片桐さんのお誕生日であり、1999年のセ・リーグの優勝が中日ドラゴンズに決まった日でもあるこの日、 茨城県東海村の核燃料再処理工場施設で事故が発生した。 全くもってあってはならない事故であるが、 私はこの事故についての見解は一般の人とはやや異なる。 原子力工学科出身である人間として、自分の考え方で、 この事故について考えてみたい。 〜用語編〜 まず、いくつか用語の説明をしておこうとおもう。 「燃える」 テレビの報道などで専門家の方がこの単語をよくつかっていました。 この単語はすべて「核分裂」といういみで置き換えてください。 いってみれば、原子力の業界用語です。 ウランは、化学的には”燃えない物質”ですから。 ちなみに、燃えるウラン、燃えないウランとありますが、 今回の事故に関しては、 燃えるウラン=ウラン235、燃えないウラン=ウラン238です。 235や238っていうのは質量数です。 「臨界」 核分裂は、その反応によって生じた中性子が新たにウラン235と 核分裂反応をしていくことで、その反応が連鎖していくというのは、 テレビなどで報道されていると思います。で、この中性子は、 1回の反応で1個以上出てこないと理論上は反応が続きません。 ただ、実際は、ウラン238に吸収されたり、ウラン235自体が、 反応しなかったりするので、1回の反応で約2.4(だったかな?)の 中性子が出てこないと連鎖は続きません。 なので、そういった様々の事象を踏まえた上で1回の反応で 中性子の(反応に効力をもつ)実質の数がどのくらいかというのを 知る必要があり、その1回の反応の中性子の実効数を示す、 ”中性子増倍率”というものがあります。 中性子増倍率は、 1未満なら反応は滞りなく停止します。(臨界未満) 1ならコンスタントに反応が続きます。 1以上であると、反応を制御できなくなり暴走します。(臨界超過) で、ちょっと遠回しになってしまいましたが、 この中性子増倍率が”1のとき”が臨界です。 だから、今回は”事故で臨界”ということですから、 制御というものは全然できていない状態なので、 実質的には”臨界超過”ということになります。 「シーベルト」 放射線に当たったことで、どのくらい人体が影響を受けたか、 という数字。SI単位で”J/kg”で表される単位の特別名称。 どのくらいの放射線量ということだけでなく、どういった種類の 放射線に当たったか(被曝したか)ということも考慮の上で示される。 たとえば、同じ線量の放射線でも中性子はγ線の約10倍の影響力をもつといった、 ことである。(実際の中性子線の影響はその中性子のエネルギーに依存する) 〜放射線防護の原則〜 放射線を防護する上では(外部被曝)、 距離を離す。(distance) (被曝の)時間を短くする。(time) 遮蔽をする。(shield) というのが原則です。 なので、長い時間当たったりすると危険なわけです。 (事故処理の作業は1分交代とか10分交代とかで行っているのはそのため) 〜事故編〜 ようやく本題なのですが、 今回の事故は臨界超過を起こしたわけですが、 それにより、多量の中性子が発生したということです。 ウランは235も238も核分裂を起こしていない状態の 通常の放射性物質という側面からみれば、半減期が長いため 放射線はかなり弱いです。 (半減期は、ウラン235で約7億年、ウラン238で約45億年です) 今回重傷者が出ているというのが主として中性子による影響だというのも新聞等で報じられた通りです。 中性子線はエネルギー換算にして、γ線の約1840倍です。 α線は中性子のさらに4倍のエネルギーに 相当するのですが、α線は洋服1枚などで、通常は遮蔽されて しまいます。中性子の場合は電荷をもっていないので、 α線に比べて透過力が強く、影響も大きいのです ですから今回の事故は放射性物質がばらまかれたわけではなく、 反応により放射線がまきちらされた事故、というわけです。 (放射性物質が拡散していたらもっと大変です) 余談ですが、今回の重傷者は(1人は)その場にしゃがみこんで しまったほどの重傷ということですので、 ひょっとすると最悪の事態になってしまうかも。 ↑ 2000年になる直前となってしばらくして、2人がお亡くなりになられ、 この予想は現実のものとなってしまいました。ご冥福をお祈り致します。 〜原因究明編〜 さて、その事故の原因なのですが、 2.3kg制限のものを16kgも投入したということで、 ”人為ミスだ”と片づけてしまうのは早計なようです。 テレビ朝日のニュースを見ていたら、京都大学の小出さんという方が こんなことをおっしゃってました。 「「本来であったら、このような事故はたとえ人為ミスが あったにせよ、絶対におきてはいけない事故である。 むしろ、そういうミスがあったにせよそれを食い止める 装置がなくてはいけない。」」 完全には覚えてないのですが、概ねこんな感じです。 原子力というのは、”最悪の事態”が発生してもそれでも 起こり得ない事故(仮想事故っていうんだったかな?ちょっと自信なし) を想定した設計をする、というのがあるんです。(ちょっとわかりにくくてすいません) 乱暴な言い方をしてしまうと、 ”硝酸ウランを7倍入れた程度で、 臨界超過を起こすような施設の設計ではいけない。”のです。 これまた、小出さんが言っていたのですが、 「「その程度の設計であったら、そういった設計であることが まず間違っているし、また国もそれを許可してはいけない。」」 というのです。これも、もっともなことで、今回の事故があるということは ”国はなにしてるの?”っていう感じです。 事故の原因なんだけど、ウラン自体も放射性物質だから、放射線を出すわけです。 で、その時のエネルギーがウラン235の核分裂を引き起こしたとも考えられます。 ただ、これも仮説の一つであって、原子力自体が確率論 (ポアッソン分布に従う)なので、原因は”本来なら”断定できないはずですし、 また断定してはいけないはずなんです。 原因は、複数の事象が重なっていると考えるのが妥当だとおもわれます。 (少なくとも、私はそう考える。そして、 硝酸ウラン7倍注入はその複数の事象の1つと考える。) 〜周辺への影響〜 そして、周辺への影響なのですが、井戸水等の関係が痛いようですね。 水道水以外の水はしばらく使えないようです。 ただ、ウラン自体が大量に水にとけこんだということではないと 思いますので、その点は大丈夫だとは思います。 (万一、大量のウランが井戸水や地下水などに溶け込んでいたら 大変です。前の方で述べたとおり、半減期がとても長いのです。 235で約7億年、238で約45億年です。 つまり、人体に即座に影響を及ぼすほどのウランが入っていたらその水は、 我々が生きている間に使えることはないということです。) 雨も降ったことですから、核燃料施設そのものは別としても、 周辺の住民のみなさんは生活は次第に取り戻せると思います。 〜放射線対策〜 放射線からの対策です。 体を洗う。 服を洗う。 外では湿らせたマスクをする。 外のものには触れない。 などです。まぁ、テレビでもやってましたけどね。 体や服を洗うって以外と重要です。 100%これで完璧といくのかどうかはその放射性物質によっても 違うのですが、洗えば放射性物質って落ちるんですよ! 次の、湿らせたマスクっていうのは、放射性物質を吸入しないように ということですね。なぜ、湿らせるのかというと、 ”水が中性子の遮蔽に非常によい”のですよ。 エネルギーがそんなに高くない中性子を遮蔽するのに、 ”原子番号の低い物質”が有効なんです。つまり、水のなかのH(水素)がいいんです。 さいごのやつですが、これはまぁ”触らぬ神にたたりなし”ってとこじゃないですか? ちなみに、こっち(東京)のほうだと影響は考えなくていいと思いますよ。 〜間接的影響〜 結局あの事故なんですが、ちょっとヤバイような気がします。 あくまで私見ですが、これによってグリーンピースが またのさばるでしょ?原子力本来の有用性っていうものに 全然目が行ってないんですよ彼らは。この場合は、 彼らとは別に原発設置反対運動を起こす周辺住民も含まれます。 言い分は、わかるんだけど原発設置中止だけが解決の糸口じゃぁないんですよ。 その近くに、住んでること自体がリスクを背負うのなら それ自体に保証をしてもらえればいいし、それでもだめなら、 新しい住宅を保証してもらうとか、etcです。もっとも、彼らが ”電気を全く使用せず、電線すら地域ぐるみでお断りしている”なんて いうのだったら、原発設置中止も納得しますけどね。 (でも、どうせそこまで腹括ったことってやってないで、自分の都合がメインなんでしょ?) 日本の約4割の電力が原子力由来である今、 原子力がなくなることはないです(なくしたら、生活はストップする)。 だからこそ原子力を理解してもらう必要はあるんだけど、 その点においても今回の事故はヤバイねぇ。 原子力の威信・・、とまではいわないけど、せめて偏見がなくなるようにしないと (グリーンピースとかね)。 〜報道編〜 知人の方がこういうことをいってました。 「やっぱり”啓蒙”しかないんでしょうか・・・。 いまこそマスコミュニケーションの活躍するときだと思います。 新聞・テレビなどのメディアでしっかりとこの 事件の詳細や、日本の現在の状況、 この事件を通してのこれからの対応、などを伝えて欲しいです。 いたずらに恐怖をあおり立てるのはもってのほかです。 この前の埼玉ダイオキシンのような騒ぎは問題外です。」 このようにいっておられました。 でも、その後新聞を見てやっぱりダメだと思いました。というのも、 新聞に”「臨界の意味を知らなかった」と供述”とあったからです。 はっきりいって、私は信じてません! 難しい内容のことならいざしらず、臨界でしょう? この先(爆弾発言)はさすがに自粛しますが、 臨界の単語の意味は簡単ですもの。 知らないはずがありませんょ。 〜経済編〜 JCOさん(あえてこういう)、いろんなところから訴えられてますね。 周辺住民のみなさんから、”身体的被害を受けた”というのと、 ”茨城出荷ということで、作物が売れなくなった”っていうのが、代表格ですね。 あと、新聞で見たのが、事故現場から近いジャスコ3店が、今回の事故の影響により、 お客が減り、売り上げが激減した、というもの。 もうひとつ新聞に出ていたのが、JRですね。 運休せざるを得なくなり、売り上げ(でいいのかな?)が激減した、というもの。 自分が知ってるのはこれくらいだけど、細かいところとか探せば、もっと経済的被害はあるはずです。 で、私がこれをどう考えているかというと、 ”JCOの完敗”です。 ありきたりな意見だけど、やっぱりどう考えてもそうでしょう。 1次被害はもちろん、2次的被害のものまでは、まず請求が来るでしょう。 そして、2次的被害のものまでは、賠償としての支払命令が下る・・・・。 さすがに、3次的被害のものまでは、わからないけど、ひょっとしたら、 これも、JCO側の敗じゃないですかねぇ? 私が思うには、JCO側の責任がどうのこうのではなくて、 「被害請求がどのくらい来て、実際にどのくらい払うのか」 と、考えています。 〜番外編〜 私が原子力を専門としていない方から聞いた言葉で興味深かったものを2つ。 まず1つ。 「原発が必要か不必要かは世間が決めることではなくて、 時代が決めることのような気もする。」 自分は、全然考え付きませんでしたが、いわれてみるとそのような可能性は高いですね。 2つめ、 「あれは、事故じゃなくて事件だ!」 ここでのコメントはあえて避けますが、わかるきがします。 |