ゲド戦記
観た日 2006/08/06
観た場所 TOHO CINEMAS 市川コルトンプラザ
原題 Tales from Earthsea
監督 宮崎吾郎

お友達に誘われて観にいったんですけど・・・
もうあまりにも酷かったんで、「酷かったです」とだけ書こうかと思ったんですが
思い起こすと納得のいかないことだらけなのでとりあえず真面目に書けるだけ書くことにします。
世の中酷評が多いらしいですが、ええ、そりゃ酷評になるでしょうよって映画でした。
誰でも文句を言いたくなると思う。
原作が好きならジブリが好きならなおさら。
文句を言わない人は自分の中のアニメ映画の可能性の上限が低いんだと思います。
もっとマシに出来ただろうと思って次に期待する人はこの映画をダメだと思うんですよねきっと。

感想。

劇場に観にいくのは時間とチケット代のムダ。
DVD借りて観るのも時間とレンタル代のムダ。
1800円かけて劇場に観にいくなら原作買い揃えて読むか、他の映画観にいったほうがいいんじゃない?
タダ券もらった。とかでも観にいくと時間の無駄ですよ。売ってしまいなさい。
たいていの映画で、あまりおもしろくなかったです。とかちょっと物足りない。とかいう感想を書いている私ですが、
ここまで酷いのは初めて観ました。
金もらったとしても二度と観たくありませんよ。

・声優

公開前から先行して、しょっちゅう批判の対象になっている声優はね、いいんですもう。
ええ、大方の人の予想通りド下手なんです。
ヒロイン棒読み。新人をいきなり主役クラスにあてるものじゃありません。
まともなのはゲド(菅原文太)だけです。
声のキャストに本職の声優を使わないというのが宮崎流らしいですけど、
宮崎駿流なんだか宮崎流なんだかは知らないけど、
もし宮崎「駿」流なんだったら吾郎さんちょっと路線を変えて
本職の声優使ってみても良かったんじゃないの?
作る側が満足するキャスティングじゃなくて
観る側が満足するキャスティングをしてほしいです。
少なくとも主役クラスのキャラクターには本業の声優さんをあててほしいけど、
でもそんなのは実はたいした問題ではないんです。

・ストーリー

映画になってない。
ストーリーがろくに展開してない。
原作と比べるつもりはないですよ。
わかりずらいとかわからないじゃないです。
話が全然進んでないんです。
内容がスカスカ。盛り上がりゼロ。クライマックス唐突すぎ。終わり方も強引。
話が難解なのならそういうものだと諦めますし
判らなければ原作読むとか二回観るとかしてついていきますけど
なにしろなにも展開してないんですよ。

冒頭だけちょっと何か壮大な展開になりそうだと思わせる箇所があったんですが
その風呂敷も広げっぱなしでたたまないで終わるし。
たたまないというか風呂敷どっかに飛んでいっちゃいましたね。
竜や世界の均衡がどうしたって?人間の頭がどうしたって?
壮大な前フリから、せせこましい世界の内輪もめに突入。
15分くらいで飽きた。だらだらです。特に前半は最低。
脚本っていうか構成が悪いと思う。
原作全部を映画化するのは無理なので原作の3巻と4巻から持ってきて
さらにほかの部分とかもつまんできて再構成したらしいですけど
再構成するならもっとマシな再構成をしてほしいです。
「内なる光と影」と「世界の均衡」の関係が『ゲド戦記』の主題らしいですよ。
どこが?
「原作『ゲド戦記』」っていうのやめたらいいのに。

・作画

作画、ひどいです。
綺麗じゃないどころか見るに耐えない。
これスタジオジブリ作品?
もっといい作品作ってなかったっけ?
『ハウルの動く城』もクオリティ低かったけどそれ以下。

特に表情。
もうひとつの人格(?)が出たときのアレンの顔とか苦痛な表情のテルーとか。
あんなに醜く歪める必要は無いんですよ。

「怖い」、「暗い」、「苦しい」を表す表情と、
「醜い」、「気持ち悪い」の差がわかってないんじゃないかしらと思った。
アニメ映画なんだから観客が見て不愉快な作画をする意味が全く無いことを
作画監督がわかってないとしか思えない。
敵を醜くするならともかく主役格のキャラクターですよ?
観た人はわかってくれると思うけど、アレンの顔、あれメインキャラクターの表情じゃないよね。
豹変したときの表情とか口の端に浮かぶ皺とかもうふき出しそうになった。
失笑ものです。っていうか不愉快極まりない。

表情以外でもなんかもう、綺麗汚いだけじゃなくて、工夫もないし独創性もないし、
ここに比較にするのに名前を出すのもはばかられるくらいものすごく出来損ないの
『風の谷のナウシカ』の二番煎じを観てるんじゃないか?と何度も錯覚しました。
服装、建物、景色、生き物に華やかさとか魅力、新鮮さが全然無いです。
過去の宮崎アニメ(といっても私はそんなにたくさん観てないけど)の
デザインとかイメージの使いまわし?みたいなかんじ。

そして映像として最悪なのはグロテスクなこと。
頼むから腕を切り落とすなよ。
バイオレンスアクション映画じゃないんだぞ。
『キル・ビル』かっていうのよ。
何歩か譲ってもですよ、「切り落とされて骨が露出した腕」を描くなよ。
服とかアングルで隠せばいいじゃん。子供が見るんだよこれ。最低。

たとえばディズニーが『ナルニア国物語』で戦いのシーンの緊迫感が多少かけてしまってもなお
実際に剣をふるい敵を切り捨てるとことか、流れる血を見せなかったように
もう少し観客層を考えた演出をしてもらいたいです。

私はレイトショーで行ったので周りに子供は居ませんでしたが
いろんなサイトに載ってるほかに観た人の感想読んでみると、
観ていて泣き出した子供とか、
とちゅうで「まだ終わらないの?」って言ってる子供とかが
けっこう居るらしいです。
それってこの最後のシーンのせいだと思うんですよね。
夏休みでアニメ映画を観にいくの楽しみにしていただろうに。可哀相。

大人はまだいいんですよ。
批評サイトとか自分のサイトに酷評書いたり、
友人に「酷いものだったよー」とか話したりすれば収まるから。
あーばかなものに時間と金かけたよね自分。で終わりですよ。
だけど泣き出した子供は一体どれだけ傷ついたんだろうか?可哀相。ほんとに可哀相。
これ個人的にものすごく許せないんですけど。
責任取れ宮崎監督と鈴木プロデューサー。

・登場人物

キャラクターは絵だけじゃなくて性格もひどい。
全然掘り下げられていない。いや、語られてないだけか。
アレンが何で父親を刺しちゃったのかとか(←これ映画オリジナル
テルーが何で親に捨てられたのかとか
ゲドが何で旅してるのかとか
ゲドに救われたらしい元巫女だったテナーの過去は?とか
クモがどこでどう道を踏み誤ったのかとか
もうちょっと語ってもいいと思うんだけど。
どのキャラクターも魅力に欠けるしね。
あとアレンいろいろ豹変しすぎです。
父親刺しといてなんで唐突に立ち直ってヒーローやってんだよ・・・?
そして、一番悪いことには、主役が誰だかさっぱりわからない。
焦点がぼけすぎ。

・音楽

音楽も場面に合ってない気がしました。
悪くないけど合ってない。
挿入歌のテルーの唄はメロディは悪くないはずなのに
正直聞き飽きてたし、その場面に入るのが唐突過ぎてダメ。
聞き飽きたというのは6月くらいから予告編で繰り返し流れてる上
有線とかでもひたすらしつこく流れてたからかな。
映画の挿入歌を映画観る前に聞き飽きてるというのは失敗なんじゃないかしらと思う。
唐突っていうのは・・・なんで突然歌いだす?
「観客の皆さん、はい、聴いてー」ってかんじですか。
あの挿入歌だけはこの映画の中で唯一そんなに悪くない出来なのに、
安売りしすぎだし使い方を間違ってると思う。
サ行の発音がちょっと気になる以外はメロディも声も綺麗だったのに。
もったいないなぁ。

・メッセージ

ジブリ作品ってどんな作品でも、いやジブリ作品に限らないけど、
映画やドラマって製作者が観客へ伝えたいことを
メッセージとして作品に込めて作っているものだと思ってました。
それを観客がどう解釈するかは観客の力量、
どこまでわからせることができるかは監督の力量だと思うんですけど、
この映画、メッセージとして作品に込めてるんじゃなくて
キャラクターにセリフとして長々としゃべらせるんですよ。
うんざりです。
えらそうなことをキャラクターにべらべらしゃべらせたら内容の重みが半減です。
(しかもそのたびに話の展開が止まるし)
「命を大切にしないやつは大嫌いだ」とかほんと勘弁して欲しい。
聞いていられない。

・最もやってはいけないこと

この映画の最大の間違いであると私が思っていること。
(ネタバレなんで一応消します↓)
父親殺しもどうかと思いますけど、何より悪いのは
よりにもよって「命を大切にしないやつは大嫌いだ」と吐いたヒロインが
ラスボスを「焼き殺した」ことです。それはいくらなんでもまずいんじゃないか?
命が大切って善のほうだけか?
悪人は殺していいのか?
ここは話の流れ的に考えても改心させるか浄化(成仏?)させるとこだろ?
これ原作にはないらしいですよ。
あーあー。

初号試写で宮崎駿氏は映画の途中1時間で離席したらしいです。
そしてコメントを出すまで3日かかったらしいです。
その意味を宮崎吾郎監督は考えたんでしょうかね?
お父さんご苦労様。いや、同罪か?
誰か初号の前に宮崎監督に見せて
止めさせようとか直させようとかいう人は居なかったんでしょうか?

これ、観に行かなくていいです。
というかDVDリリースされようがTVで放送しようが観なくていいです。
時間の無駄です。
それか、あえて観て、スタジオジブリかプロデューサーに抗議してやってもいいかもしれません。
『千と千尋の神隠し』で賞を獲った宮崎駿氏とスタジオジブリの作品のクオリティを観て信頼し
断り続けてきた映画化権をオファーしてきた原作者に対して
素人の監督と素人の声優を使い低クオリティの作品を作ったことを謝るように。って。
原作者に失礼・・・ってか冒涜じゃないこれ?

ちなみにこの映画を観た作者が宮崎監督に言ったという言葉。
「It is not my book. It is your film. It is a good film.」
この言葉を受けた宮崎監督が
「これで安心して日本に帰れる気がします。」なんて書いていたのを読んで私はふき出した。
いやーもう勘弁してよ・・・。
気に入ったものを褒めるのにgoodなんて言葉は使わないよ?

この映画、少なくとも、小学生以下のお子さんを連れて行かないでください。
たいくつでわけわかんなくて長くて観るのが苦痛な怖い映画なんて観せたら可哀相です。

これが世界の50カ国で公開されるのかと思うと
せっかくこれまで評価が高かった日本のアニメの質が堕ちたと思われそうでとてもがっかりです。
なんか感想書くのに内容を思い起こすだけで疲れたわ。


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