楽観に目覚めるかもしれませんよ…(笑
※作詞:梶浦由記 作曲:梶浦由記 唄:南里侑香
※収録:機動戦士ガンダム SEED スーツCD (4) ミゲル・アイマン×ニコル・アマルフィ
●EKUSU
この曲は矢吹さんの曲とはまた違った感じを受けますね。奈々さんの曲は8以上がなかなかでないのですがこの曲は9以上いけるかもしれません。アルバムバージョンもありますが、個人的にはオリジナル版のほうがいいと思います。奈々さんは路線を変えても十分やっていけると思うのでいろいろな曲を歌っていってほしいですね。